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弐章 国づくり

56 親友

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 「ここは…」
 
 懐かしい光景を前にヒヨリは困惑しうろたえた。
 
 「嫌だ…ここは…そんな…」
 
 数歩、後ずさりした時何かに躓き転ぶ。
 
 「これ…ひっ…」
 
 そこにはかつて優しくしてくれた、お婆ちゃんとお爺ちゃんの亡き骸があった。
 
 ヒヨリは立ち上がれず只々狼狽しその亡き骸から距離を取ろうと体を引きずり離れる事しかできない。
 
 「お母さん…助けて……」
 
 頭を抱えうずくまりただ…そう言いこれは悪い夢だと自分何度もに言い聞かせる。
 
 そんな中、突如として村が燃え上がり家々が次々と崩れ落ち徐々にヒヨリが見たあの日の恐怖が浮かぶ光景に近づいていく。
 
 グシャリ…
 
 そして…。
 
 ふと見上げると、恐怖がそこに立っていた。
 
 あの時と姿形は異なり 
 
 自分と同じ背丈で髪を長く生やし目を赤く光らせた鬼がこちらを覗き見ていた。
 
 「嫌ぁああああああ!!」
 
 鬼と目があったその瞬間。
 ヒヨリは叫び、そしてボツボツとただ…。
 
 「来ないで…来ないで…こないで…こないで…おねがい…」
 
 そこには手刀を操り次々と敵をなぎ倒していくヒヨリの姿は無くただそこには、あの日あの場所で何も出来ず恐怖で気を失ってしまった少女の姿があった。
 
 「ごめんなさい…ごめんなさい」
 
 自分でも何で謝っているのかすら分からなかったがそれでもこの目の前の鬼が見逃してくれる事を願い謝り続ける。
 
 そんな中なのに何故か今ふと母の温もりを感じた。
 
 『ヒヨリ?
 どうしたの?
 また怖い夢を見たの?』
 
 不器用で家事も上手くこなせず愛情表現も苦手で無愛想で厳しくいつも黒い悪霊祓いの黒い服を着ているし。
 私が貴方にあげられる物はこれだけだからと無理に技を覚えさせられてちょっと怖かったお母さんだった。
 
 だけど…
 
 夜な夜な私があの時…今の光景を夢で見ちゃった時はいつも決まって必ず
 
 涙を拭いて私がいつまでも側に居るからと頭を撫で一緒に寝てくれたそんな不器用だけど確かに優しかった母の姿。

 それが脳裏に広がりそして体中がそれに包まれた心地がした。
 
 ………
 
 「ヒヨリちゃんに何をしたの!?」
 
 暗く石でできた空間の中5つ置かれた灯火だけがその空間を照らしている。
 
 地面には円と五芒星が描かれその中央に一人の子供と一匹の鬼がいた。
 
 ミゾレは拳を震わせ上からこちらを見る二人を睨む。

 ミゾレの隣にいる鬼は何をするでもなくただ立っているのみで意識もなくその目は虚無に包まれている。
 その姿は間違いなくヒヨリのものだが皮膚の色や角は紅く染まっていた。
 
 ムクロはキッと睨むミゾレを見下ろししわがれた顔で、にやりと笑みを見せると口を開く。
 
 「ヒヨリの中にある鬼を入れた。
 その影響で精神世界におるじゃろう」
 
 そしてムクロは数歩横に歩くと立ち止まりミゾレを見る。
 
 「ミゾレよ…。
 ヒヨリをもとに戻したいか?
 連れ戻す方法は一つ。
 そうすればヒヨリは戻ってこれるじゃろう」
 
 ミゾレは握る拳を緩め下を向いたあと変わり果てたヒヨリを見た。
 
 「何をするればいいの?」

 「なに…簡単な事じゃて…
 ミゾレ…お主がヒヨリの恐れを力に変えるのじゃ」
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