紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

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第14章:人力の暗号解読

ドローン部隊を撃退した後、二人は神田にある古書店街へと移動した。
 ここには、ある「特殊部隊」のアジトがある。
 地下の書庫。
 そこに集められていたのは、十人の老人たちだった。
 彼らは元・忍者庁の暗号解読班。定年退職し、今は古本屋の店主などをしている者たちだ。
 部屋の中央には、鹵獲(ろかく)した敵の通信機が一台。
 スピーカーからは「ピー、ガガ、ピピ……」という奇妙な電子音が流れている。
 ヴォイドの作戦指令コードだ。だが、コンピュータがない今、誰もそれを解析できないはずだった。
「先生方、お願いします」
 疾風が頭を下げる。
 老人たちは無言で頷くと、懐からそれぞれの「愛機」を取り出した。
 それは、使い込まれて飴色に光る**「そろばん」**だった。
「始めるぞ」
 最年長の老人が呟く。
 パチ、パチパチ、パチチチチ……!
 静かな書庫に、乾いた音が響き渡る。
 それはまるで、激しい雨音のようだった。
 彼らは音の周波数を耳で聞き取り、それを数値化し、そろばんの上で複雑な暗号アルゴリズムを逆算しているのだ。
 「敵の暗号パターン、64ビットの可変式」
 「ふん、子供騙しじゃな。第三列、繰り上がり」
 「座標特定……北緯35度、東経139度……」
 恐るべき速度。
 スーパーコンピュータなら数秒の計算かもしれない。だが、電力のない今、彼らの脳と指先こそが、日本に残された最高スペックのCPUだった。
 三十分後。
 パチン! と最後の珠(たま)が弾かれた。
「解けたぞ、風間さん」
 老人が、震える手で紙に書いた座標を差し出す。
「敵の移動要塞の位置じゃ。……太平洋上、メガフロート『海神(わだつみ)』」
 疾風はその紙を受け取り、深く一礼した。
 AIにはない、執念と経験の勝利。
 揚羽が、老人たちの肩を揉みながら笑う。
 「すごいわ、おじいちゃんたち! 最新のスパコンより頼りになる!」
 アナログの力が、見えない敵の喉元を捉え始めていた。

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