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第12章:扇子の盾、帯の刃
非常用電源(UPS)が作動し、店内に薄紅色の非常灯が灯った。
その不気味な明滅の中、テラスの割れた窓から、新たな影が音もなく侵入してくる。
先ほどの軽装備部隊とは違う。全身をセラミックプレートのボディアーマーで固め、ライオットシールド(暴徒鎮圧用盾)と、サプレッサー付きの自動小銃を構えた重装歩兵三人だ。
甲賀の実働部隊の中でも、要人暗殺を専門とする「掃除屋(スイーパー)」である。
足音がない。
重量のある装備を身につけているにも関わらず、彼らは訓練された獣のように床を滑る。
中央の男がハンドサインを送る。銃口が、VIP席で腰を抜かしている御子柴に向けられた。
躊躇なく引き金が引かれようとした、その刹那。
ふわり、と黒い影が射線上に舞い降りた。
アゲハだ。
彼女は黒留袖の裾を乱すことなく、男たちの前に立ちはだかった。その手には、一本の扇子。
「あら、ご予約のお客様かしら? ……当店は会員制ですの」
「退け、女」
先頭の男が無機質な声で警告し、発砲した。
シュッ、シュッ。
乾いた発射音が響く。
だが、弾丸はアゲハの身体をすり抜けた。
「忍法・陽炎(かげろう)の揺らぎ」。
非常灯の点滅のリズムに合わせ、自分の残像を網膜に残す特殊歩法。敵は「一瞬前のアゲハの位置」を撃たされていたのだ。
男たちが動揺した隙に、アゲハは間合いを詰めた。
近接戦闘(CQC)の距離。
男がバリスティックナイフを抜き、アゲハの喉元へ突き出す。
カチリ。
硬質な音が響く。
アゲハが開いた扇子が、ナイフの刃を受け流していた。
ただの扇子ではない。扇骨(せんこつ)には航空宇宙用チタン合金が使用されており、その強度は鋼鉄を凌ぐ。
アゲハは扇子を螺旋状に回転させ、ナイフの軌道を逸らすと同時に、閉じた扇子の先端(要・かなめ)で、敵の手首にある神経叢(しんけいそう)を精確に打ち据えた。
「ぐっ……!?」
男の手からナイフが落ちる。
「無粋な刃物は、お預かりしますわ」
アゲハは流れるように身を翻した。
しゅるり。
腰に巻いていた帯が解け、生き物のように空を舞う。
中から現れたのは、極細のケブラー繊維で補強された、強靭な「布の鎖」。
「忍具・捕縛帯(ほばくおび)」。
アゲハが手首を返すと、帯は鞭のようにしなり、二人目の敵が構えていたライフルの銃身に絡みついた。
力任せに引くのではない。
敵が銃を引き戻そうとする反射動作を利用し、アゲハはその力に乗ってさらに踏み込んだ。
柔よく剛を制す。
彼女は帯を支点にして敵の懐へ飛び込み、遠心力を使って男のバランスを崩すと、その巨体を床へと叩きつけた。
ドスンッ!
