40 / 62
第四章 洗脳!自己啓発セミナー
第三十九話 潜入!自己啓発セミナー 二日目② 秘密の開示
しおりを挟む
「もし、あなたの人生が全てあなたの選択の結果であり、他人があなたの鏡だとしたらどうでしょう。あなたは知らず知らずのうちに、相手にそうするきっかけを与えてしまったのではないでしょうか?」
どうやら、ここで求められていた「被害」とは、他人に理不尽に怒られたとか、何かを禁止されたといったことのようだ。陽子達のように、明らかに相手が悪い悪徳商法の場合は、引っ掛かったこちらも少し悪いくらいのことで、特段反省するところはない。
ところがアキは、一生懸命にこちらの落ち度を考えていた。
「うーん、こちらがもう少しはっきりと欲しくないって示しておけばあんなに強引にやられることはなかったのかも。というか、私の雰囲気がそうさせたのかも?」
陽子は、(どう考えてもただただエウリアンが悪いよ……。)と思ったが、セミナーの流れを妨げないため、黙って聞いていた。
周囲からは、「自分のこんな態度が相手にとって不快だったのかもしれない」、「こんな言動が相手に誤解を与えたのかもしれない」といった話し合いが聞こえてくる。
このセミナーでは、とにかく「自分に原因がある」という考え方を繰り返し教え込まれるが、これもその一環なのだろう。
その後、「イヤ感」というものが取り上げられた。
「イヤ感」とは、否定的な感情のことだ。梅田が「こんな気分になりたくない、というものを挙げていきましょう。」と呼びかけると、「悲しい」「怖い」「辛い」「寂しい」といった言葉があちこちから出てきた。梅田はそれらをホワイトボードにまとめ、ひとまとめにして「イヤ感」と大書した。そして、これらの解消法として「逃避」「分析」「傍観」「転嫁」「昇華」が書かれ、昇華以外は全て消極的方法であると説かれた。とにかく、嫌なことから逃げてはいけないらしい。これもまた、会員を勧誘へと向かわせるのにとても便利な考え方に思えた。
「イヤ感」の話が終わると昼食の時間となった。昨日と同じくグループに分かれて食べる。二日目ともなるとお互いのことがある程度分かってきており、打ち解けた雰囲気である。
昼食後は班ごとに分かれて座るように指示され、それぞれ車座になった。
「皆さんはまだ、本当の自分を出せていないように思えます。そのような態度ではこのセミナー、うまくいきません。そこでこれからの時間では、皆さんに誰にも言えない秘密を打ち明けてもらいます。」
誰にも言えない秘密……。陽子にとっての秘密は勿論、妹がMASKのものと思われるシェアハウスで行方不明になっており、真の参加目的は潜入であるということだが、まさかこれをバラすわけにはいかない。しばらく様子を見ていると、ワンから秘密を打ち明けることになった。ワンはその場に立ち上がり、会社の経営自体はうまくいっているものの、家庭内に不安があり、熟年離婚しそうなことを打ち明けた。ラクロスやゴンからは、「経営者って大変ですもんね」、「会社をうまく回しているのは凄いと思います」などと、さも経営について知っているかのような声が漏れた。
ワンの話に対する周囲の反応を聞き流しながら周囲をちらちらと伺っていると、梅田とアシスタントが何か意味ありげな表情をしているのが目に入った。嫌な予感がした陽子は、早めに話すことにし、「実は自分は新興宗教の二世で、親と決別している」という嘘をでっちあげた。どうせ偽名だし、セミナーの間にばれることもないだろう。
陽子の話が終わったところで、梅田から鋭い声が飛んできた。
「これまで秘密を聞いてきましたが、あなた方が持っている秘密というのはそんなものなのですか?まだ何かを隠しているのではないですか?今日この場にいるチームメンバーとは、本気で!腹を割って話して下さい。」
それぞれの班に着いたアシスタントからも煽りが入る。とはいってもこんな得体の知れない連中がいる中で、おいそれと危ない秘密など話せるか……などと陽子が考えていた時だ。周囲の雰囲気に飲まれたのか、ラクロスが思いつめた顔で立ち上がった。
