マルチ商法女と戦っていたら、もっととんでもないものと戦うことになってしまった件

青山済

文字の大きさ
22 / 62
第三章 サークル構成員吊し上げ作戦

第二十一話 ターリー、特 定 完 了

しおりを挟む
脳内で補完した漢字をFacebookの検索窓に打ち込む。表示されたアイコンは、Instagramと同じものだった。上野の西郷隆盛像の前に本人が立っている写真で、やや引きのアングルのため、写っている顔自体は小さいが、何度も見た顔で間違いない。

ようやく特定作業が終わった……。揺れる新幹線の座席で、済は一人ため息をついた。

ターリーの本名は「東尚之」。後で調べると市村や越島とフレンドになっていたのだが、あまりに本名とニックネームが違いすぎるのと、写真の顔が小さいので見落としていたらしい。キソコソ西田サロンについては、検索しても本人は出てこなかった。既に退会してしまったのかもしれない。

Facebookの投稿については格言やキソコソ西田の記事が中心で、めぼしい情報はなかったものの、プロフィールには過去の経歴が掲載されていた。新卒で大手メーカーに入社し、エンジニアとして働いている。十九歳で就職と書いてあるため、高卒で技術職に採用されたものと考えられる。この大手メーカーは四年程で退社し、「インフォエンジニアリング」という会社に転職していた。調べたところ、これはエンジニア派遣の会社だった。サークルでは勧誘の時間を捻出するため、派遣社員への転職を勧められることが多い。ターリーもこのパターンで大手メーカーを退職したのだろう。さらに、インフォエンジニアリングについても昨年退職しており、現在は何の仕事をしているか分からなかった。実に怪しい経歴である。

さらに本名でGoogle検索してみたところ、鹿児島の工業高校でラグビー部に所属し、試合に出場した記録が残っていた。どうりで体格が良いわけである。また、大手メーカー勤務時代に旋盤部門で技能五輪に出場していたことも分かり、工業高校の機械科から大手メーカーに採用されたと推測できた。そのまま技術者として働いていれば、社内で安定したキャリアを築けていたのではないかと済は思うのだが、一体何故こうなってしまったのか。人生の選択は本人の自由だが、半分マインドコントロールされた状態での退職となると、本人の意思と言えるか微妙な線である。大手メーカーを退職するように仕向けたのは師匠の越島だろう。人の人生を操ってまで金を巻き上げるとは、本当に罪深い集団である。済は少しターリーが可哀相に思えた。車窓を少しずつ移動する富士山を見ながらターリーの人生について想像するうち、気づくと済は自身の半生を思い出していた。

済は国立大修士を出ているが、生まれたのは柄の悪い地域だった。中学受験など話題にも登らなかったし、中学生にでもなればクラスの八割が不良、高卒で地元就職するのが当たり前だった。福岡県には学区が十三個もあり、公立の場合は学区内にしか進学できない。運悪く荒れた学区に生まれてしまうと、偏差値の高い高校を受験することすらできなかった。当然周囲の受験意識も低く、学区の成績はさらに下がる……これが繰り返されていた。そうした環境でも済が進学について考えられたのは、たまたま父親が転勤族で、中学受験をするのが当たり前の地域に一時期住んでいたからだ。さすがに私立中学に通わせるまでの財力はなかったが、幼い頃から済に教育投資を行い、高校受験時には別学区の親戚宅に住んでいることにして越境受験し、何とか地元から離れることができたのだった。

済の地元ではスクールカーストの上位が全て不良であり、成績優秀者は日陰者だった。このため成績優秀者は皆、逃げるように地元を後にした。済もそれを引きずっていたが、東京の大学に進学すると全く違う世界が待っていた。勉強をするのが当たり前の世界で育ち、趣味や部活にも真面目に取り組んできた学友達。隣の中学と喧嘩をしたり、万引している者が偉いとされるような価値観が蔓延していた、済の環境とは雲泥の差だった。そして、不良達が半ば洗脳されていたテレビや雑誌の会社に入るのも、SNSでキラキラした情報を流すのも、高学歴の人間達だった。地元の不良達は優等生を馬鹿にしていたが、不良達が成人すると、実際には彼らが羨む生活に触れることはできない。それは大人になった優等生達が享受する果実だったのだ。これは生育環境に恵まれるか、親族に大卒者がいなければ分からない感覚だろう。テレビがこの話をお茶の間にぶちまけることはまずない。仮に触れたとしても不良達が見る番組ではないだろう。この国は大学を卒業して都市圏に就職する人々と、高校を卒業して地元で就職する人々に分断されている。分断された環境に満足していれば問題ないが、地方から上京し、いきなりキラキラしたものを是とする価値観をぶつけられた時、人はどう思うのか。その人物が、もしも人生のレールを変えてキラキラした存在になりたいと思った場合、大学に入り直す、独立できる資格を目指して勉強するなど、具体的にアドバイスをくれる人物が近くにいれば良い。しかしそれがなかった時、「起業すれば全てうまくいく」と説くサークルしか頼りにできなかったのではないか。

済がこれまでの生き方と日本社会の分断について考え終わった時には、富士山は車窓の端に消えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...