受け身も取れず、男が悶絶する。
残る最後の一人、リーダー格の男が盾を構えて突進してきた。
質量による突撃(シールドバッシュ)。
アゲハは避けない。
衝突の寸前、彼女は扇子をパチリと開き、男の目の前で振った。
扇面に塗られた特殊塗料が、非常灯の赤い光を乱反射させ、強烈なストロボ効果を生む。
男が一瞬、眩暈(めまい)に目を細めた隙。
アゲハは低い姿勢で盾の下へ滑り込み、扇子の先端に仕込まれた毒針を、男の首筋――防弾アーマーの僅かな隙間へと突き立てた。
「活殺自在・毒蝶(どくちょう)の一刺し」。
使ったのは即効性の麻酔毒。
男は声を上げる間もなく、膝から崩れ落ちた。
「お召し物が汚れてしまいましたわね」
アゲハは倒れた男たちを見下ろし、乱れた髪を小指でそっと直した。
派手な爆発も、銃撃戦もない。
ただ、舞踏のように静かで、圧倒的に速い制圧劇。
「紹介状のない方は、お引き取り願いましょうか」
彼女が扇子を閉じると同時に、背後で守られていた御子柴が、感嘆のため息を漏らした。
その姿は、硝子の破片が散らばる廃墟の中で、あまりにも神々しく、そして恐ろしい「夜の支配者」そのものだった。
その不気味な明滅の中、テラスの割れた窓から、新たな影が音もなく侵入してくる。
先ほどの軽装備部隊とは違う。全身をセラミックプレートのボディアーマーで固め、ライオットシールド(暴徒鎮圧用盾)と、サプレッサー付きの自動小銃を構えた重装歩兵三人だ。
甲賀の実働部隊の中でも、要人暗殺を専門とする「掃除屋(スイーパー)」である。
足音がない。
重量のある装備を身につけているにも関わらず、彼らは訓練された獣のように床を滑る。
中央の男がハンドサインを送る。銃口が、VIP席で腰を抜かしている御子柴に向けられた。
躊躇なく引き金が引かれようとした、その刹那。
ふわり、と黒い影が射線上に舞い降りた。
アゲハだ。
彼女は黒留袖の裾を乱すことなく、男たちの前に立ちはだかった。その手には、一本の扇子。
「あら、ご予約のお客様かしら? ……当店は会員制ですの」
「退け、女」
先頭の男が無機質な声で警告し、発砲した。
シュッ、シュッ。
乾いた発射音が響く。
だが、弾丸はアゲハの身体をすり抜けた。
「忍法・陽炎(かげろう)の揺らぎ」。
非常灯の点滅のリズムに合わせ、自分の残像を網膜に残す特殊歩法。敵は「一瞬前のアゲハの位置」を撃たされていたのだ。
男たちが動揺した隙に、アゲハは間合いを詰めた。
近接戦闘(CQC)の距離。
男がバリスティックナイフを抜き、アゲハの喉元へ突き出す。
カチリ。
硬質な音が響く。
アゲハが開いた扇子が、ナイフの刃を受け流していた。
ただの扇子ではない。扇骨(せんこつ)には航空宇宙用チタン合金が使用されており、その強度は鋼鉄を凌ぐ。
アゲハは扇子を螺旋状に回転させ、ナイフの軌道を逸らすと同時に、閉じた扇子の先端(要・かなめ)で、敵の手首にある神経叢(しんけいそう)を精確に打ち据えた。
「ぐっ……!?」
男の手からナイフが落ちる。
「無粋な刃物は、お預かりしますわ」
アゲハは流れるように身を翻した。
しゅるり。
腰に巻いていた帯が解け、生き物のように空を舞う。
中から現れたのは、極細のケブラー繊維で補強された、強靭な「布の鎖」。
「忍具・捕縛帯(ほばくおび)」。
アゲハが手首を返すと、帯は鞭のようにしなり、二人目の敵が構えていたライフルの銃身に絡みついた。
力任せに引くのではない。
敵が銃を引き戻そうとする反射動作を利用し、アゲハはその力に乗ってさらに踏み込んだ。
柔よく剛を制す。
彼女は帯を支点にして敵の懐へ飛び込み、遠心力を使って男のバランスを崩すと、その巨体を床へと叩きつけた。
ドスンッ!
受け身も取れず、男が悶絶する。
残る最後の一人、リーダー格の男が盾を構えて突進してきた。
質量による突撃(シールドバッシュ)。
アゲハは避けない。
衝突の寸前、彼女は扇子をパチリと開き、男の目の前で振った。
扇面に塗られた特殊塗料が、非常灯の赤い光を乱反射させ、強烈なストロボ効果を生む。
男が一瞬、眩暈(めまい)に目を細めた隙。
アゲハは低い姿勢で盾の下へ滑り込み、扇子の先端に仕込まれた毒針を、男の首筋――防弾アーマーの僅かな隙間へと突き立てた。
「活殺自在・毒蝶(どくちょう)の一刺し」。
使ったのは即効性の麻酔毒。
男は声を上げる間もなく、膝から崩れ落ちた。
「お召し物が汚れてしまいましたわね」
アゲハは倒れた男たちを見下ろし、乱れた髪を小指でそっと直した。
派手な爆発も、銃撃戦もない。
ただ、舞踏のように静かで、圧倒的に速い制圧劇。
「紹介状のない方は、お引き取り願いましょうか」
彼女が扇子を閉じると同時に、背後で守られていた御子柴が、感嘆のため息を漏らした。
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