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ヒヒュード合衆国編

不毛な争い

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「……シュヴァルツさん、
どうしてあんなミスを?」

アズキが話しかけてきた

あれから小生は、先生に「頭を冷やせ」と言われ
一階にアズキさんと共に戻ってきた

「……小生も驚きだ。
なぜあんなミスを……」

「……でも、ちょっと安心した。
シュヴァルツさんでもあんなミスするんですね。
まさか人にもう一つチ○コが生えるとは……
ぶふぉッあっはっはっ!!
あの状態でパンチしたら痛そうですね!!」

アズキは手を叩いて盛大に笑った

「ハァ……時期大隊長の名が
聞いて呆れる……」

「……シュヴァルツさん、
さっきから何か考え込んでませんか?」

「……どうしてそう思った?」

「いや、あんな凡ミスをするなんて
何かあったのかな~なんて」

「……」

「……そんなに考え込む程のことが……?」

「……はい、いや、しかし……」

「何で躊躇っているんですか!?
そういうのはあまり良くないと思います!!」

……

この人には、何か重大な秘密がある
それは前言ったと思う

しかしそれが……もしかしたら、
スパイだったからとなったら……

いや……むしろそちらの方が都合が良いのか……?

ここでアズキがスパイというのなら、
小生が倒してしまえば
悩みは消え、情報が漏洩することはなく
第七医師団にとっては良いこと尽くめだ

ここは一度、尋問してみようか……



「……アズキさん」

「ん?」

「……何か隠し事をしていないか?」

「……」

「どうして無言なんですか……?
まさかあなたが」

「……勝負」

「?」

「おれと勝負して、勝ったら教えてあげます。」

「どういう意味?」

「……一度ハッキリしておきたいんです。
どちらが"先生の右腕"に相応しいか……」

「……外でやろうか。
ここでは無礼が過ぎる。」



城下町の、開けた場所
草木が生え、噴水がある大きな公園があった

武器は木の枝を使うことにした


「……20m離れた。いつでも戦えますよ。」

小生は武器を構える

「その前に良いですか。」

「……?」

「おれが二年間騎士団を離れている間、
何をしていたか……聞きたいですよね。」

「……気になります。」

「それは……先生を"超える"為です。」

「超える……?」

「おれは……こう言うとあれだけど、
昔の先生が好きでした。
生徒に優しく、目はギラギラと燃えたような目をした
……あの先生が好きでした。

シュヴァルツさんは知ってるかな。
昔の先生は世界征服を目指していたんですよ。
色々なプランを考えて、結論に至ったんです。」

「……それは?」

「おれ達生徒を、最強の兵士として育て上げ
"ある組織と手を組む"……だそうです。」

「!!!??」

「……ある組織。先生は
今騎士団と敵対関係にある組織のことを言ったんだと
思う。」

「な、なに……!?」

「……この話の続きは、あなたが勝ったらにしましょう
……負けられないですね。」

「……こんなにも負けられない戦いは初めてだ。
久々に"本気"を出そう……」



小生は、黒魔術師と戦った時も
先生と試合をする時も……絶対にこの構えはしなかった

……相手を最悪、殺してしまうからだ。

しかし、その枷は消えた

アズキがスパイなのかどうかも
今はもう……どうでも良い

この戦いは、言わば第七騎士群の
"No.2"を決める戦いだからだ。

経験は小生の方が上
剣の扱いも自信がある

この戦いは……絶対に、負けない



ズサ……

「……!!その構えは……!!」

「……本場の抜刀術を見せよう……
"人を殺す為の"……最強の一手目だ……」

小生は、剣を腰に置き、膝を落とし
左足を後ろに引く

「……」

今の小生には、アズキにしか感覚がない

何も聞こえない
何も見えない
心を無にした



(先に動かれるとまずい……!!)

アズキは、その威風堂々とした姿に圧され
焦るように先手を打とうとした

スタタッ!!

「……甘いッッ!!」

ズザッッッッッ

「!!」

ブンッ

ブンッ

カァァァァン!!!

「「!!」」

(首を狙ってきた!!?
防御に徹しておいてよかった……!!)

(小生の動きについてきた……!?)

ズズズ!!

二人は剣が交差した直後
相手の体勢を崩そうと、全体重を前に出す!!

「……今!!」

サッ

「!?」

シュヴァルツは、全体重がこちらに乗っているのを
確認した後、アズキの剣を左に受け流し
遂にアズキの体勢が前に崩れた!!

「終わりだッ!!」

「まだだッッ!!」

ブォン!!

