爆炎の魔女

ねこまる

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第4話

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「死ねよ!転校生!」

右の拳に岩をまとった赤髪の生徒が動いた。

椅子を蹴り、机を踏み越え、一瞬で教壇へ距離を詰める。

振り上げられた拳が、リューネの頭部へ叩き込まれる。
――はずだった。

だが。

リューネは動じない。

ひらりと左肩を引いて拳をかわすと、そのまま流れるような動作で相手の後頭部を右手で掴み、そのままの勢いで黒板へと叩きつけた。

ゴンッ!!
激しい衝撃音とともに黒板が砕ける。

それで終わりではない。

間髪を容れず襲いかかった二人目に対し、叩きつけた勢いのまま身体を回転させ左足を真上へと振り上げる。
高く振り上げられた足が、獲物を狙う斧のように振り下ろされ、次に飛び込んできた相手を教壇ごと叩き潰す。

ドガァッ!!

すべて一瞬だった。

あまりにも滑らかで。
あまりにも無駄がなく。
まるで舞っているかのようだった。

飛び出しかけていた他の生徒たちの足が止まる。

“テッペン”と“爆炎の魔女”。

その言葉を口にされた以上、引くことは許されない。

頭では、わかっている。

だが。

身体が、動かない。

たった数秒で、理解させられた。

勝てない。

教室の時間が止まったかのように、誰一人として動けなかった。

それは今朝の光景の、再現だった。

沈黙が教室を支配する。

数秒後、その沈黙を破ったのは担任だった。

「おい、いきなり喧嘩するな」

その一言で。

止まっていた時間が動き出した。

リューネは、何事もなかったかのように答える。

「いきなり襲ってきたんで、反応しちゃうのは仕方ないでしょ」

「お前が"テッペン"だの、"爆炎"だの挑発的なことを抜かすからだ」

担任はため息混じりに言った。

「新任の私でも、それがこの学園の地雷だってことくらいは知ってるぞ」

二人のやり取りを、クラス全員が呆然と見つめる。

だが担任は、興味を失ったように視線を外した。

「おい」

突然、別の話を始める。

「保健委員はまだ決まってなかったな」

場違いな言葉。

「やりたいやつはいるかー」

当然誰も答えない。
「いないかー」
担任のクレアは教室を見渡し一人を指差した。

「じゃあ、そこのお前。今日から保健委員だ」

指されたのは、あまりの光景に口を開けて固まっていたフェリスだった。

「おーい。聞こえてるかー。茶髪のお前ー」

「……えっ?」
数度の呼びかけでようやくフェリスが反応する。

「お前、名前は?」

「えっと……フェリスです……?」

目の前の出来事と急に指名されたことに混乱が収まらない彼女は
自分の名前すら、確認するような口調だった。

「よし、フェリス」

担任は淡々と言う。

「保健室から担架を持ってきて、この二人を運べ」

「えっ!? わ、私がですか!?」

フェリスは素っ頓狂な声を上げた。

「二人も担げませんよ!?」

「問題ない」

担任は即答する。

「魔力を流せば浮く担架がある。それを使え」

「わ、わかりました!」

半ば逃げるように、フェリスは教室を飛び出した。

その背中を見送る一つの視線。

(フェリス……)

(こんな時にいなくならないでーーー)

(お願い!一人にしないでーーー)
ルナの心の叫びも虚しく足音が遠のいていく。
その時だった。

ガタンと音がした。

振り向くと。

リューネがルナの後ろの席に座っていた。

心臓が跳ねる。

(近い。近すぎるよー)

「怪我人を運ぶまで休憩だ」

「それと転校生。あとで職員室に来い。赴任初日から面倒を増やすな」
クレアが言う。

「正当防衛だってば」
リューネは、わずかに頬を膨らませた。

「ほかの連中も、妙な気は起こすなよ」

教室を見渡す。

「まあ、この様子じゃ、無理だろうがな」
誰も、反論できない。

この教室の力関係は完全に塗り替えられていた。

圧倒的な暴力と、それを動じずにあしらう担任。
この学園の「常識」が、今日、完全に壊れた。
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