紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

文字の大きさ
47 / 50

第2章:エタノールと脳科学

「第2章は、武器としての『酒』について解説します」
 揚羽の指示で、講義室にワゴンが運び込まれた。上には高級ウィスキー、氷、ミネラルウォーター、そしてビーカーやフラスコが並んでいる。
 まるで化学の実験室だ。
「諸君、水割りとは何だと思う?」
 学生の一人が答える。
「酒を水で希釈したものです」
「物理的にはそうね。だが、諜報戦においては違う。水割りとは、**『ターゲットの前頭葉機能を制御するための溶媒』**よ」
 揚羽はビーカーにウィスキーを注ぎながら解説を始めた。
「アルコールは、脳の抑制機能を麻痺させる。だが、単に酔わせればいいわけではない。泥酔させれば記憶が混濁し、情報の信憑性が落ちる。我々が目指すべきは、**『理性のガードだけを下げさせ、記憶力と発話能力は維持させる』**という、針の穴を通すような酩酊状態……通称『トワイライト・ゾーン』への誘導よ」
 彼女は氷をアイスピックで削り始めた。その手つきは、外科医の手術のように精緻だ。
「氷の表面積、酒と水の比率、そしてステア(撹拌)による分子の結合。これらを計算し、口当たりは水のように軽く、しかし胃の中で爆発的に吸収される『水』を作る。これが私の店で出す『無限水割り』の理論的背景です」
 揚羽は完成した水割りを、最前列の赤城に差し出した。
「飲んでみなさい」
 赤城は疑わしげに一口飲んだ。
「……!?」
 彼の目が開かれる。
「水……いや、甘い? アルコールの刺激が全くない……でも、胃が熱い」
「そのグラス一杯で、貴方の脳の判断能力は一五%低下した。私がその気になれば、あと三杯で貴方から実家の金庫の暗証番号を聞き出し、五杯目で伊賀幕府への反逆を誓わせることができるわ」
 揚羽は微笑んだ。
「酒を作るのではない。『状況』を調合するのよ。グラスの中の液体の分子運動を支配できない者に、国家の命運は握れない。分かりましたか?」
 学生たちは、手元のノートに必死にメモを取り始めた。単なる飲み会の作法だと思っていたものが、恐るべき化学兵器の運用術であることに気づき始めたのだ。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。