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拓実は、踊り場まで来るとダンボール箱を足元に下ろした。
額に流れる汗は、肌寒い秋とは思えぬ量だ。拓実は遅れてやって来た登に文句を言わずにはいられない。
「やっと十階だぞ?! 二十四階だなんてふざけてやがる。俺たちゃ、アイツの奴隷じゃねってんだよ」
「シッ」
登は辺りをはばかるように視線を動かし、口元に指をあてた。
「誰が聞いてるかわからない」
「なんでだよ、誰もいないだろ。わざわざ外階段を使うやつは俺ら以外いない」
拓実はその場で腰をおろすと、地面に置いたダンボール箱を叩いた。
「それに何なんだよ、この荷物。切断した遺体でも入ってんじゃねーの」
引越しのバイトで生計を立てていたことのある拓実にとって、こんな一四〇サイズのダンボール箱の届けものは実に容易いはずだった。しかし、いざ渡されたこのダンボール箱はかつて抱えたことのない重さで、ギックリ腰をはじめて経験するのではないかと懸念すらした。
拓実の文句に、登は思案するように顎をさすっている。
「遺体ね、それはあり得るな」
「はっ、ちょ、ちょっと待てよ。そりゃないだろう。だって、俵会長のお嬢へのプレゼン
トなんだろ? なんでお嬢に遺体送るんだよ」
「健全なプレゼントだったらエレベーターで運んだっていいと思わないか。なんで、わざわざ李兄貴が外階段から届けろと指示する」
登はそう言うと、首筋にながれていた一筋の汗をすずしげに手の甲でぬぐった。
「知ってるか、李兄貴とお嬢がデキてたの」
「はっ、はああ? 何言ってんだよ。お嬢には婚約者がいるだろ。あの巨漢坊っちゃんが」
「巨漢坊っちゃんね。婚約させられて、お嬢は納得してるだろうか」
「そりゃ納得しねえだろ。男の俺でも受けつけねぇよ」
「だとしても、会長が決めた婚約者だ。NOは通用しない」
そう言うと、ようやく登は腰を下ろした。壁に背中を預け、ポケットからたばこを取り出すと徐に吸いはじめる。拓実は、とんでもないことを話し出す登にヒヤリとした汗を流していた。
「登ちゃんよお、そんな物騒な話やめようぜ。これはお嬢への贈り物なんだろ? 確かも
うすぐ誕生日だ。それだよ、それ。誕プレだ」
拓実は不安を打ち消すかのように、ダンボール箱を強く叩いた。登はゆっくりと拓也に顔を向ける。
「じゃあこの誕プレ、インターンフォン鳴らしてもお嬢が出なかったらどうする」
「は、はあ?」
「玄関前に置いて行けばいい。けど、お嬢が一日経っても帰宅しなかったら? まあ会長のことだ。愛娘と一日連絡つかなかっただけで、ここまで様子を見に来るだろう。その時、この贈り物に気付く。そうなると、誰への贈り物かってことだ」
「日本中逃げ回っても、会長のことだから必ず見つけ出すぞ。したら李兄貴もお嬢もおしまいじゃねえか」
「国外だったら、安全圏だ。ま、どっちにしろもう会えないってことだな」
登は徐に空を上げた。拓実も登につられて見上げると、丁度雲ひとつない青空に飛行機が横切って行くのが見えた。
「おま、まさか……」
拓実はこれ以上聞くのが恐ろしくなり、口をつぐんだ。自分で震えているのがわかった。すると、登が吹き出した。
「なあんてな」
登は立ち上がり、たばこを捨てる。地面に擦りつけるように足元で火を消した。
「そもそも、聞かれたらマズい話をここでする訳がないだろ」
そう言って登は重そうにダンボール箱を持ち上げると、ひとり階段を登って行った。
拓実はゆっくりとダンボール箱に視線を移す。その中身を想像するとゾッと慄いたが、確かめたい衝動と薄気味悪さに、その場からしばらく動けそうになかった。