アズキは勢いのまま前にステップし
シュヴァルツの木の枝をかわしきった!!

タッタタッ

「ふう……危なかった」

アズキはそのまま2歩3歩後ろに下がり
様子見をする

「クッ……決めきれないか……」



おれがシュヴァルツさんに勝てる方法……
それは、同じ土俵には立たないということは
分かりきっている。

今打ち合って分かった
このままじゃ、おれは絶対に勝てないということを

剣士として格が違い過ぎる……
ここまでの実力とは……

先生が「自分より剣の腕は上だ」
って言っていたのが分かる。
"圧倒的強者"……それ以外に言葉が出てこない。

それでもおれは……この勝負、何としてでも、
勝つ。……勝つんだァァァ!!

「ウオオオオオオ!!!」

ダッダッダッ!!

「……無策ッ!!」

シャキィ……



6年前

「気転?」

「あぁそうだ。オレとは違い、アズキは勝負時の気転が
物凄く効く。いわゆる"ゾーン"ってやつか。」

「……よくわからないが、ズガーンって
脳に雷が落ちたみたいに次の一手が出てくるんだ。
でも、剣の腕は皆より一歩劣るけど……」

「剣士というカテゴリーの中では、
一流の者には勝てないだろうな。
しかし、本当の戦いは、そんなに華やかではない。」

「……?」

「相手にしがみついたり、噛みついたり、
目潰ししたり金的したり……
汚い手を容赦なくする奴が強くなる。
喧嘩と同じだ。手段を選ばない者ほど強い。」

「へぇ……!」

「覚えておけ。勝負に勝つのは
必ずしも強者ということではない……」



ブンッッッッッ!!

「投げた!!?」

カキン!!

(弾かれた……!?
でも、距離は詰められた!!)

「うおりゃァァァ!!」

ガシィィィ

「!!?」

おれはシュヴァルツさんの足を、両手で掴んだ

「でやァァァァァァァァ!!!」

ブオオオオオ!!

おれは鉄球投げのような投げ方で
シュヴァルツさんを遠くへ投げ飛ばした!!

バコォォォン!!!

「グハッ……」


「ハァ、ハァ、ハァ」

「はぁ、はぁ、はぁぁぁぁ……」

お互い消耗が激しい

この戦いは、どちらかが諦めるまで続くだろう

「さっきおれ投げましたよね……
柔道ならおれの勝ちなんですけど……」

「……」

ポキッ

「折った……?……まさか!?」

シュヴァルツが二つに折った木の枝
それが何を指しているのか
それは、素人目線でも分かる

「二刀流……!!?」

「小生も……もう、手段は選ばない」



スタタッ

「はやっ……!!」

(枝を二つに折った分、リーチは二分の一になった
中距離からの牽制はもう出来ない
……しかし、アズキのあの手段を選ばない攻撃を
何度も繰り返されては身が持たない……
こちらのペースに戻す!!)

カンカカカンカカカカカン!!

「ぐっ!!」

アズキが腕をクロスし連撃を防いでいる

「これが鉄の剣なら、
アズキはもう死んでいるぞッ!!!」

ドンッ!!

「なっ……」

小生は体当たりをし、体勢を崩すことに成功した!!

「ハァァッッ!!」

小生は追撃をしようと木の枝を胴体に突き出す!!

ガッ ガッ!!

「!?」

アズキは咄嗟に体勢を元に戻し
二つの木の枝を抑えつけた!!

「いい加減諦めてください……!!
この不毛な争いを、いつまで続けるんですか……!!」

「アズキが諦めないと言うのなら
幾らでも続けるさ!!」

グググ……

「力つよッ……!!」

「アズキこそ諦めろ!!
力の差は歴然だろう……!!」

「くっ……ウオオオオオオオ!!」

「ハァァァァァァァ!!!」



「もうやめろ!!」

「「!!」」

「せ、先生……」

アズキが力を緩めながら言う

先生が、額に汗を流しながら
叫んだ一言は、今の自分達の罪悪感に
悲痛なほど届いた

シュヴァルツさんは、悔しそうに力を抜いた

戦いは終わった

決着は着かなかった

おれも、本当の勝負ならどちらが上なのか
はっきりさせたかったけど……
この戦いは、あまりに不毛だった

先生が勝者に精鋭部隊部隊長を任命する
なんていうことも言ってなければ
増してやこの戦いのことを先生は知らなかった

反省するべきだろう……

シュヴァルツさんと次話す時
どうすれば良いんだろう……
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