「私……、実は自己投資に見合うキャッシュフローがなくて、それで……風俗で働いてます!」
突然の性的な告白に動揺したが、そう言えば済からそんな話を聞いていたことを思い出した。自己投資の支出を補うため、男性は居酒屋、女性は風俗でダブルワークすることが多いと。
少し歳上に見えるアカリンから、「大丈夫、私も昔やっていたわ!」とそれを肯定する言葉が返される。職業に貴賎はないので確かに問題はないのかもしれないが、師匠への上納金が足りないからという状況はどうなのか。
気付くと周囲は自己投資に関する打ち明け話だらけになっていた。ダブルワーク、風俗、パパ活……。普段面と向かって聞くことのない話が次々と放たれセミナールームを渦巻始める。段々と会場の空気が異常さを増す中、ラクロスを引き継いだアカリンが立ち上がって絶叫した。
「私、妻子のある師匠と不倫してます!!」
側にいるアシスタントを見ると、満足そうに頷き、「よく秘密を打ち明けましたね。」などと言っている。カーテンで日光が遮られ、密閉されたこの部屋にはまるで治外法権があるかのような空気が充満していた。アカリンの言葉を聞いてゴンは「俺も!」と言って立ち、
「俺も、三十くらい歳上の女性師匠の愛人やってます!おかげで自己投資のぶんはタダにしてもらってます!!」
と叫んだ。陽子が驚いたのは、こうした発言が飛び出るのがこの班だけではないことだ。近くのチームからもほとんど同じ話が聞こえてくる。サークルの本当の闇を垣間見た気がした。ワンを見ると、あまりにも乱れた性の告白に呆然としていた。
卑猥な告白に「大丈夫!」と言い合う空間は異様な熱狂に包まれ、まるでセックス教団の合宿のようだった。お互いに際どい話を共有して受け入れ合う様子は、自己啓発セミナーというよりは何かのセラピーのようだ。
全ての班で秘密の共有が終わり、梅田が「皆さん、ようやく本当の自分を出せましたね。全てをむき出しにしなければなりませんよ。」と言ってその場を締めくくると、熱を冷ますかのように短めの休憩に入った。
どうやら、ここで求められていた「被害」とは、他人に理不尽に怒られたとか、何かを禁止されたといったことのようだ。陽子達のように、明らかに相手が悪い悪徳商法の場合は、引っ掛かったこちらも少し悪いくらいのことで、特段反省するところはない。
ところがアキは、一生懸命にこちらの落ち度を考えていた。
「うーん、こちらがもう少しはっきりと欲しくないって示しておけばあんなに強引にやられることはなかったのかも。というか、私の雰囲気がそうさせたのかも?」
陽子は、(どう考えてもただただエウリアンが悪いよ……。)と思ったが、セミナーの流れを妨げないため、黙って聞いていた。
周囲からは、「自分のこんな態度が相手にとって不快だったのかもしれない」、「こんな言動が相手に誤解を与えたのかもしれない」といった話し合いが聞こえてくる。
このセミナーでは、とにかく「自分に原因がある」という考え方を繰り返し教え込まれるが、これもその一環なのだろう。
その後、「イヤ感」というものが取り上げられた。
「イヤ感」とは、否定的な感情のことだ。梅田が「こんな気分になりたくない、というものを挙げていきましょう。」と呼びかけると、「悲しい」「怖い」「辛い」「寂しい」といった言葉があちこちから出てきた。梅田はそれらをホワイトボードにまとめ、ひとまとめにして「イヤ感」と大書した。そして、これらの解消法として「逃避」「分析」「傍観」「転嫁」「昇華」が書かれ、昇華以外は全て消極的方法であると説かれた。とにかく、嫌なことから逃げてはいけないらしい。これもまた、会員を勧誘へと向かわせるのにとても便利な考え方に思えた。
「イヤ感」の話が終わると昼食の時間となった。昨日と同じくグループに分かれて食べる。二日目ともなるとお互いのことがある程度分かってきており、打ち解けた雰囲気である。
昼食後は班ごとに分かれて座るように指示され、それぞれ車座になった。