額に流れる汗は、肌寒い秋とは思えぬ量だ。拓実は遅れてやって来た登に文句を言わずにはいられない。
「やっと十階だぞ?! 二十四階だなんてふざけてやがる。俺たちゃ、アイツの奴隷じゃねってんだよ」
「シッ」
登は辺りをはばかるように視線を動かし、口元に指をあてた。
「誰が聞いてるかわからない」
「なんでだよ、誰もいないだろ。わざわざ外階段を使うやつは俺ら以外いない」
拓実はその場で腰をおろすと、地面に置いたダンボール箱を叩いた。
「それに何なんだよ、この荷物。切断した遺体でも入ってんじゃねーの」
引越しのバイトで生計を立てていたことのある拓実にとって、こんな一四〇サイズのダンボール箱の届けものは実に容易いはずだった。しかし、いざ渡されたこのダンボール箱はかつて抱えたことのない重さで、ギックリ腰をはじめて経験するのではないかと懸念すらした。
拓実の文句に、登は思案するように顎をさすっている。
「遺体ね、それはあり得るな」
「はっ、ちょ、ちょっと待てよ。そりゃないだろう。だって、俵会長のお嬢へのプレゼン
トなんだろ? なんでお嬢に遺体送るんだよ」
「健全なプレゼントだったらエレベーターで運んだっていいと思わないか。なんで、わざわざ李兄貴が外階段から届けろと指示する」
登はそう言うと、首筋にながれていた一筋の汗をすずしげに手の甲でぬぐった。
「知ってるか、李兄貴とお嬢がデキてたの」
「はっ、はああ? 何言ってんだよ。お嬢には婚約者がいるだろ。あの巨漢坊っちゃんが」
「巨漢坊っちゃんね。婚約させられて、お嬢は納得してるだろうか」
「そりゃ納得しねえだろ。男の俺でも受けつけねぇよ」
「だとしても、会長が決めた婚約者だ。NOは通用しない」
そう言うと、ようやく登は腰を下ろした。壁に背中を預け、ポケットからたばこを取り出すと徐に吸いはじめる。拓実は、とんでもないことを話し出す登にヒヤリとした汗を流していた。
「登ちゃんよお、そんな物騒な話やめようぜ。これはお嬢への贈り物なんだろ? 確かも
うすぐ誕生日だ。それだよ、それ。誕プレだ」
拓実は不安を打ち消すかのように、ダンボール箱を強く叩いた。登はゆっくりと拓也に顔を向ける。
「じゃあこの誕プレ、インターンフォン鳴らしてもお嬢が出なかったらどうする」
「は、はあ?」
「玄関前に置いて行けばいい。けど、お嬢が一日経っても帰宅しなかったら? まあ会長のことだ。愛娘と一日連絡つかなかっただけで、ここまで様子を見に来るだろう。その時、この贈り物に気付く。そうなると、誰への贈り物かってことだ」
「日本中逃げ回っても、会長のことだから必ず見つけ出すぞ。したら李兄貴もお嬢もおしまいじゃねえか」
「国外だったら、安全圏だ。ま、どっちにしろもう会えないってことだな」
登は徐に空を上げた。拓実も登につられて見上げると、丁度雲ひとつない青空に飛行機が横切って行くのが見えた。
「おま、まさか……」
拓実はこれ以上聞くのが恐ろしくなり、口をつぐんだ。自分で震えているのがわかった。すると、登が吹き出した。
「なあんてな」
登は立ち上がり、たばこを捨てる。地面に擦りつけるように足元で火を消した。
「そもそも、聞かれたらマズい話をここでする訳がないだろ」
そう言って登は重そうにダンボール箱を持ち上げると、ひとり階段を登って行った。
拓実はゆっくりとダンボール箱に視線を移す。その中身を想像するとゾッと慄いたが、確かめたい衝動と薄気味悪さに、その場からしばらく動けそうになかった。
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