紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

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第3章:擬似恋愛(バーチャル・ロマンス)の構成要素

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「次は、君たちが最も苦手とする分野……『色恋』についてよ」
 揚羽の言葉に、男子学生たちがドッと沸き、女子学生たちが興味深そうに身を乗り出した。
「静粛に。……ここで言う色恋とは、生殖行為への欲求ではない。**『自己承認欲求へのハッキング』**を指します」
 スクリーンに、脳の断面図が投影された。
「人間、特に社会的地位のある権力者は、常に孤独です。部下はイエスマンばかり、家庭には居場所がない。彼らが金銭を払ってまで求めているのは、肉体関係ではなく、『ありのままの自分を受け入れてくれる理解者』という幻想(ファンタジー)よ」
 揚羽は教壇を降り、学生たちの間を歩き始めた。
「君たちくノ一は、絶世の美女である必要はない。必要なのは**『傾聴』と『観察』、そして『演技(アバター)』の構築能力**」
 彼女は一人の女子学生の前で足を止めた。
「貴方、彼氏はいる?」
「は、はい。同じ部隊に」
「その彼が、任務でミスをして落ち込んでいたら何て声をかける?」
「えっと……『次は頑張って』とか、『ドンマイ』とか……」
「0点」
 揚羽は冷たく言い放った。
「それは『同僚』の言葉。ターゲットが求めているのは『母性』あるいは『崇拝者』の言葉よ。正解は、何も言わずに温かいお茶を出し、『貴方がどれだけ頑張っていたか、私は知っているわ』と囁くこと。……つまり、事実の肯定ではなく、感情の肯定を行うのです」
 揚羽は黒板に『ラポール(信頼関係)の形成曲線』というグラフを描いた。
「相手のネクタイの柄、時計のブランド、靴の擦れ具合。それらから相手の趣味、経済状況、性格を一瞬でプロファイリングし、相手が『欲しい』と思っている言葉を、先回りしてプレゼントする。これが『おもてなし』という名の読心術よ」
「先生、それは……相手を騙すということですか?」
 真面目そうな学生が手を挙げる。
 揚羽は優しく、しかし残酷に微笑んだ。
「いいえ。**『その瞬間だけ、本気で愛する』**のよ。嘘はバレるけれど、期間限定の真実はバレない。ミッション終了と共に、その感情をスイッチ一つで消去(デリート)できてこそ、一流の工作員です」
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