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幕間・6
遠回りした推理・後編
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「ああ、ありがとう」
下里が目の前に置いたお茶を一口飲み、生徒会長は辺りを見回す。
「探偵くん……失礼、藤宮さんはいないのかい?」
「はい、今日は用事があるとかで先に帰りました」
「そうか……」
「もしかして怪奇現象絡みですか?」
「いや、そういう訳じゃないと思うんだけど少し知恵を借りたくてね」
「何か事件ですか?」
「うん、そんなところ」
下里は立ち上がって胸を張る。
「ならばわたし達に聞かせてください。これでも数々の怪奇事件を見てきた身です!」
「そうだね、じゃあ聞いてもらおうかな。簡単に説明するなら……密室盗難事件だ」
「密室、ミステリの定番ですね!!」
下里のテンションには乗らず、会長は己がペースを崩さずに口を開く。
「文化祭実行委員を決めているのが僕なのは知っているよね。毎年名前は出てしまうんだけど……」
下里が手を挙げる。
「今年は配置まで出てしまっているんですよね」
「ああ、やっぱり知っていたか。その配置は僕しか知り得ない状況だったんだよ」
「そのメモ書きか何かが密室から盗難されたって事ですか」
「メモ書き自体は残っていた。盗難されたのはその情報だけだよ。盗み見たのか、一度入手してから元に戻したのかは分からない。でもこのメモ書きを置いていた時間、これを取ったり見れたりした人はいない筈なんだ」
会長はこの事件を密室と言っていた。ならば……
「どちらにせよその密室を見る必要がありそうです。場所を移しませんか?」
「ああ、君たちが良いならお願いしたい」
*
「ま、君たちも来たことあるよね」
生徒会室のさらに奥、鍵付きのドアで仕切られた先にあるのが生徒会長室。俺と下里は文化祭の申請の際に一度訪れていた。
特別な作りというわけではなく図書室でいう我らが部室、司書室みたいなものである。
窓はドアの反対側の壁に大きなのが二つ。人が容易に通れる作りであるが鍵式の錠があるし割れた跡も無い。
「窓の鍵は何処で保管してるんです?」
下里も同じとこに注目していたらしい。聞かれた会長はポケットからキーケースを取り出して上座……っぽいところに置かれた机の引き出しを開く。
鍵付き引き出しの中から窓の鍵。次なる疑問を会長は理解していた。
「この鍵は常に僕が持っている。少なくとも校内ではね」
「体育の時はロッカーの中ですよね」
番号式の鍵があるにはあるが閉めるときに盗み見て開くことは可能だろう。
「鍵の複製は出来たかもだけど……まあ密室は物理的な密室だけじゃない。とりあえず話の続きを聞いて貰えば幾つかの疑問は自然に無くなると思うよ」
出される側になったお茶を飲み、二人して聞く体制になる。
「まずは状況から。時間は四日前、先週の金曜日。僕は委員配置に関わるメモを書き、この机に裏返しで置いてトイレに出た。もちろんドアの鍵は閉めたよ。
離れたのは数分。機械仕掛けだとか手の込んだ工作は出来なかった筈だ。
戻ってきた時に鍵はもちろん閉まっていた。メモの位置も変わってなかったと思う」
ここで一旦区切られる。会長は引き出しからメモ帳のページをちぎった二枚の紙を取り出した。
『小山内隆也 二年 文芸部
大山源太 三年 美術部
屋久杉智野 三年 古典部 茶道部』
『一階・小山内隆也
二階・屋久杉智野
三階・大山源太』
学年や部活動が書いてあるのは担当区域と被らないようにする為だろう。
俺たちが読んだのを確認し、会長は話を再開する。
「物理的な密室は見てもらった通り、次は衆人環視による密室の補強を話すよ。
この生徒会長室に入るには生徒会室を通るか窓からしかない。生徒会室には生徒会全メンバーがずっと滞在していた。
窓の方はレイさん、用務員さんだね。彼女が雑草の処理で窓のすぐ向こう側にずっといた。もちろん全員に確認したけどこの部屋に入った者、近づいた者はいなかったそうだ」