「皆さんはまだ、本当の自分を出せていないように思えます。そのような態度ではこのセミナー、うまくいきません。そこでこれからの時間では、皆さんに誰にも言えない秘密を打ち明けてもらいます。」
誰にも言えない秘密……。陽子にとっての秘密は勿論、妹がMASKのものと思われるシェアハウスで行方不明になっており、真の参加目的は潜入であるということだが、まさかこれをバラすわけにはいかない。しばらく様子を見ていると、ワンから秘密を打ち明けることになった。ワンはその場に立ち上がり、会社の経営自体はうまくいっているものの、家庭内に不安があり、熟年離婚しそうなことを打ち明けた。ラクロスやゴンからは、「経営者って大変ですもんね」、「会社をうまく回しているのは凄いと思います」などと、さも経営について知っているかのような声が漏れた。
ワンの話に対する周囲の反応を聞き流しながら周囲をちらちらと伺っていると、梅田とアシスタントが何か意味ありげな表情をしているのが目に入った。嫌な予感がした陽子は、早めに話すことにし、「実は自分は新興宗教の二世で、親と決別している」という嘘をでっちあげた。どうせ偽名だし、セミナーの間にばれることもないだろう。
陽子の話が終わったところで、梅田から鋭い声が飛んできた。
「これまで秘密を聞いてきましたが、あなた方が持っている秘密というのはそんなものなのですか?まだ何かを隠しているのではないですか?今日この場にいるチームメンバーとは、本気で!腹を割って話して下さい。」
それぞれの班に着いたアシスタントからも煽りが入る。とはいってもこんな得体の知れない連中がいる中で、おいそれと危ない秘密など話せるか……などと陽子が考えていた時だ。周囲の雰囲気に飲まれたのか、ラクロスが思いつめた顔で立ち上がった。
「私……、実は自己投資に見合うキャッシュフローがなくて、それで……風俗で働いてます!」
突然の性的な告白に動揺したが、そう言えば済からそんな話を聞いていたことを思い出した。自己投資の支出を補うため、男性は居酒屋、女性は風俗でダブルワークすることが多いと。
少し歳上に見えるアカリンから、「大丈夫、私も昔やっていたわ!」とそれを肯定する言葉が返される。職業に貴賎はないので確かに問題はないのかもしれないが、師匠への上納金が足りないからという状況はどうなのか。
気付くと周囲は自己投資に関する打ち明け話だらけになっていた。ダブルワーク、風俗、パパ活……。普段面と向かって聞くことのない話が次々と放たれセミナールームを渦巻始める。段々と会場の空気が異常さを増す中、ラクロスを引き継いだアカリンが立ち上がって絶叫した。
「私、妻子のある師匠と不倫してます!!」
側にいるアシスタントを見ると、満足そうに頷き、「よく秘密を打ち明けましたね。」などと言っている。カーテンで日光が遮られ、密閉されたこの部屋にはまるで治外法権があるかのような空気が充満していた。アカリンの言葉を聞いてゴンは「俺も!」と言って立ち、
「俺も、三十くらい歳上の女性師匠の愛人やってます!おかげで自己投資のぶんはタダにしてもらってます!!」
と叫んだ。陽子が驚いたのは、こうした発言が飛び出るのがこの班だけではないことだ。近くのチームからもほとんど同じ話が聞こえてくる。サークルの本当の闇を垣間見た気がした。ワンを見ると、あまりにも乱れた性の告白に呆然としていた。
卑猥な告白に「大丈夫!」と言い合う空間は異様な熱狂に包まれ、まるでセックス教団の合宿のようだった。お互いに際どい話を共有して受け入れ合う様子は、自己啓発セミナーというよりは何かのセラピーのようだ。
全ての班で秘密の共有が終わり、梅田が「皆さん、ようやく本当の自分を出せましたね。全てをむき出しにしなければなりませんよ。」と言ってその場を締めくくると、熱を冷ますかのように短めの休憩に入った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる