怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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幕間4

心の当たりがあるならば・前編

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 過去二回の幕間、先輩とひとねちゃんの二人が『自身が如何なる人物か』という話をした後で申し訳ない限りだが、わたしは人を一言で表すなんてのは不可能だと思っている。
 十年後のわたしは箱入り娘が如く大人しいかもしれないし、もっと言えば明日のわたしだって今日のわたしとは違う。
 現にこの文章がいつもより少しばかり堅苦しくなっているのも、さっきまで読んでいた小説の影響である。

 なんだか四人目の彼のようなこの話し方も飽きて来たのでいつものわたしに戻ろうと思う。
「……?」
 あれ? いつものわたしって事は一言で表せるわたしがあるのでは?
「…………」
 ま、いっか。
 それよりもわたし、下里くだりは目の前にある問題を片付けなければいけない。
 怪奇現象でも奇妙奇天烈でも無く、学生であれば皆等しく訪れるありきたりな問題。
 そう、進路希望である。

 *

 夢が無いのかって? いいや夢はある、太陽より大きな物が星の数ほどある。
 その為わたしの銀河には影が無く、だからこそどれが本命か分からない。
 シャイニングくだりギャラクシー、つまりは多すぎて決められないというわけだ。
 既に先生からは催促されている。ともかく何か書かなければ始まらないのでわたしは全て書く事にした。
 第一志望の欄に小さく目一杯書くわけではない、自分の中身を曝け出す為に文字に起こすのだ。
 と、いうわけで進路希望の用紙を家のコピー機にて大量生産。思いつく限りの夢を書いていく。
 定番の進学から宇宙飛行士まで際限なく幅を広げて書いていく。
 書いてるうちに派生して増えていく、増えた先でまた派生。
 テレビ番組から着想を得てまた増える。本棚の文字をみてまた増える。
 増えた物がまた派生。増えて、派生して、増えて……エトセトラ。
 なんだから楽しくなってきた、どうにかなるかもケセラセラ。
 余裕を持った筈なのに紙がもう少し、これ以上使うと怒られるかも?
 どんどん夢を吐き出していき、際限なく続き……
「…………ぐぅ」
 わたしは夢へと誘われた。
 夢想じゃなくてスリーピング。

 *

「……ふごっ!?」
 カーテンから漏れた光が目に直撃して目を覚ました。飛び立ってもいないのに身体の一部を焼かないでほしい。
 わたしの目は蝋で繋がっていないので大事なし、眠気まなこを擦って時計を……
「遅刻じゃん!」
 蛙も驚くほどぴょんこと飛び上がり、バタバタと身支度を始める。
「こう言う時に限って髪がボサボサ!」
 ケトルに少し残っていたお湯をタオルに染み込ませて髪にあてる。 
「うきゃう!」
 思ったより熱い。朝にコーヒーを飲むのはダディだけ、まだ家を出たばかりだね?
 と、そんな推理ごっこをしてる時間は無い。
 さっきのわたしのようにぴょんこと跳ねている癖っ毛は何をしても戻らないのでそのままに、制服に着替えて食パン一枚を拝借。
「……っと」
 いけない、このバタバタの原因を忘れては全てが無駄になっちゃう!
 机から進路希望の紙を取り、鞄に入れる。
 靴を履く。食パンを手に持ち逆の手でドアノブを捻る。
「ごめん! おねーちゃん鍵閉めといて!」
 先ほどからドタバタとするわたしを楽しそうに眺めていた姉はリビングから手だけ出して二本の指で丸を作った。
「お願いね!」
 最後に念を押して、わたしは家を飛び出した。

 回想終わり! 現在にヒアウィーゴー!

 *

 全てを話し終えたわたしは着席する。
 いつもの部室、向かいには先輩とひとねちゃんが並んで座っている。
 わたしはとある事件を起こしてしまい二人に協力を仰いだのだ。
 それに必要だから一昨日の夜からの行動をお話したと言うわけなのです。
 ひとねちゃんはお茶を一口飲み、首を傾げた。
「……何か事件があったかい?」
「ん? ……あっ! そうか」
 そもそも何があったか話してなかった。いきなり相談があると言って回想したんじゃ意味が分からない。
「えっとね、問題なのは進路希望調査の事なの」
「確かに入れた筈なのにいつの間にか無くなってたとか?」
「いえ、ちゃんと昨日提出しました。それが問題なんです」
「……?」
 そう、提出してさえいなければ幾らでも挽回できた。提出してしまったから問題なのだ。
「提出した用紙に何を書いていたか分からないんですよ」
 先輩の手から饅頭が落ちる。まだ包装ありなのでご心配なく。
「まじか、お前」
「急いでたからどの用紙持って来たかわかんなかったんですよぅ!」
「でも全て下里さんの夢なんだろう? ならどれを提出しても進路希望としては問題無いんじゃないかい?」
「確かにそうなんですけど……」
 正直わたしもそう思っていたから提出する時も確認しなかった。天運に身を任せるのも粋だろうと。
 でも……でも……
「それを見ながら三者面談するとか聞いてなかったんだよ!」
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