一呼吸置いた後、会長は席に着く。
「何か質問はあるかな?」
下里が手を挙げる。
「生徒会の人、もしくはレイちゃんが犯人って事はないですか?」
まず疑うべきは当然そこになる。会長もそれは予測していたのだろう、台本でも読むように淀みなく返答する。
「生徒会メンバーは僕を除いて四人。残り三人が見ている中一人がやるのは難しい、二人もしくは三人、あるいは全員が結託すれば可能だと思うけど」
「可能性は少ないですよね」
しかし完全否定は出来ていない、一応頭の片隅に置いておこう。
「それとレイさんだね。彼女が侵入できたとすればもちろん窓からになる」
「レイちゃんは大体の部屋の鍵を持ってますよ」
「そうだね」
会長に促され窓の前に立つ。先程見た通り窓は鍵付き、そしてこの鍵は……
「外からは開けないタイプだな」
「みたいですね」
思ったよりも密室は完璧だ。
天井裏とか床下とか突拍子も無い物は排除していい。恐らく下里も会長もそれは分かっているだろう。
ううん、と唸っていた下里が思い付いたと主張するように手を叩く。
「天井裏がありますね、犯人は忍者です」
「…………」
さて、俺は考える。ひとねならばどうするか。
推理というよりは模倣に近いな。そんな自己評価をしながらも考える。
ひとねのやり方を端的に言ってしまえば『全てを疑う』だ。起こった現象が本当にソレなのか、違う現象による副産物ではないのか。
もちろん大体の案は完全否定できない。だから一番可能性の高い物を見極め、それに手をつける。
可能性が高くてもハズレならば次点に……これ、最終的には数打ちゃあたるじゃないか?
まず思いつくのはそもそも侵入していないという案だ。今回犯人の目的はメモを見ること、入らずに見る方法があるんじゃないか? 例えば……
「あらかじめカメラを設置しておいて後から回収するというのは」
「先輩、今のカメラは回収しなくてもぶるーとぅーすとかでリアルタイムです」
「ならより簡単だな」
「ではカメラはどこに仕掛けられていたと思う?」
会長の視線を追ってデスクを見る。デスクはドアと窓のない壁側の真ん中に置かれている。
思ったよりも質素だが、後ろにある校章の旗が生徒会長感を担っている。
デスクの上は殺風景、大体のものを引き出しに入れているのだろう。
会長がメモを持ち歩いたならこの部屋全体を疑う必要があるだろうけど、書いてすぐに裏返しに置かれたという。カメラはこの机の上を映せる位置でなければならない。
前述の通り机は壁より中央、部屋の天井は低くないため天井や壁にカメラを仕掛けてもシャーペンで書かれた薄い文字は読み取れないだろう。
では机に一番近い壁、デスクの真後ろはどうだろう。しかし……
俺の視線で察したのか会長が椅子に座る
「…………」
やはりダメだ。真後ろでは会長で隠れてしまう。
デスクの上に物は無いためソレにカメラを仕掛けるのも不可能、ならば……
「ペンがカメラという事は?」
最近はペン型のカメラもあるという、似たようなデザインのソレとすり替える事は可能だろう。
「使ったペンの事だね」
会長は胸ポケットから黒くて少し太い、万年筆のようなペンを取り出した。
持ってみると意外と軽い、側面には学校名と今の三年生が該当する『第四十六期』が刻印されているが少し掠れている。
「……これと同じカメラを用意するのは難しそうですね」
ペンを返す。胸ポケットに戻そうとした会長の腕を下里が前触れなく掴んだ。
「な、どうした」
下里の視線は少し取り乱した会長では無く掴んだ腕に注がれている。いや、腕というよりも
「学生服のボタン、これがカメラなら至近距離で映せます」
確かにペンよりいい案だが同じ手順で却下せざるを得ない。却下は会長に任される。
「普通のボタンなら出来るけれどこのボタンには校章が付いてるね」
「あ、確かにそです」
下里が腕組みをして「うむう」と唸る。
「会長さんも中々やりますね、探偵みたいです」
「いや、いきなり人に頼るのはよくない。時間をかけて可能性を潰していただけだよ。探偵に見えていたのならソレは見せ方の問題だよ」
