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第四章 洗脳!自己啓発セミナー
第三十七話 潜入!自己啓発セミナー 一日目終了
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「私は最初、何と言いましたか。『より多くの点数を稼ぐこと』と言いましたね。」
梅田が厳しい口調で続ける。
「いいですか、私はこれが勝負だなんて一言も言っていませんよ!もしも点数を沢山取りたかったら、どうしたらいいですか?」
二、三人から、「お互いに黒を出せば……。」という声が上がる。
「そうです!それなのにあなた達は何ですか。相手に勝つことしか考えていなかったんじゃありませんか。これがここ、赤ばかりの結果に表れているんですよ。皆さんは普段から、競争して勝つこと、相手を倒すことしか考えず、相手と共に伸びていくことを考えていないんじゃないですか?いつからあなた達はそうなってしまったんですか。」
皆、教師に叱られた子供のように黙りこくっている。
「正しいルールに気付いていたのに傍観していた方も同じです。何故それを教えてあげなかったのですか。あなた達は、普段もそうやって、他人が誤ったことをしていても見て見ぬ振りをしてきたのではないですか。」
梅田の話が進むにつれ、周囲から何かを引きずるような音が聞こえてきた。ちらほらと、すすり泣いている人が出てきていたのだ。こんなわざとらしいゲームで何を馬鹿な、と思ってしまうかもしれないが、この特殊な空間にいると感情が昂ぶってしまうのである。これもまた、セミナーの狙い通りなのだ。
赤黒ゲームで全員が精神的に消耗してしまったため、その後はしばらく休憩となった。特殊な状況で責められたからか、ちらほらとロビーへ向かう人の他は、ほとんどの人が沈黙し座っている。
休憩後は各班に分かれて「分かち合い」を行うよう指示された。これは、要は今日の振り返りである。
若い四人はサークルに所属しているからか、「相手と一緒に頑張って成長しないと!」とか、「自分のことだけでなく、相手のことも考えたらサークルのことを教えてあげたほうがいい」などと言っている。いかにこのセミナーがマルチ商法と相性が良いのか分かる。
一方、ワンさんは「これまでの人生を思い出して、何だか辛くなってしまった。」と疲れ切った顔で言っていた。普通の人はこんなものだろうと思う。
これが今日の最後のワークで、当初予定の八時より一時間ほど早く終了した。よほど進行がスムーズだったのだろうか。
梅田からは、終了前に「今日感じたことを誰かと共有すること」、「明日、必ず定刻までに会場に到着するとパートナーと誓うこと」という宿題が出された。
◇
その日は、会場から出た時点でふらふらになっているくらい疲れ果てていた。体力的な疲れというよりは、精神的な疲れが大きい。窓からの光が一切入らない閉鎖空間で、あれだけきついワークショップをこなしたのは初めてだったので、記者というハードな仕事をこなしている陽子といえどもかなり消耗していた。
まともな食事をする力もなく、帰宅してすぐ、コンビニで買ってきたおにぎりを食べた。軽くシャワーを浴びると、ほんの少し元気が回復する。
梅田から「今日感じたことを誰かと共有すること」なる宿題が出されていたため、一応済に今日のことを話すことにした。とはいっても、宿題がなくても報告するつもりだったが。LINEで音声通話を発信する。
「もしもし。」
「もしもし。おっ杉永さん、行ってきた!?」
「行ってきた行ってきた。もうめちゃめちゃ疲れた。わけのわからないゲームが続いてくたくた……。でも、狭い空間に閉じ込められてやられると、何だか意味があるように思えるから不思議。」
「そりゃ、一応は心理学の研究所で行われた研究が元になってるらしいからね。まあ、ほとんどの人は終わったらすぐに効果がなくなっちゃうけど。中には自己啓発セミナーに通い続ける人もいるらしいよ。何万もするのによくやるね。」
「細かいところはちょっと違ったけど、事前に青山さんから言われた内容とほとんど同じでびっくりしちゃった。本当にバリエーションがないんだね。」
「MASKは特に、ライフ・ダイナミックスの直系子孫と言って良いからね。何しろ代表の梅田が元々そこのトレーナーだったんだから。日本自己啓発セミナーの王道中の王道と言って良いかもしれない。それに、新しいワークを生み出そうとしたって、一回精神を揺さぶる必要がある形式でしょ?非人道的な一面があるから、今新しく研究するのは難しいんじゃないかな。ちょっと違うかもしれないけど、スタンフォード監獄実験みたいなさ。」
※スタンフォード監獄実験:1971年にスタンフォード大学心理学部によって行われた実験。被験者を看守役と受刑者役に分け、刑務所に似せた建物の中で演技をさせたところ、自然と看守役は看守らしく、受刑者役は受刑者らしく振る舞うようになり、看守役が自ら受刑者役に罰を与えるようにまでなったというもの。映画や小説のモデルにもなっているが、実際には実験を主導した心理学者が残酷な看守として振る舞うよう積極的に働きかけていたという説もある。
「恐ろしい話ねえ。ほとんど洗脳研究じゃん。」
「あ、そうそう妹さんは見つかりそう?」
