紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

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第25章:簪(かんざし)の一撃

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ついに辿り着いた中枢司令室。
 そこに鎮座していたのは、ヴォイドの首領――ではなく、巨大なサーバーと直結した一台の**人型端末(アバター)**だった。
 黄金の骨格に、透明な人工皮膚。美しくも禍々しい、究極の論理機械。
『ようこそ、旧人類のサンプルたちよ』
 アバターが口を開くことなく、脳内に直接響くような合成音声を発した。
『私の演算によれば、君たちの勝利確率は0.00001%だ』
 アバターの手から、プラズマの刃が伸びる。
 速い。
 疾風が『影秀』で受け止めるが、衝撃で身体ごと吹き飛ばされる。
 揚羽が帯で拘束しようとするが、アバターは帯の軌道を瞬時に解析し、最小限の動きで回避する。
『無駄だ。君たちの筋肉の動き、視線、呼吸……すべてデータにある。次の行動は100%予測できる』
 疾風の剣技も、揚羽の体術も、すべて見切られている。
 機械は学習し、最適化する。
 正攻法では勝てない。絶望的な実力差。
 蓮が膝をつく。揚羽も壁に叩きつけられ、愛用の手鏡が砕け散った。
 アバターが揚羽に歩み寄る。
『感情というバグを持つ生物は、排除する』
 その時。
 揚羽はふらりと立ち上がった。
 武器はない。帯も切れ、紅(毒)も尽きた。
 残っているのは、髪に挿した一本の簪(かんざし)だけ。
 揚羽は、アバターに向かって微笑んだ。殺意のない、慈愛に満ちた笑みで。
「……ねえ、機械人形さん。あんた、恋をしたことある?」
『質問の意味を解さない。非論理的だ』
 アバターがプラズマブレードを振り上げる。
 揚羽は逃げない。防御もしない。
 ただ、真っ直ぐにアバターの胸へと歩み寄った。
 
 自殺行為だ。AIはそう判断した。脅威度ゼロ。防御の必要なし。
 ブレードが揚羽の肩を貫く――その直前。
 揚羽は、自らブレードに向かって身を投げ出した。
 グサリ。
 左肩を灼熱の刃が貫通する。
『!? ……予測不能。自らダメージを受けるなど――』
 論理がバグる。
 生存本能に反する行動。AIの思考が一瞬、停止した。
 その「一瞬」があれば、女帝には十分だった。
 揚羽は激痛に顔を歪めながらも、アバターの胸に抱きついた。
 そして、右手に握りしめた簪を、アバターの胸部装甲のわずかな隙間――冷却ファンの排気口へとねじ込んだ。
「女はね……理屈じゃ動かないのよッ!!」
 バチバチバチッ!!
 簪はただの金属ではない。疾風が以前、渡してくれた「伝導率の高い銀」で出来ていた。
 揚羽の簪が、内部のメイン回路をショートさせたのだ。
『ガガガッ……システム……エラ……愛……恋……理解、不能……』
 アバターの瞳から光が消え、黄金のボディが崩れ落ちた。
 非合理な「捨て身」の一撃が、完全な論理を破壊した瞬間だった。
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