今の観点は面白い。その方法を使えば大体の人は探偵のように振る舞えてしまうわけだ。そういえば審査員の話をしていた時、俺も似たような事を考えていた気がする。
そう『今の時期だけはこの学校にひとね以外の探偵が発生している』みたいな事だ。
「……会長、さっきのメモもう一度見てもいいですか?」
「ああ、もちろん」
記憶を探れば出てくるが脳は思考に使いたいので情報は視覚に任せた方がやりやすい。
『小山内隆也 二年 文芸部
大山源太 三年 美術部
屋久杉智野 三年 古典部 茶道部』
『一階・小山内隆也
二階・屋久杉智野
三階・大山源太』
「……なるほど」
「何か分かったんですか?」
「ああ、このメモと別にもう一つ情報をつけたそう」
会長からペンと新しいメモを借り、最後の情報を書き出す。
『一階・茶道部、図書部、美術部、園芸部
二階・天文部、文芸部、クイズ研
三階・手芸部、漫研、古典部、占い研』
俺は三枚のメモの順番を入れ替える。
『審査員と所属部活』『階数とそこにある部活』『審査員と担当区域』の順だ。
「前二つは大体の生徒ならば知り得た情報、最後の一つが会長しか知り得なかった情報だ」
ホワイトボードが無いので書けはしないが、わかりやすくするなら前者二つの間に『+』を後者二つの間に『=』をつけるといい。
「前提条件として所属部活と担当区域の部を被らせてはいけない」
視線で確認を取る、会長は意を唱えない。
先程俺はひとねのやり方を可能性の高い物を見つけ出す事だと表現した。
しかし例外の事例もある。考えられる解が一つしか無い場合だ。その場合推理の難易度は格段と下がり、模倣たる似非探偵にも手が届く位置にくる。
「ならば最初に当てはめるのは一階の茶道部、三階の古典部に所属しているから二階しかない屋久杉智野になる」
メモを見ていた二人から声が漏れる。
「同じ要領で残り二人も考えてみるとそれぞれ一階と三階の部活に所属しているのが分かる」
普段は選択肢が幾つもあった。更なる情報が提供されない限り推理のしようがなかった。
しかし今年は違った。
「今年の条件ではこの組み合わせしかあり得ない、この組み合わせは少し考えれば誰にでも分かるものだったんです」
「つまり……」
「はい、密室事件なんてハナからなかったという事です」
「……確かに反証が見つからない」
依頼者たる会長のお墨付きも貰えた。これにて事件解決。しかし……
会長は俺たちに礼を言った後、崩れ落ちるように椅子に腰掛け、大きなため息をつく。
「これは審査員の選定から始めなければいけないな」
彼にとっては最悪の結末となってしまったのである。
下里が目の前に置いたお茶を一口飲み、生徒会長は辺りを見回す。
「探偵くん……失礼、藤宮さんはいないのかい?」
「はい、今日は用事があるとかで先に帰りました」
「そうか……」
「もしかして怪奇現象絡みですか?」
「いや、そういう訳じゃないと思うんだけど少し知恵を借りたくてね」
「何か事件ですか?」
「うん、そんなところ」
下里は立ち上がって胸を張る。
「ならばわたし達に聞かせてください。これでも数々の怪奇事件を見てきた身です!」
「そうだね、じゃあ聞いてもらおうかな。簡単に説明するなら……密室盗難事件だ」
「密室、ミステリの定番ですね!!」
下里のテンションには乗らず、会長は己がペースを崩さずに口を開く。
「文化祭実行委員を決めているのが僕なのは知っているよね。毎年名前は出てしまうんだけど……」
下里が手を挙げる。
「今年は配置まで出てしまっているんですよね」
「ああ、やっぱり知っていたか。その配置は僕しか知り得ない状況だったんだよ」
「そのメモ書きか何かが密室から盗難されたって事ですか」
「メモ書き自体は残っていた。盗難されたのはその情報だけだよ。盗み見たのか、一度入手してから元に戻したのかは分からない。でもこのメモ書きを置いていた時間、これを取ったり見れたりした人はいない筈なんだ」
会長はこの事件を密室と言っていた。ならば……
「どちらにせよその密室を見る必要がありそうです。場所を移しませんか?」
「ああ、君たちが良いならお願いしたい」
*
「ま、君たちも来たことあるよね」
生徒会室のさらに奥、鍵付きのドアで仕切られた先にあるのが生徒会長室。俺と下里は文化祭の申請の際に一度訪れていた。
特別な作りというわけではなく図書室でいう我らが部室、司書室みたいなものである。
窓はドアの反対側の壁に大きなのが二つ。人が容易に通れる作りであるが鍵式の錠があるし割れた跡も無い。
「窓の鍵は何処で保管してるんです?」
下里も同じとこに注目していたらしい。聞かれた会長はポケットからキーケースを取り出して上座……っぽいところに置かれた机の引き出しを開く。
鍵付き引き出しの中から窓の鍵。次なる疑問を会長は理解していた。
「この鍵は常に僕が持っている。少なくとも校内ではね」
「体育の時はロッカーの中ですよね」
番号式の鍵があるにはあるが閉めるときに盗み見て開くことは可能だろう。
「鍵の複製は出来たかもだけど……まあ密室は物理的な密室だけじゃない。とりあえず話の続きを聞いて貰えば幾つかの疑問は自然に無くなると思うよ」
出される側になったお茶を飲み、二人して聞く体制になる。
「まずは状況から。時間は四日前、先週の金曜日。僕は委員配置に関わるメモを書き、この机に裏返しで置いてトイレに出た。もちろんドアの鍵は閉めたよ。
離れたのは数分。機械仕掛けだとか手の込んだ工作は出来なかった筈だ。
戻ってきた時に鍵はもちろん閉まっていた。メモの位置も変わってなかったと思う」
ここで一旦区切られる。会長は引き出しからメモ帳のページをちぎった二枚の紙を取り出した。
『小山内隆也 二年 文芸部
大山源太 三年 美術部
屋久杉智野 三年 古典部 茶道部』
『一階・小山内隆也
二階・屋久杉智野
三階・大山源太』
学年や部活動が書いてあるのは担当区域と被らないようにする為だろう。
俺たちが読んだのを確認し、会長は話を再開する。
「物理的な密室は見てもらった通り、次は衆人環視による密室の補強を話すよ。
この生徒会長室に入るには生徒会室を通るか窓からしかない。生徒会室には生徒会全メンバーがずっと滞在していた。
窓の方はレイさん、用務員さんだね。彼女が雑草の処理で窓のすぐ向こう側にずっといた。もちろん全員に確認したけどこの部屋に入った者、近づいた者はいなかったそうだ」
一呼吸置いた後、会長は席に着く。
「何か質問はあるかな?」
下里が手を挙げる。
「生徒会の人、もしくはレイちゃんが犯人って事はないですか?」
まず疑うべきは当然そこになる。会長もそれは予測していたのだろう、台本でも読むように淀みなく返答する。
「生徒会メンバーは僕を除いて四人。残り三人が見ている中一人がやるのは難しい、二人もしくは三人、あるいは全員が結託すれば可能だと思うけど」
「可能性は少ないですよね」
しかし完全否定は出来ていない、一応頭の片隅に置いておこう。
「それとレイさんだね。彼女が侵入できたとすればもちろん窓からになる」
「レイちゃんは大体の部屋の鍵を持ってますよ」
「そうだね」
会長に促され窓の前に立つ。先程見た通り窓は鍵付き、そしてこの鍵は……
「外からは開けないタイプだな」
「みたいですね」
思ったよりも密室は完璧だ。
天井裏とか床下とか突拍子も無い物は排除していい。恐らく下里も会長もそれは分かっているだろう。
ううん、と唸っていた下里が思い付いたと主張するように手を叩く。
「天井裏がありますね、犯人は忍者です」
「…………」
さて、俺は考える。ひとねならばどうするか。
推理というよりは模倣に近いな。そんな自己評価をしながらも考える。
ひとねのやり方を端的に言ってしまえば『全てを疑う』だ。起こった現象が本当にソレなのか、違う現象による副産物ではないのか。
もちろん大体の案は完全否定できない。だから一番可能性の高い物を見極め、それに手をつける。
可能性が高くてもハズレならば次点に……これ、最終的には数打ちゃあたるじゃないか?
