紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

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第27章:夜明けの帰還

東の空が白み始め、水平線が黄金色に輝く頃。
 三浦半島の砂浜に、巨大な黒い布がバサリと音を立てて着地した。
 砂煙の中から、二つの人影が転がり出る。
 疾風と揚羽だ。
 二人とも全身泥と煤(すす)だらけ。揚羽のドレスはボロボロで、疾風の刀も刃こぼれしている。だが、二人は生きていた。
「……着いた……のか?」
 疾風が大の字に砂浜へ倒れ込む。
「ええ……日本の土の匂いよ」
 揚羽も隣に座り込み、痛む肩をさすりながら笑った。
 その時、遠くからエンジンの音が聞こえてきた。
 軍のヘリコプターではない。
 漁船だ。何十隻もの漁船が、大漁旗を掲げてこちらへ向かってくる。
「おーい! 生きてるかー!」
「忍びの旦那ー! 姉ちゃーん!」
 船上にいるのは、沿岸警備隊ではない。地元の漁師たちだ。
 狼煙(のろし)を見て、無線もGPSもない中、長年の勘と海流の読みだけで救助に来た忍び達だ。
 「まったく……お節介な連中ね」
 揚羽が涙ぐみながら手を振る。
 さらに、背後の陸地からも歓声が上がった。
 自転車に乗った新聞配達員、リヤカーを引いた行商の老婆、登校途中の子供たち。
 スマホの画面を見ている者は一人もいない。全員が、自分の目で海を見つめ、自分の声で「ありがとう」と叫んでいる。
 システムは死んだ。だが、日本は死んでいなかった。
 便利さを失った代わりに、人々は「体温」を取り戻していたのだ。

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