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第12章 悪魔の起床
北陸地方、加賀(かが)。
降りしきる雪の中、一騎の伝令がボロボロになりながら砦の門を叩いた。
ここは、ジョン・ギャレットが前線基地として接収した一向一揆の元拠点である。
「報告! 報告ぅ!」
伝令兵は、広間に座る巨漢の男の前に転がり出た。
暖炉には薪がくべられ、ギャレットは愛用のナイフでリンゴを削りながら、顔も上げずに聞いた。
「……Report.(報告せよ)」
「は、はい! 赤松・別所連合軍五千、壊滅いたしました!」
「壊滅? 全滅したという意味か?」
「いえ、死者は半数、残りは逃散……。敵の『塹壕』と『鉄の雨』の前に、指一本触れることができなかったと……」
ギャレットの手が止まった。
ナイフがリンゴに深く突き刺さる。
「塹壕(Trench)だと?」
ギャレットはゆっくりと立ち上がり、伝令兵を見下ろした。
「侍が塹壕を掘ったのか? 騎馬突撃の名誉を捨てて、泥の中を這いずり回ったのか?」
「は、はい。それに、敵は見たこともない『天から降る爆弾』を……」
――臼砲(Mortar)だ。
ギャレットの碧眼に、冷たい怒りと、それ以上の「愉悦」が浮かび上がった。
間違いない。相手はただの歴史マニアじゃない。
近代戦のドクトリン(教義)を理解し、それをこの未開の地で実践できるレベルの指揮官だ。
「He is real.(奴は本物だ)」
ギャレットは笑い出した。低く、腹の底から響くような笑い声だ。
代理戦争で消耗させるつもりだったが、そんな小細工が通じる相手ではない。
彼はリンゴをかじり、部下に命じた。
「総員、起こせ」
「は……? い、今からですか?」
「そうだ。遊びは終わりだ。俺の『黒の軍団(ブラック・レギオン)』を出す」
***
翌朝。
加賀の雪原を、異様な軍団が埋め尽くしていた。
総勢一万二千。
だが、その装備は戦国時代のそれではない。
彼らは、ギャレットが持ち込んだ知識で精製された「黒色火薬」と、略奪した鉄で作られた「板金鎧(プレートアーマー)」で全身を覆っていた。
そして、その中核にあるのは――。
ガラガラと重い音を立てて引かれてくる、巨大な荷車。
その上には、複数の銃身を束ねた黒鉄の塊が鎮座している。
まだ手回し式で、故障も多い試作品だが、その制圧力は火縄銃千丁に匹敵する。
『ガトリング砲(初期型)』。
さらに、ドラム缶のような容器を背負った兵士たち。彼らが持つ筒からは、いつでも地獄の炎を吐き出せる準備が整っている。
『火炎放射兵(フレイム・トルーパー)』。
ギャレットは、改造した大型馬(道産子とアラブ種の交配種)に跨り、軍団の先頭に立った。
彼は懐から無線機を取り出した。応答はないかもしれないが、相手も聞いているはずだ。
「……こちらギャレット。聞こえているか、ドクター・タカノ」
ザザッ、というノイズの向こうで、椎葉の司令室にいるであろう博史に向けて、彼は告げた。
「お前は俺のプレゼント(五千の兵)を拒否した。だから、今度は俺自身が届けに行ってやる」
「俺の軍団は止まらない。女も子供も、お前の大事な『民主主義』とやらも、全て灰にしてやる」
ギャレットは無線機を握り潰さんばかりに力を込め、そして空に向かって吠えた。
「Move out!(全軍、進軍せよ!)」
ドォォォォ……。
一万二千の軍靴の音が、地響きとなって南へと向かう。
その進路にある村や町は、もはや略奪の対象ですらない。ただ踏み潰されるだけの道だ。
北の空が暗く濁る。
それは雪雲ではなく、黒い悪魔が撒き散らす硝煙と殺意だった。
日本の歴史上、かつてない規模の「近代兵器同士の衝突」が、目前に迫っていた。