「全然。潜入したけどヒントさえ見つからない。変なことになってないといいけど……。今日はめちゃめちゃ疲れたから、また明日ね。」
通話を切ると、すぐに眠気が襲ってきた。
梅田が厳しい口調で続ける。
「いいですか、私はこれが勝負だなんて一言も言っていませんよ!もしも点数を沢山取りたかったら、どうしたらいいですか?」
二、三人から、「お互いに黒を出せば……。」という声が上がる。
「そうです!それなのにあなた達は何ですか。相手に勝つことしか考えていなかったんじゃありませんか。これがここ、赤ばかりの結果に表れているんですよ。皆さんは普段から、競争して勝つこと、相手を倒すことしか考えず、相手と共に伸びていくことを考えていないんじゃないですか?いつからあなた達はそうなってしまったんですか。」
皆、教師に叱られた子供のように黙りこくっている。
「正しいルールに気付いていたのに傍観していた方も同じです。何故それを教えてあげなかったのですか。あなた達は、普段もそうやって、他人が誤ったことをしていても見て見ぬ振りをしてきたのではないですか。」
梅田の話が進むにつれ、周囲から何かを引きずるような音が聞こえてきた。ちらほらと、すすり泣いている人が出てきていたのだ。こんなわざとらしいゲームで何を馬鹿な、と思ってしまうかもしれないが、この特殊な空間にいると感情が昂ぶってしまうのである。これもまた、セミナーの狙い通りなのだ。
赤黒ゲームで全員が精神的に消耗してしまったため、その後はしばらく休憩となった。特殊な状況で責められたからか、ちらほらとロビーへ向かう人の他は、ほとんどの人が沈黙し座っている。
休憩後は各班に分かれて「分かち合い」を行うよう指示された。これは、要は今日の振り返りである。
若い四人はサークルに所属しているからか、「相手と一緒に頑張って成長しないと!」とか、「自分のことだけでなく、相手のことも考えたらサークルのことを教えてあげたほうがいい」などと言っている。いかにこのセミナーがマルチ商法と相性が良いのか分かる。
一方、ワンさんは「これまでの人生を思い出して、何だか辛くなってしまった。」と疲れ切った顔で言っていた。普通の人はこんなものだろうと思う。
これが今日の最後のワークで、当初予定の八時より一時間ほど早く終了した。よほど進行がスムーズだったのだろうか。
梅田からは、終了前に「今日感じたことを誰かと共有すること」、「明日、必ず定刻までに会場に到着するとパートナーと誓うこと」という宿題が出された。
◇
その日は、会場から出た時点でふらふらになっているくらい疲れ果てていた。体力的な疲れというよりは、精神的な疲れが大きい。窓からの光が一切入らない閉鎖空間で、あれだけきついワークショップをこなしたのは初めてだったので、記者というハードな仕事をこなしている陽子といえどもかなり消耗していた。
まともな食事をする力もなく、帰宅してすぐ、コンビニで買ってきたおにぎりを食べた。軽くシャワーを浴びると、ほんの少し元気が回復する。
梅田から「今日感じたことを誰かと共有すること」なる宿題が出されていたため、一応済に今日のことを話すことにした。とはいっても、宿題がなくても報告するつもりだったが。LINEで音声通話を発信する。
「もしもし。」
「もしもし。おっ杉永さん、行ってきた!?」
「行ってきた行ってきた。もうめちゃめちゃ疲れた。わけのわからないゲームが続いてくたくた……。でも、狭い空間に閉じ込められてやられると、何だか意味があるように思えるから不思議。」
「そりゃ、一応は心理学の研究所で行われた研究が元になってるらしいからね。まあ、ほとんどの人は終わったらすぐに効果がなくなっちゃうけど。中には自己啓発セミナーに通い続ける人もいるらしいよ。何万もするのによくやるね。」
「細かいところはちょっと違ったけど、事前に青山さんから言われた内容とほとんど同じでびっくりしちゃった。本当にバリエーションがないんだね。」
「MASKは特に、ライフ・ダイナミックスの直系子孫と言って良いからね。何しろ代表の梅田が元々そこのトレーナーだったんだから。日本自己啓発セミナーの王道中の王道と言って良いかもしれない。それに、新しいワークを生み出そうとしたって、一回精神を揺さぶる必要がある形式でしょ?非人道的な一面があるから、今新しく研究するのは難しいんじゃないかな。ちょっと違うかもしれないけど、スタンフォード監獄実験みたいなさ。」
※スタンフォード監獄実験:1971年にスタンフォード大学心理学部によって行われた実験。被験者を看守役と受刑者役に分け、刑務所に似せた建物の中で演技をさせたところ、自然と看守役は看守らしく、受刑者役は受刑者らしく振る舞うようになり、看守役が自ら受刑者役に罰を与えるようにまでなったというもの。映画や小説のモデルにもなっているが、実際には実験を主導した心理学者が残酷な看守として振る舞うよう積極的に働きかけていたという説もある。
「恐ろしい話ねえ。ほとんど洗脳研究じゃん。」
「あ、そうそう妹さんは見つかりそう?」
「全然。潜入したけどヒントさえ見つからない。変なことになってないといいけど……。今日はめちゃめちゃ疲れたから、また明日ね。」
通話を切ると、すぐに眠気が襲ってきた。
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