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弐章 国づくり

45 突風

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 「旦那…あっし…なんか睨まれて無いですかい」
 
 ハチロクと合流し、蜘蛛の糸で荷物を鎌鼬に結び付けているときアイノスケは身をブルリと震わせながら周りを見渡した。
 
 鎌鼬は人が嫌いなのか知らないが数匹がアイノスケを睨んでいる。
 恐らくはこれまでたたら場の人間達と殺り合っていた個体だ。
 
 「なんか…大きくなって無いか?」
 
 ハチロクが言うように鎌鼬はシュラが名前をつけた事により軒並み成長したらしく馬程の大きさから馬車、程の大きさになった。
 
 「あわわわわ……」
 
 そのせいかハチロクの弟子シュナは立ったまま目を見開き気絶しそうになっている。
 
 「安心しろ、一応許可を出すまでは攻撃しないようにと言ったが…」
 
 「ほーん。
 旦那といると驚かされてばかりですよ。
 ほーれヨシヨシ」
 
 「本当に伝わったかは分からん」
 
 そう言い終わると同時に鎌鼬がガブりとアイノスケの頭を口の中に入れた。
 
 「ふわぁ…」
  
 鎌鼬は軽く噛んだ程度で怪我などはしなかったがシュナが頭から食べられていると勘違いしたらしく気絶した。
 
 ……
 
 鎌鼬の背に乗る移動。
 鎌鼬は移動手段としては想定以上に適しているらしく森の中を駆ける速度は風を切りそれにもかかわらず背に乗せる者達を配慮してくれているのか揺れは少なかった。
 
 周囲の木を切り倒し作った野営地でそう考えながら捕まえた兔の足を頬張り鎌鼬を見る。
 
 「それにしても旦那。
 あっしを牢屋送りにするなんざぁ ひどいですよ」
 
 アイノスケは不満そうな顔でそう話し火に骨を投げ込む。
 
 「まあいいだろ?
 出れたんだし。
 それに山賊ってのは本当だろ」
 
 アイノスケはバツが悪そうに顔をそむけ何も言わなくなった。
 
 フカフカな背もたれに持たれ掛かり空を見上げる。
 
 綺麗な星空だ。
 
 雲一つもない空で周りに明かりも無いそのせいか星と月の輝きがより一層輝き美しく見える。
 
 そういえば空なんてあまりしっかりと見てこなかった。
 
 向こうの世界も綺麗だった気がする。
 確かあれはまだ子供の頃で孤児院から夜中に抜け出して5人で星空を見ようって話をして作戦を立てて実行したっけか。
 
 でも結局はバレて大騒ぎになってそれで帰ったらみんなで怒られたっけ。
 
 あの時、皆で見た景色も綺麗だったなぁー…。
 
 そんな昔の記憶を引っ張り出し懐かしんでいると突風がこの場に吹き荒れ。
 
 焚き火の炎は一瞬にして消え。
 
 名を捨てた彼女は闇夜を連れ目の前に現れた。
 
 「貴方が噂の小鬼ね。
 隠してるみたいだけどこの気配。
 上は間違っていなかったようね。
 その命、積ませてもらうわ」
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