まず思いつくのはそもそも侵入していないという案だ。今回犯人の目的はメモを見ること、入らずに見る方法があるんじゃないか? 例えば……
「あらかじめカメラを設置しておいて後から回収するというのは」
「先輩、今のカメラは回収しなくてもぶるーとぅーすとかでリアルタイムです」
「ならより簡単だな」
「ではカメラはどこに仕掛けられていたと思う?」
会長の視線を追ってデスクを見る。デスクはドアと窓のない壁側の真ん中に置かれている。
思ったよりも質素だが、後ろにある校章の旗が生徒会長感を担っている。
デスクの上は殺風景、大体のものを引き出しに入れているのだろう。
会長がメモを持ち歩いたならこの部屋全体を疑う必要があるだろうけど、書いてすぐに裏返しに置かれたという。カメラはこの机の上を映せる位置でなければならない。
前述の通り机は壁より中央、部屋の天井は低くないため天井や壁にカメラを仕掛けてもシャーペンで書かれた薄い文字は読み取れないだろう。
では机に一番近い壁、デスクの真後ろはどうだろう。しかし……
俺の視線で察したのか会長が椅子に座る
「…………」
やはりダメだ。真後ろでは会長で隠れてしまう。
デスクの上に物は無いためソレにカメラを仕掛けるのも不可能、ならば……
「ペンがカメラという事は?」
最近はペン型のカメラもあるという、似たようなデザインのソレとすり替える事は可能だろう。
「使ったペンの事だね」
会長は胸ポケットから黒くて少し太い、万年筆のようなペンを取り出した。
持ってみると意外と軽い、側面には学校名と今の三年生が該当する『第四十六期』が刻印されているが少し掠れている。
「……これと同じカメラを用意するのは難しそうですね」
ペンを返す。胸ポケットに戻そうとした会長の腕を下里が前触れなく掴んだ。
「な、どうした」
下里の視線は少し取り乱した会長では無く掴んだ腕に注がれている。いや、腕というよりも
「学生服のボタン、これがカメラなら至近距離で映せます」
確かにペンよりいい案だが同じ手順で却下せざるを得ない。却下は会長に任される。
「普通のボタンなら出来るけれどこのボタンには校章が付いてるね」
「あ、確かにそです」
下里が腕組みをして「うむう」と唸る。
「会長さんも中々やりますね、探偵みたいです」
「いや、いきなり人に頼るのはよくない。時間をかけて可能性を潰していただけだよ。探偵に見えていたのならソレは見せ方の問題だよ」
今の観点は面白い。その方法を使えば大体の人は探偵のように振る舞えてしまうわけだ。そういえば審査員の話をしていた時、俺も似たような事を考えていた気がする。
そう『今の時期だけはこの学校にひとね以外の探偵が発生している』みたいな事だ。
「……会長、さっきのメモもう一度見てもいいですか?」
「ああ、もちろん」
記憶を探れば出てくるが脳は思考に使いたいので情報は視覚に任せた方がやりやすい。
『小山内隆也 二年 文芸部
大山源太 三年 美術部
屋久杉智野 三年 古典部 茶道部』
『一階・小山内隆也
二階・屋久杉智野
三階・大山源太』
「……なるほど」
「何か分かったんですか?」
「ああ、このメモと別にもう一つ情報をつけたそう」
会長からペンと新しいメモを借り、最後の情報を書き出す。
『一階・茶道部、図書部、美術部、園芸部
二階・天文部、文芸部、クイズ研
三階・手芸部、漫研、古典部、占い研』
俺は三枚のメモの順番を入れ替える。
『審査員と所属部活』『階数とそこにある部活』『審査員と担当区域』の順だ。
「前二つは大体の生徒ならば知り得た情報、最後の一つが会長しか知り得なかった情報だ」
ホワイトボードが無いので書けはしないが、わかりやすくするなら前者二つの間に『+』を後者二つの間に『=』をつけるといい。
「前提条件として所属部活と担当区域の部を被らせてはいけない」
視線で確認を取る、会長は意を唱えない。
先程俺はひとねのやり方を可能性の高い物を見つけ出す事だと表現した。
しかし例外の事例もある。考えられる解が一つしか無い場合だ。その場合推理の難易度は格段と下がり、模倣たる似非探偵にも手が届く位置にくる。
「ならば最初に当てはめるのは一階の茶道部、三階の古典部に所属しているから二階しかない屋久杉智野になる」
メモを見ていた二人から声が漏れる。
「同じ要領で残り二人も考えてみるとそれぞれ一階と三階の部活に所属しているのが分かる」
普段は選択肢が幾つもあった。更なる情報が提供されない限り推理のしようがなかった。
しかし今年は違った。
「今年の条件ではこの組み合わせしかあり得ない、この組み合わせは少し考えれば誰にでも分かるものだったんです」
「つまり……」
「はい、密室事件なんてハナからなかったという事です」
「……確かに反証が見つからない」
依頼者たる会長のお墨付きも貰えた。これにて事件解決。しかし……
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