紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

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第10章:水商売ネットワーク

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「さて、反撃といきたいところだけど……敵の配置が分からないわね」
 地下の一室。二人は作戦会議を開いていた。
 スマホはただの板切れだ。ニュースもネット検索もできない。
 揚羽は、泥で汚れたバッグから、数枚の名刺と口紅を取り出した。
 
「疾風、ペンはある?」
「筆ならある」
「上等。……私の“部下”たちに指令を出して」
 揚羽が言う「部下」とは、忍者庁の隊員ではない。
 銀座、六本木、歌舞伎町。夜の街で働くホステス、キャバ嬢、スナックのママたちだ。
 彼女たちは皆、揚羽を慕い、彼女の「影のネットワーク」に属するくの一(あるいはその予備軍)たちだった。
 疾風が筆で書いた指令書(メモ)を、揚羽が口紅で封をする。
 伝令役は、地下道に住み着いていた浮浪者――実は、かつて風魔一族の末裔である情報屋――が引き受けた。
 数時間後。
 驚くべきことが起きた。
 地下道の通気口から、次々と「紙切れ」が投げ込まれてきたのだ。
 『六本木ヒルズ、最上階に敵司令部あり』――クラブのママより。
 『国道246号線、戦車隊が通過中』――タクシー運転手より。
 『総理官邸、閣僚たちが監禁されている模様』――出張料理人より。
 手書きの文字、走り書きのメモ、あるいはチラシの裏。
 だが、その情報は光ファイバーよりも濃密で、正確だった。
「すごいな……」疾風が唸る。
「馬鹿にしないでよ。女の井戸端会議は、CIAより早いのよ」
 揚羽は拾い上げた紙片を、古都の地図の上に並べていく。
 デジタルの空白地帯が、アナログな情報によって埋められていく。
 敵の包囲網が、ありありと浮かび上がってきた。
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