(第12章 完)
降りしきる雪の中、一騎の伝令がボロボロになりながら砦の門を叩いた。
ここは、ジョン・ギャレットが前線基地として接収した一向一揆の元拠点である。
「報告! 報告ぅ!」
伝令兵は、広間に座る巨漢の男の前に転がり出た。
暖炉には薪がくべられ、ギャレットは愛用のナイフでリンゴを削りながら、顔も上げずに聞いた。
「……Report.(報告せよ)」
「は、はい! 赤松・別所連合軍五千、壊滅いたしました!」
「壊滅? 全滅したという意味か?」
「いえ、死者は半数、残りは逃散……。敵の『塹壕』と『鉄の雨』の前に、指一本触れることができなかったと……」
ギャレットの手が止まった。
ナイフがリンゴに深く突き刺さる。
「塹壕(Trench)だと?」
ギャレットはゆっくりと立ち上がり、伝令兵を見下ろした。
「侍が塹壕を掘ったのか? 騎馬突撃の名誉を捨てて、泥の中を這いずり回ったのか?」
「は、はい。それに、敵は見たこともない『天から降る爆弾』を……」
――臼砲(Mortar)だ。
ギャレットの碧眼に、冷たい怒りと、それ以上の「愉悦」が浮かび上がった。
間違いない。相手はただの歴史マニアじゃない。
近代戦のドクトリン(教義)を理解し、それをこの未開の地で実践できるレベルの指揮官だ。
「He is real.(奴は本物だ)」
ギャレットは笑い出した。低く、腹の底から響くような笑い声だ。
代理戦争で消耗させるつもりだったが、そんな小細工が通じる相手ではない。
彼はリンゴをかじり、部下に命じた。
「総員、起こせ」
「は……? い、今からですか?」
「そうだ。遊びは終わりだ。俺の『黒の軍団(ブラック・レギオン)』を出す」
***
翌朝。
加賀の雪原を、異様な軍団が埋め尽くしていた。
総勢一万二千。
だが、その装備は戦国時代のそれではない。
彼らは、ギャレットが持ち込んだ知識で精製された「黒色火薬」と、略奪した鉄で作られた「板金鎧(プレートアーマー)」で全身を覆っていた。
そして、その中核にあるのは――。
ガラガラと重い音を立てて引かれてくる、巨大な荷車。
その上には、複数の銃身を束ねた黒鉄の塊が鎮座している。
まだ手回し式で、故障も多い試作品だが、その制圧力は火縄銃千丁に匹敵する。
『ガトリング砲(初期型)』。
さらに、ドラム缶のような容器を背負った兵士たち。彼らが持つ筒からは、いつでも地獄の炎を吐き出せる準備が整っている。
『火炎放射兵(フレイム・トルーパー)』。
ギャレットは、改造した大型馬(道産子とアラブ種の交配種)に跨り、軍団の先頭に立った。
彼は懐から無線機を取り出した。応答はないかもしれないが、相手も聞いているはずだ。
「……こちらギャレット。聞こえているか、ドクター・タカノ」
ザザッ、というノイズの向こうで、椎葉の司令室にいるであろう博史に向けて、彼は告げた。
「お前は俺のプレゼント(五千の兵)を拒否した。だから、今度は俺自身が届けに行ってやる」
「俺の軍団は止まらない。女も子供も、お前の大事な『民主主義』とやらも、全て灰にしてやる」
ギャレットは無線機を握り潰さんばかりに力を込め、そして空に向かって吠えた。
「Move out!(全軍、進軍せよ!)」
ドォォォォ……。
一万二千の軍靴の音が、地響きとなって南へと向かう。
その進路にある村や町は、もはや略奪の対象ですらない。ただ踏み潰されるだけの道だ。
北の空が暗く濁る。
それは雪雲ではなく、黒い悪魔が撒き散らす硝煙と殺意だった。
日本の歴史上、かつてない規模の「近代兵器同士の衝突」が、目前に迫っていた。
(第12章 完)
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