紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

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第7章:ハイヒールの舞

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揚羽は非常口を蹴り破り、歌舞伎町の路上へと躍り出た。
 そこは地獄絵図だった。
 監視カメラと警察ドローンが停止した瞬間、抑圧されていた「悪意」が噴出したのだ。
 ショーウィンドウを叩き割る暴徒。動けなくなった高級車から金品を奪う強盗団。
 治安維持にあたるはずの若い忍者警官たちは、通信機(インカム)が使えず、AIからの指示もないため、ただ狼狽えるばかりだ。
「おい! そこのネエちゃん! 金目のもん置いてけ!」
 鉄パイプを持った暴徒の群れが、煌びやかな着物ドレスの揚羽を取り囲んだ。
 数は十人。目つきが血走っている。
 揚羽は深く溜息をついた。
「……野暮な男たち。今の東京に必要なのは、暴力じゃなくて色気よ」
 彼女はゆっくりと屈み込み、履いていた真紅のハイヒールを脱いだ。
 素足が冷たいアスファルトを踏みしめる。
 大地と繋がる感覚。これこそが、伊賀の「地走り」の基本姿勢。
「さあ、踊りましょうか」
 男が鉄パイプを振り下ろした瞬間、揚羽の姿が消えた。
 いいや、速すぎて目に見えないだけだ。
 懐に入り込んだ揚羽は、帯(おび)を解き放った。
 シュルルッ!
 長くしなやかな西陣織の帯が、まるで生き物のように男の腕に絡みつく。
 揚羽がくるりと回転すると、男は遠心力で宙を舞い、仲間の上に叩きつけられた。
 「な、なんだこいつ!?」
 次は扇子だ。
 鉄扇(てっせん)を開き、襲いかかる男たちの喉元や手首を、舞うように打ち据える。
 骨を砕く音と、男たちの悲鳴が、奇妙なリズムを刻む。
 脱いだハイヒールの踵(ピンヒール)すら武器にする。
 すれ違いざまに、ヒールの尖端で男の太腿のツボを突く。男はその場に崩れ落ち、動けなくなる。
 数分後。
 路上には、呻き声を上げる暴徒たちの山が築かれていた。
 その頂点に立つ揚羽は、乱れた髪をかき上げ、素足のまま夜空を見上げた。
「……待ってて、疾風。そっちも酷いことになってるんでしょう?」
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