27 / 60
第27章 鉄の番人
ズガァァァァンッ!!
蒸気戦車『建御雷(タケミカヅチ)』の主砲が、至近距離から城門の蝶番(ちょうつがい)を吹き飛ばした。
巨大な鉄の扉が、重苦しい音を立てて内側へと倒れ込む。
「突入! 止まるな、押し込め!」
博史の号令で、戦車が黒煙を吐きながら城内へと侵入する。
続いて、泥だらけの歩兵部隊が雪崩れ込んだ。
城の中庭。
そこは、異様な光景だった。日本庭園など見る影もなく、地面は踏み固められ、中庭をぐるりと囲むように**「鉄のレール」**が敷設されている。
「……なんだ、あれは」
博史が前方確認窓から目を凝らす。
中庭の奥から、シュッシュッ……という排気音と共に、黒い鉄の塊が近づいてきた。
それは巨大ロボットでも戦艦でもない。
厚い鉄板で完全に装甲された、**『装甲列車(アーマード・トレイン)』**だった。
先頭の機関車が牽引するのは、銃眼が無数に開いた二両の客車と、中央に回転式の砲塔を備えた貨車だ。
『Welcome, Doctor.(ようこそ、博士)』
城内スピーカーからギャレットの声が響く。
『我が領土を結ぶ鉄道網の要だ。歓迎しよう』
ババババババッ!!!
挨拶代わりとばかりに、列車側面から突き出た複数のガトリング砲が火を噴いた。
中庭は遮蔽物が少ない。弾丸が石畳を削り、歩兵たちをなぎ倒す。
「散開! 物陰に隠れろ!」
博史が叫ぶ。
装甲列車はレールの上を走り続け、常に移動しながら弾幕を張ってくる。移動要塞だ。こちらの攻撃を当てにくく、向こうの射線は通り続ける。
「大将! 主砲で撃ち抜きましょう!」
操縦士が叫ぶが、博史は冷静に首を横に振った。
「ダメだ。相手は常に動いている上に、装甲に傾斜がついている。弾かれるぞ」
その時、列車の中央砲塔が旋回し、太い砲口をこちらに向けた。
アームストロング砲だ。
ドォンッ!!
砲弾が『建御雷』のすぐ横に着弾。
爆風で重量二十トンの車体が浮き上がり、博史は壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
「装甲板、亀裂! 次、直撃したら貫通します!」
このままではジリ貧だ。
戦車の足(キャタピラ)は遅く、列車の速度には追いつけない。かといって撃ち合えば、手数で負ける。
(弱点はどこだ? ボイラーか? 車輪か?)
博史は揺れる視界で敵を観察した。
列車の弱点は「レールの上しか動けない」ことだ。だが、レールを破壊しようにも、敵の弾幕が激しすぎて狙いを定められない。
「……賭けに出るぞ」
博史は操縦士の肩を掴んだ。
「全速前進。敵の『内側』に飛び込む」
「はぁ!? 蜂の巣になりますよ!」
「中庭の中央だ! レールのカーブの内側に入れば、砲塔の旋回が追いつかない死角ができる!」
『建御雷』が黒煙を吹き上げ、決死の突進を開始した。
ガトリング砲の弾丸が雨のように装甲を叩く。カンカンカンッ! と耳をつんざく音が車内に響く。
「耐えろ! まだだ、もっと前へ!」
あと数メートル。
敵の砲塔がゆっくりとこちらを追う。
間に合うか、撃たれるか。
「今だ! 急停車!」
ギギギギギッ!
キャタピラが悲鳴を上げ、戦車がスピンするように停止した。
場所は、中庭のカーブの内側。
列車の砲塔は、車体自体の角度が邪魔をして、ギリギリこちらを狙えない位置だ。
「よし、射線が通った!」
博史は自ら照準器を覗いた。
狙うのは列車ではない。その足元。
レールの分岐点にある**「転轍機(ポイント切り替え装置)」**だ。
「脱線して、眠っていろ」
博史は引き金を引いた。
ズドンッ!
徹甲弾が正確にポイント装置を粉砕した。
レールが中途半端に切り替わる。
そこへ、猛スピードの装甲列車が突っ込んでくる。
ガガガガッ……ギィィィィィンッ!!!
凄まじい金属音。
車輪がレールから外れ、巨大な鉄の塊が宙に舞った。
慣性の法則に従い、列車は横転しながら地面を削り、中庭の壁に激突して停止した。
プシュゥゥゥ……。
白煙を上げて沈黙する鉄の蛇。
「……やったか」
車内に安堵のため息が漏れる。
博史はハッチを開け、外の空気(硝煙の匂いだが)を吸い込んだ。
中庭は静まり返っている。敵の守備隊は、自慢の要塞列車が鉄屑になったのを見て、戦意を喪失し武器を捨てていた。
博史はライフルを背負い、戦車から降りた。
目の前には、本丸への入り口がある。
もう、巨大兵器も、小細工もない。
そこにあるのは、ただ静かな階段だけ。
「行くぞ」
博史は、残った数名の兵士には待機を命じ、一人で歩き出した。
これは戦争の終わりではない。
二人の男の、個人的な決着をつける時だ。
天守閣最上階。
ギャレットが待っている。
(第27章 完)
蒸気戦車『建御雷(タケミカヅチ)』の主砲が、至近距離から城門の蝶番(ちょうつがい)を吹き飛ばした。
巨大な鉄の扉が、重苦しい音を立てて内側へと倒れ込む。
「突入! 止まるな、押し込め!」
博史の号令で、戦車が黒煙を吐きながら城内へと侵入する。
続いて、泥だらけの歩兵部隊が雪崩れ込んだ。
城の中庭。
そこは、異様な光景だった。日本庭園など見る影もなく、地面は踏み固められ、中庭をぐるりと囲むように**「鉄のレール」**が敷設されている。
「……なんだ、あれは」
博史が前方確認窓から目を凝らす。
中庭の奥から、シュッシュッ……という排気音と共に、黒い鉄の塊が近づいてきた。
それは巨大ロボットでも戦艦でもない。
厚い鉄板で完全に装甲された、**『装甲列車(アーマード・トレイン)』**だった。
先頭の機関車が牽引するのは、銃眼が無数に開いた二両の客車と、中央に回転式の砲塔を備えた貨車だ。
『Welcome, Doctor.(ようこそ、博士)』
城内スピーカーからギャレットの声が響く。
『我が領土を結ぶ鉄道網の要だ。歓迎しよう』
ババババババッ!!!
