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第5章:最終試験 ~水のように~
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チャイムが鳴るまで、あと十分。
揚羽はチョークを置き、教壇の中央に立った。
「最後に。諸君に『水商売』の真髄を教えましょう」
彼女は手元のミネラルウォーターのボトルを掲げた。
「水は、形を持たない。コップに入ればコップの形に、花瓶に入れば花瓶の形になる。熱すれば蒸気となり、冷やせば氷という凶器になる」
学生たちが息を呑んで見守る。
「私たちも同じよ。客が癒やしを求めれば聖母になり、刺激を求めれば愛人になり、知性を求めれば秘書になる。自我を捨て、相手という器に合わせて自在に姿を変える。……これこそが、古来より忍びが目指してきた**『無形(むけい)』の理(ことわり)**ではないかしら?」
会場は静まり返っていた。
当初の嘲笑や侮蔑の色は消え失せ、そこには未知の「術」への畏敬の念だけがあった。
赤城が手を挙げた。震える声で尋ねる。
「……先生。貴方は、本当の自分をどこに残しているのですか? 演じ続けて、自分が誰か分からなくなりませんか?」
揚羽は少しだけ驚いた顔をし、そして今日一番の、妖艶かつ凄味のある笑みを浮かべた。
「良い質問ね。……でも、それは野暮というものよ」
彼女は唇に指を当てた。
「『秘密』があるからこそ、女は美しい。そして忍びは強い。……本当の私が誰なのか、それは君たちが卒業して、私の店に辿り着けた時に教えてあげるわ」
終了のチャイムが鳴り響く。
揚羽は颯爽と踵を返し、教室の出口へと向かった。
「起立! 礼!」
赤城の号令と共に、三百人の学生が一斉に立ち上がり、深く頭を下げた。
「ありがとうございました!!」
轟くような挨拶を背中で受け止めながら、揚羽は講義室を出た。
廊下に出ると、そこにはすでに「ママ」ではなく、伝説のくノ一の顔があった。
スマホを取り出し、店へ連絡を入れる。
「ええ、繭? ……今終わったわ。エリートたちの頭を少し『マッサージ』してきたところ。……ふふ、今夜の営業には間に合うわよ。予約の確認をしておいて」
彼女はヒールの音を高く響かせ、大学を後にした。
今夜もまた、彼女の講義(ミッション)が始まる。
教科書のない、欲望という名の迷宮で。
(完)
揚羽はチョークを置き、教壇の中央に立った。
「最後に。諸君に『水商売』の真髄を教えましょう」
彼女は手元のミネラルウォーターのボトルを掲げた。
「水は、形を持たない。コップに入ればコップの形に、花瓶に入れば花瓶の形になる。熱すれば蒸気となり、冷やせば氷という凶器になる」
学生たちが息を呑んで見守る。
「私たちも同じよ。客が癒やしを求めれば聖母になり、刺激を求めれば愛人になり、知性を求めれば秘書になる。自我を捨て、相手という器に合わせて自在に姿を変える。……これこそが、古来より忍びが目指してきた**『無形(むけい)』の理(ことわり)**ではないかしら?」
会場は静まり返っていた。
当初の嘲笑や侮蔑の色は消え失せ、そこには未知の「術」への畏敬の念だけがあった。
赤城が手を挙げた。震える声で尋ねる。
「……先生。貴方は、本当の自分をどこに残しているのですか? 演じ続けて、自分が誰か分からなくなりませんか?」
揚羽は少しだけ驚いた顔をし、そして今日一番の、妖艶かつ凄味のある笑みを浮かべた。
「良い質問ね。……でも、それは野暮というものよ」
彼女は唇に指を当てた。
「『秘密』があるからこそ、女は美しい。そして忍びは強い。……本当の私が誰なのか、それは君たちが卒業して、私の店に辿り着けた時に教えてあげるわ」
終了のチャイムが鳴り響く。
揚羽は颯爽と踵を返し、教室の出口へと向かった。
「起立! 礼!」
赤城の号令と共に、三百人の学生が一斉に立ち上がり、深く頭を下げた。
「ありがとうございました!!」
轟くような挨拶を背中で受け止めながら、揚羽は講義室を出た。
廊下に出ると、そこにはすでに「ママ」ではなく、伝説のくノ一の顔があった。
スマホを取り出し、店へ連絡を入れる。
「ええ、繭? ……今終わったわ。エリートたちの頭を少し『マッサージ』してきたところ。……ふふ、今夜の営業には間に合うわよ。予約の確認をしておいて」
彼女はヒールの音を高く響かせ、大学を後にした。
今夜もまた、彼女の講義(ミッション)が始まる。
教科書のない、欲望という名の迷宮で。
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