マルチ商法女と戦っていたら、もっととんでもないものと戦うことになってしまった件

青山済

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第五章 恐怖!カルト宗教

第四十九話 「クリアーですか!」「クリアーでーす!!!!」

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月例集会は三階のホールで行われた。このビルは思ったより奥行きがあり、ホールは百五十人程度が入れそうなくらいの広さがあった。床はカーペット敷きになっており、座っても痛くない。部屋の壁は真っ白で、奥の壁には教団のマークが大きく描かれていた。その手前に木の講師台が置いてある。

済は少し早めに入り、最前列に座った。スパイカメラで教祖の顔を撮影するためだ。開始時間の午後二時が近づくとぞろぞろと信者が集まり始め、気付くとホールは満員になっていた。それなりに信者はいるらしい。集会と聞いて、オウム真理教のようなゆったりとした白い服をイメージしていたが、皆普通の服装をしている。年齢層は三十代から五十代といったところか。

しばらく座って待っていると、二時を少し過ぎたところで教会を思わせる音楽が流れ、白いローブを着た女性が入ってきた。歳は五十代くらい、色白で痩せている。この人物が教祖の天道加世か。ローブの前面には大きく教団のマークが入っている。すかさず腕時計型スパイカメラのスイッチを入れた。

教祖が講師台につくと、ホール中から割れんばかりの拍手が起こった。この拍手が長く、済は驚いた。軽く二分はやっていたように思う。長い拍手は仏教系新興宗教で聞いたことがあるが、科学の道も仏教を取り入れているのだろうか。

拍手が止むと、教祖が突然大声を出した。

「皆さん!クリアーですかー!!」

教祖の声に応じて、地響きのような大合唱が済の耳をつんざいた。

「クリアーでーーす!!!!!」

(法の華三法行かよっ!!!!)
※法の華三法行:昭和五十五年に設立された新興宗教団体。ライフスペースと同じく、「億万長者養成道場」、「右脳塾院」といった看板を掲げて自己啓発セミナーを行っていた。過酷なセミナーで参加者を精神的・肉体的に追い詰め、シンプルなスローガンを連呼されるマインドコントロール手法を用いて高額の費用を巻き上げていたことが問題となり、後に教祖である福永法源をはじめとした幹部が詐欺罪で摘発された。この際、テレビで繰り返し放送された「最高ですかー!」「最高でーす!!」というやり取りはあまりにも有名。摘発により解散したものの、残党が活動を継続していた上、福永法源が平成二十六年に出所。現在も「第3救済 慈喜徳会」、およびそこから分派した「天喜びの大樹」として活動中。

このやり取りが四回、五回と繰り返され、早くもカルトめいた空気が充満してきたところで、後ろから楽譜を持った女性達が前に出てきた。教会で言うところの賛美歌タイムのようだ。

女性達は、綺麗な声で「心のー扉が開くー」などと歌っているのだが、想像していたような教会音楽ではなく、どう聞いても「We Are The World」のパクリ、もといオマージュだった。ここでは何でもありらしい。まあ、オウム真理教も「宇宙戦艦ヤマト」を短調から長調に変えただけの「救えオウム ヤマトのように」なんていう曲を作っていたのだから似たようなものだ。

賛美歌タイムが終わると天道加世はにっこりと微笑み、「今月は、私達に新しい仲間が加わりました。青山済さん!」と言った。

突然の指名に驚いたが、済は言われるまま前に出ていった。

「青山さん、私達の仲間となり、本当におめでとうございます。一言どうぞ。」

一言と言われてもそんなに思い入れはないのだが、ここで怪しまれても困る。壇上から見える信者達は皆ニコニコとしており、少し不気味だ。とりあえずそれらしい発言をした。

「始めまして、青山と申します。私は先日カウンセリングを受け、人生で初めて穏やかな、それでいてすっきりした気分になれました。救われたというか……。まだまだ勉強が足りませんが、科学の道で世界の真理を追求したいと思います。よろしくお願いします。」

済が何とか言葉をひねり出すと、「おめでとう!」「おめでとうー!!」という声が会場中から飛んできた。一体何がめでたいのかさっぱり分からなかったが、そのまま一礼し、戻りながら会場をさりげなく見回していた時のことだった。視界の隅にある人物が目に入り、済はドキッとした。

こしじが部屋の端の方に座っていた。サークル構成員だろうと問い詰めた、市村の師匠だ。顔に笑みを浮かべながら、他の信者と同じく「おめでとう!」と言っている。一瞬バレたかと思い焦ったが、向こうは全く気付いていない様子だった。パーティーで一瞬顔を合わせただけの人間など覚えていないのだろう。それにしても何故こしじが……?と思った時、市村の言葉を思い出した。

「――上のほうまでいくと教えてもらえる、サークルの真髄となる教えがあるらしいんですよ。」

もしかして、「本当の教え」とは科学の道の教義のことだろうか。ここにいる人間の多くはサークルの上位者なのかもしれない。そうだとすると、二週間前にほとんど人がいなかったのも納得がいく。あの日は月初の週末で、サークルの会員は幕張メッセに行っているはずだからだ。

元座っていた場所に戻り、考えを巡らせていると教祖の講話が始まった。「ダイナミックス」を開き、世間話も交えながら科学の道の理論を再確認している。

講話が終わると休憩に入った。済はふと思いつき、休憩の間に最前列から最後列に場所を移動することにした。トイレに行くふりをしてホールを去り、事務所を漁ってみようと思ったのだ。
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