紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

文字の大きさ
6 / 50

第6章:ブラックアウト・ジャパン

暗闇に支配されたクラブ『胡蝶』。
 客たちの悲鳴が響く中、揚羽は動いた。
 視界はゼロ。だが、聴覚が研ぎ澄まされる。
 (右、三時の方向。風を切る音!)
 揚羽は身を低くし、ドレスの裾を翻した。頭上数センチを、何か鋭利な物体が通過し、壁に突き刺さる音。
 男の気配がない。足音もしない。
 だが、揚羽には聞こえていた。微かな「駆動音」。筋肉が軋む音ではなく、サーボモーターが唸る電子の音だ。
「……人間じゃないわね」
 揚羽は懐から香水の瓶を取り出し、床に叩きつけた。
 パリンッ!
 割れた瓶から濃厚なジャスミンの香りが広がる。
 
 (匂いは、空間を把握するレーダーになる)
 香りの流れが乱れた場所。そこに敵がいる。
 揚羽は躊躇なく、その一点に向けて簪(かんざし)を投擲した。
 ガギィッ!
 硬質な金属音と共に、闇の中で火花が散った。一瞬照らし出されたのは、顔の皮膚が剥がれ、銀色の骨格が剥き出しになった男の姿。
 ヴォイドの工作員――アンドロイドだ。
 その時、店の外から地響きのような轟音が轟いた。
 新宿の街全体が悲鳴を上げている。
 窓の外を見た揚羽は、息を呑んだ。
 眠らない街・東京の光が、ドミノ倒しのように消えていく。
 信号機が消え、交差点では車が衝突し、電子制御された電車が急停止して火花を散らしている。
 「ブラックアウト……」
 日本の動脈である電力網と通信網が、完全に遮断されたのだ。
 店内の客たちがスマホを掲げるが、画面は「圏外」のまま。
 スマートロックで施錠された扉が開かず、パニックになった人々がガラスを叩き割ろうとしている。
 アンドロイドは闇に紛れて姿を消していた。
 「任務完了。フェーズ2へ移行する」という無機質な声を残して。
 揚羽は唇を噛んだ。
 「……便利さのツケが、回ってきたってわけね」

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話