閏述|極限環境における経済活動の終端シナリオについて

八角泰三

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第2章 理論的背景

2.3 生存と経済の制度的分離

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近代以降の経済制度は、生存条件と経済活動を制度的に分離することで、その拡張性と安定性を獲得してきた。すなわち、個体の生存は直接的には市場取引の結果に左右されないものとして設計され、医療、公共衛生、最低限の生活保障といった仕組みが、経済活動の外部に配置されてきた。この分離は、経済行為を即時的な生死の問題から切り離し、長期的な投資や分業を可能にするという点で、制度上の重要な前提であった。

しかし、この分離は絶対的なものではなく、制度によって維持されている相対的な状態にすぎない。生存と経済が分離されているように見える状況においても、両者は常に間接的な結合関係を保っている。賃金、価格、補助金、保険といった制度的媒介を通じて、経済活動の結果は時間差を伴いながら生存条件に反映される。

地球外ハビタットにおいては、この制度的分離の構造がより露骨に現れる。閉鎖環境下では、生存に必要な資源の供給と循環が高度に工学化されており、経済活動と生命維持は物理的には密接に結びついている。一方で、制度上は、地球起源の貨幣体系や補助制度が導入されることで、両者は依然として分離された領域として扱われる。この結果、物理的には不可分であるはずの生存と経済が、記述上は分離された状態として存在する。

このような分離は、制度運用上の便宜としては有効であるが、記述上の歪みを生じさせる。すなわち、経済的に合理的と評価される行為が、生存条件の観点からは不利に作用する場合、あるいはその逆の状況が、制度内部では十分に可視化されない。生存が制度的に保証されている場合、この歪みは直ちに破綻として現れないため、長期間にわたって累積する可能性がある。

本研究が注目するのは、生存と経済を再び同一の参照軸に回帰させることではない。むしろ、両者が制度的に分離されているという事実を前提とした上で、その対応関係を別の尺度によって並行的に記述する可能性である。生存条件を直接的に経済制度へ組み込むことなく、経済活動の結果が生存にどのような影響を及ぼし得るかを、補助的に把握する枠組みが求められる。

この観点から見ると、価値尺度の抽象化と生存条件の制度的分離は、同時に進行してきた現象であると言える。抽象化された価値は、制度を通じて生存から距離を取り、その距離が経済活動の自由度を拡張してきた。一方で、その距離が過度に拡大した場合、制度は生存条件の変化に対する感度を失う。

以上の整理は、次章で導入される再記述の枠組みの前提を与える。すなわち、生存と経済が制度的に分離されたままであっても、両者の関係を同一の物理量に基づいて並行的に表現することは可能である。本研究は、この可能性を制度改革や倫理的主張に結びつけることなく、記述上の操作として提示する。

【参考文献】
高城 ミツル『我ら宇宙人!――地球外生活者のための新しいアイデンティティ』(ネビュラ・カルチャー社、2191)
リャン・チョウ/エマ・フェルド『閉鎖環境ハビタットにおける食料生産コストの構造分析』(軌道農業工学ジャーナル、第42巻第3号、2194)
岡本 光『最適化された檻――最新技術に囲まれた最低限の生活』(綴社、2196)
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