30 / 50
第30章:残り香(エピローグ)
しおりを挟む
VIPルーム。
疾風はソファに深く腰掛け、琥珀色の液体が入ったグラスを揺らしていた。
隣に、揚羽が座る。
香水の匂い。ジャスミンと、微かな火薬の残り香。
「出世したそうじゃない、鬼教官殿」
「お前こそ。店の改装費、相当かかったんじゃないか?」
「ええ。だから今日からは、正規料金をいただくわよ」
揚羽が蓮のグラスに自分のグラスを軽く合わせる。
カチャン。
澄んだ音が響く。
「……疾風。世界は変わったかしら」
「さあな。だが、俺たちは変わった。……いや、思い出しただけか」
疾風は懐から、一枚の紙を取り出した。
それは、あの炎上する忍者庁から持ち出した、手書きの「借用書」だった。
『命の借り、必ず返す』と書かれている。
揚羽はそれを見て、くすりと笑った。
そしてライターを取り出し、その紙に火をつけた。
紙は燃え上がり、灰皿の上で灰になっていく。
「貸し借りなしよ。……だって、貴方は私の命(ハート)を盗んだ大泥棒なんだから」
「……それは、忍者庁管轄外の犯罪だな」
二人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。
デジタルな記録には残らない。
ただ、二人の記憶と、この夜の空気だけが知っている物語。
「いらっしゃいませ、『胡蝶』へようこそ」
揚羽の言葉と共に、店内に古き良きダンス・POPが流れ始める。
夜はまだ長い。
影の英雄たちの休息は、誰にも邪魔されることなく続いていくのだった。
【完】
疾風はソファに深く腰掛け、琥珀色の液体が入ったグラスを揺らしていた。
隣に、揚羽が座る。
香水の匂い。ジャスミンと、微かな火薬の残り香。
「出世したそうじゃない、鬼教官殿」
「お前こそ。店の改装費、相当かかったんじゃないか?」
「ええ。だから今日からは、正規料金をいただくわよ」
揚羽が蓮のグラスに自分のグラスを軽く合わせる。
カチャン。
澄んだ音が響く。
「……疾風。世界は変わったかしら」
「さあな。だが、俺たちは変わった。……いや、思い出しただけか」
疾風は懐から、一枚の紙を取り出した。
それは、あの炎上する忍者庁から持ち出した、手書きの「借用書」だった。
『命の借り、必ず返す』と書かれている。
揚羽はそれを見て、くすりと笑った。
そしてライターを取り出し、その紙に火をつけた。
紙は燃え上がり、灰皿の上で灰になっていく。
「貸し借りなしよ。……だって、貴方は私の命(ハート)を盗んだ大泥棒なんだから」
「……それは、忍者庁管轄外の犯罪だな」
二人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。
デジタルな記録には残らない。
ただ、二人の記憶と、この夜の空気だけが知っている物語。
「いらっしゃいませ、『胡蝶』へようこそ」
揚羽の言葉と共に、店内に古き良きダンス・POPが流れ始める。
夜はまだ長い。
影の英雄たちの休息は、誰にも邪魔されることなく続いていくのだった。
【完】
0
あなたにおすすめの小説
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
