日常のひとコマ

繰奈 -Crina-

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自己責任と、大人になるということ (女性/責任/自信)

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「あ、ヤバっ」

よくわからないままに、適当にハンドルを切ってバックした彼女を待っていたのは、ガリガリっという鈍い音とぶつかったとわかる手応えだった。
どうしようかとわずかに逡巡した後、彼女は大きく前進して車を壁から離して停車する。
車の中で迷いを断ち切るかのように、意識的して大きく溜息をつく。

恐る恐る彼女が覗きこんだ車の右後部には、幸いにも目立つ傷はなかった。
自宅の塀に寄せて車を停めようと思ったが、もっと寄せた方が良いのではないかという思いが消えなかった。
そうして、エンジンを切っては掛けを繰り返し、切り返して少しずつ寄せようとした結果、角地である自宅横の電信柱に車をこすることとなったのだ。
仕事に忙殺されて1年以上車を運転する機会がなかった彼女の中では、車幅感覚とバック時のハンドルの切り返し感覚がリセットされていた。
今までは感覚的に行っていたが、右にハンドルを切ると後輪がどう動くのかが瞬間的にわからなくなる。
そして、一度失ったその感覚は戻らないまま、考えれば考えるほどにわからなくなってしまうのだ。


「あ~、やっちゃったなぁ……」
敢えて独り言を言うことで、冷静さを取り戻そうとする。
それでも、過去に事故を起こした時より冷静な自分も感じていた。
あの時と違って、今回ぶつけた車は彼女自身が購入した車だからだ。
あの頃は若く、自分で車を購入することなど思いもつかず、父親が通勤に使う車を日常的に借りていた。
自宅に入り両親に車をぶつけたことを話しても、今なら笑い話で済むであろう。
あの頃は随分ときつく叱られたものだが。
今となっては、彼女自身以外には何の責任も負担もかからない。

多少の恥ずかしさと情けなさで、彼女は車から視線を上げて近所の公園に向かった。
笑い話で済むことはわかっているが、それでもなんとなく自分自身が気恥ずかしい。
情けない、という思いもある。


だが、彼女が若干の清々しさを感じていることも事実だった。
大人になった自分を感じているのだ。
車を購入した時も、こんなに大金を払えるようになった自分に感動した。
その車に何年も乗り、ぶつけた傷も自分の働いた給与で支払う。
当たり前のことなのだが、彼女はそれが妙に嬉しかったのだ。

車、彼女にとってそれは、生きるために必要不可欠なものではない。
だが、必要不可欠である衣食住全てを親の世話になって生きていた頃、彼女に何か予想外の出来事が起こると、それは親の責任であり負担となった。
今は、彼女自身の責任と負担で全てを終えられる。
あの頃と変わらず、今も実家に住んでいる。
だが、家に食費と生活費を入れるようになった。
遊びに行くのも、高い買い物をすることも自分で決められる。

自己責任、即ちそれは、大人になったということなのだ。
彼女は予想外のアクシデントによってそれを実感した。
理屈ではなく、感覚で理解したからこそ、そこには嬉しさがあった。

それはそれとして、車には確かに傷が残っているのだが。

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