挨拶代わりとばかりに、列車側面から突き出た複数のガトリング砲が火を噴いた。
中庭は遮蔽物が少ない。弾丸が石畳を削り、歩兵たちをなぎ倒す。
「散開! 物陰に隠れろ!」
博史が叫ぶ。
装甲列車はレールの上を走り続け、常に移動しながら弾幕を張ってくる。移動要塞だ。こちらの攻撃を当てにくく、向こうの射線は通り続ける。
「大将! 主砲で撃ち抜きましょう!」
操縦士が叫ぶが、博史は冷静に首を横に振った。
「ダメだ。相手は常に動いている上に、装甲に傾斜がついている。弾かれるぞ」
その時、列車の中央砲塔が旋回し、太い砲口をこちらに向けた。
アームストロング砲だ。
ドォンッ!!
砲弾が『建御雷』のすぐ横に着弾。
爆風で重量二十トンの車体が浮き上がり、博史は壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
「装甲板、亀裂! 次、直撃したら貫通します!」
このままではジリ貧だ。
戦車の足(キャタピラ)は遅く、列車の速度には追いつけない。かといって撃ち合えば、手数で負ける。
(弱点はどこだ? ボイラーか? 車輪か?)
博史は揺れる視界で敵を観察した。
列車の弱点は「レールの上しか動けない」ことだ。だが、レールを破壊しようにも、敵の弾幕が激しすぎて狙いを定められない。
「……賭けに出るぞ」
博史は操縦士の肩を掴んだ。
「全速前進。敵の『内側』に飛び込む」
「はぁ!? 蜂の巣になりますよ!」
「中庭の中央だ! レールのカーブの内側に入れば、砲塔の旋回が追いつかない死角ができる!」
『建御雷』が黒煙を吹き上げ、決死の突進を開始した。
ガトリング砲の弾丸が雨のように装甲を叩く。カンカンカンッ! と耳をつんざく音が車内に響く。
「耐えろ! まだだ、もっと前へ!」
あと数メートル。
敵の砲塔がゆっくりとこちらを追う。
間に合うか、撃たれるか。
「今だ! 急停車!」
ギギギギギッ!
キャタピラが悲鳴を上げ、戦車がスピンするように停止した。
場所は、中庭のカーブの内側。
列車の砲塔は、車体自体の角度が邪魔をして、ギリギリこちらを狙えない位置だ。
「よし、射線が通った!」
博史は自ら照準器を覗いた。
狙うのは列車ではない。その足元。
レールの分岐点にある**「転轍機(ポイント切り替え装置)」**だ。
「脱線して、眠っていろ」
博史は引き金を引いた。
ズドンッ!
徹甲弾が正確にポイント装置を粉砕した。
レールが中途半端に切り替わる。
そこへ、猛スピードの装甲列車が突っ込んでくる。
ガガガガッ……ギィィィィィンッ!!!
凄まじい金属音。
車輪がレールから外れ、巨大な鉄の塊が宙に舞った。
慣性の法則に従い、列車は横転しながら地面を削り、中庭の壁に激突して停止した。
プシュゥゥゥ……。
白煙を上げて沈黙する鉄の蛇。
「……やったか」
車内に安堵のため息が漏れる。
博史はハッチを開け、外の空気(硝煙の匂いだが)を吸い込んだ。
中庭は静まり返っている。敵の守備隊は、自慢の要塞列車が鉄屑になったのを見て、戦意を喪失し武器を捨てていた。
博史はライフルを背負い、戦車から降りた。
目の前には、本丸への入り口がある。
もう、巨大兵器も、小細工もない。
そこにあるのは、ただ静かな階段だけ。
「行くぞ」
博史は、残った数名の兵士には待機を命じ、一人で歩き出した。
これは戦争の終わりではない。
二人の男の、個人的な決着をつける時だ。
天守閣最上階。
ギャレットが待っている。
(第27章 完)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
日本国破産?そんなことはない、財政拡大・ICTを駆使して再生プロジェクトだ!
黄昏人
SF
日本国政府の借金は1010兆円あり、GDP550兆円の約2倍でやばいと言いますね。でも所有している金融性の資産(固定資産控除)を除くとその借金は560兆円です。また、日本国の子会社である日銀が460兆円の国債、すなわち日本政府の借金を背負っています。まあ、言ってみれば奥さんに借りているようなもので、その国債の利子は結局日本政府に返ってきます。え、それなら別にやばくないじゃん、と思うでしょう。
でもやっぱりやばいのよね。政府の予算(2018年度)では98兆円の予算のうち収入は64兆円たらずで、34兆円がまた借金なのです。だから、今はあまりやばくないけど、このままいけばドボンになると思うな。
この物語は、このドツボに嵌まったような日本の財政をどうするか、中身のない頭で考えてみたものです。だから、異世界も超能力も出てきませんし、超天才も出現しません。でも、大変にボジティブなものにするつもりですので、楽しんで頂ければ幸いです。