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新しい日常

年貢の納め時(笑)

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 教室に足を踏み入れた俺たちにクラス中の視線が突き刺さる、入った時に気が付いたがさっき俺たちが部屋を出た時と比べて光景が変わっていた、それは皆が座っている位置がいつもと違うことだ、恐らく話しやすいようにまたは相談しやすいように移動したのだろうな、まあ特に気する必要はないと意識の外に追いやる。

 さあて最初はどんな質問が飛んでくるかな、とりあえず最初のほうにされる質問は大体予想できてるし問題ないだろう。

「それでは質問ある人から手を挙げてください……はいどうぞ」

 烏丸先生がそう言うと何人かの生徒が手を挙げた、その中から適当に指名し質問をさせる。

 勿論だがほとんどの質問が陽彩の今の状態のことだった、そこがはっきりとわからないと皆も接するのが難しいだろうし気持ちはわかる、そしてこちらとしても特に隠すようなことではないので素直に答えていく。

 まあそれでも未だにほとんどの生徒はピンと来ていないみたいだ、記憶を失ってると言っても、違うのは口調と雰囲気だけで、外見だけを見るとはいつも通りの陽彩と何ら変わりないから無理もない。

「それじゃあ結局僕たちは夢ヶ島さんにどういう風に接したらいいのかな?」

 ここでクラス委員の柊が質問する、気遣いのある柊としては気になっていることだったのだろう、他の生徒もそれを知りたかったと言わんばかりに耳を傾ける。

「んーさっきも言ったと思うけど、わたしの感覚としてはみんなとは新しく知り合ったって感じだからどう接するも何も普通に接してくれていいんだけどね……まあ元のわたしを知っている佐久間君としてはやっぱり難しい?」
「難しいというか……心の整理が付かないというか……僕は今までと同じように接してしまう時もあるかもしれないかな、その時はごめん」
「だからどう接してくれようが別に気にしないってば、そんなに経たない内に慣れてくるだろうしまあ自由にしてくれていいよ」
「慣れるってそんな……」

 若干柊の言葉に違うニュアンスを感じた俺だが、ひとまずこの場では納得したみたいで話を終える。

 そして他の人も陽彩の答えをどう処理したらいいのかわからず考えていた、そのためしばらく誰も手を挙げなかった。

 そんな膠着状況のなか一人が声をあげた。

「…ねぇさっきから気になっていたんだけど、なんで夢ヶ島さんが教室から出る時に大月も連れていったの?元々事情を知っていたということ?」

 発言したのは有紗だった、よりによってこいつに質問されるのかという思いはあったがまぁいい、遅かれ早かれこれは必ず聞かれることだ。

「それは俺から話すよ有紗」

 今まで一言も発していなかった俺が言葉を発したことで今までとは違う視線が向けられた、どちらかと言うと同情の視線が多かった陽彩とは違い、なんでお前が関係してるんだよといった理解不能的な視線が含まれている……特に男子諸君から。

「さっきの陽彩が話した記憶喪失の原因となった事件だけど、実は俺も陽彩と一緒に居て不良に襲われたんだよ」
「え?じゃあ二人で一緒に帰っていて、その途中で襲われたってこと?」
「まあそういうことになるな」
「そうなんだ……じゃあその襲われたのが……えーと月曜日だから4日前か、その時からもう夢ヶ島さんが記憶喪失ってことは知っていたんだね?」
「そうだな、だからほら覚えてるか?火曜日に俺と会ったことを、その時は丁度お見舞いに行った帰りだったんだよ」
「あ!!あの大月が休んでいた日か!!、確か体調不良で休んでいたって言ってた時」
「そうそうその日、実は俺も事件の時殴られてさ、それで大事を取って休めって言われてたの」
「え?殴られたの??怪我とかしたの?もう大丈夫なの?」
「あー陽彩ほど酷くは無いけど俺も胸を殴られて打撲したって感じかな、とりあえず今はもう痛みもほとんどないから大丈夫だと思う」

 とりあえずここまでは大丈夫……と一息ついたところで思わぬ奴から大きな声が上がる。

「あ、今思い出した!!月曜日って確か雨降ってたよな?何時ぐらいか忘れたけど家の近くの道路歩いてたら、遠くのほうに相合傘してるうちの学校の生徒の姿見たんだよね、もしかしてと思ったけど本当にお前らだったの?」

 古谷がそう言うと教室がざわついた、そういえばこいつあの事件の直前に見たんだった、ていうかこいつがいたせいで見られないために脇道に入ったから襲われたんじゃねえか……まあそれはひとまず置いといて、あの距離だとやっぱり認識されていたか……ただ今まで何も言ってこなかったから俺もすっかり忘れてたわ。

「あ、ああよく覚えてるな、その道って___のことだろ?それだったら俺らで合ってると思う」
「マジで!!やっぱりかーいやーあの時そうなんじゃないかと思って話しかけるか考えたんだけどね、迷っているうちにどっかに行っちゃったから、まあいいやーと思って忘れてたわ」

 あっけらかんと笑いながら言う、ただこれで終わるわけがないのが女子高生の代表とも言っていい古谷マリンだ。

「て・こ・と・は・さ?お二人さんってーーーーぶっちゃけ付き合っちゃてますのん?どうなのん?」

 ……ここから先言うセリフは勿論決まっている、だが流石にそれを口にするには覚悟が必要だ、ぶっちゃけ滅茶苦茶恥ずかしい。
  呼吸を整える意味も込めて陽彩の顔を見たが、彼女の顔はそれはそれは楽しそうだった、おいこら何他人事みたいな顔してんだ、お前も当事者なんだよ……が俺のそんな感情も分かっているように、更に笑みを深めて俺に催促の合図を出す。
 ……ほんとにこの方法を取ってよかったのかなあ……ええい後悔先に立たず南無三。




「俺は……陽彩と付き合っています」




 3割歓声と7割の怒号が教室を埋め尽くした




 ああー絶対隣のクラスから文句言われるだろうなーと俺は堂々と現実逃避することにした。

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