紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

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第8章:炎上の霞が関

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その頃、日本の頭脳である忍者庁本部は、紅蓮の炎に包まれていた。
 内部のサーバー室が次々と爆発。
 ハッキングではない。物理的な時限爆弾が、庁舎の柱や電源設備に仕掛けられていたのだ。
 裏切り者の手引きがなければ不可能な犯行だった。
「総員退避! データは捨てろ! 命を優先しろ!」
 伊賀崎局長の怒号が飛ぶ中、風間疾風は一人、最上階の執務室に残っていた。
 スプリンクラーも作動しない。煙が充満し、熱気が肌を焼く。
 疾風の目の前には、真っ白な巻物と、硯(すずり)。
 彼は猛烈な速度で筆を走らせていた。
 『ヴォイドの特徴』『国内潜伏工作員の推測リスト』『アナログ通信網の構築手順』
 サーバーにある極秘データが消滅する前に、自分の脳内にある情報を、全て「紙」にバックアップしていたのだ。
 デジタルデータは消せても、墨で書かれた文字は、紙が燃えない限り消えない。
「……風間! 何をしている! ビルが崩れるぞ!」
 部下がドアを蹴り開けて叫んだ。
 疾風は最後の一文字を書き終え、筆を折った。
 巻物を懐にねじ込み、愛刀『影秀(かげひで)』を手に取る。
「行くぞ。ここからは、俺たちの時代だ」
 直後、爆音と共に天井が崩落した。
 疾風は部下を抱え、窓ガラスを突き破って虚空へとダイブした。
 背後で、かつて「難攻不落」を誇った忍者庁の巨塔が、音を立てて崩れ落ちていく。
 落下しながら蓮は見た。
 燃え盛る東京の夜景。そして、その向こうで微かに上がる、一筋の赤い煙を。
 (……揚羽か)
 それは、彼らだけが知る緊急時の合図。
 「生存セリ。合流セヨ」
 疾風はビルの壁面に苦無(くない)を突き刺し、減速しながら闇へと降り立った。
 文明の灯が消えた夜。
 忍びたちの、本当の戦いが始まろうとしていた。
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