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焦燥感とワクワク感 (女性/結婚/恋愛/不安)
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結婚を焦るつもりはない。
焦っても仕方ない。
相手あってのことだから、自分ひとりが焦ったところで仕方がないのは重々承知している。
何度そう言い聞かせても、心の奥でくすぶり続ける不安は消えそうにない。
最近、彼女は自分自身の不安を持て余していた。
この人と結婚するのだと思っていた相手との別れを経て、今もひとりでいる彼女には、強さと不安が同じ重さで存在する。
仕事は順調であり、最近ではチームをまとめるリーダー役に抜擢されたりと順風満帆である。
それなりに稼ぎ、自立しているという自負もある。
それは彼女の自信であると同時に負い目でもある。
彼女がいずれ結婚するのだと思っていた男性とは、5年間の付き合いの内2年間は遠距離恋愛だった。
離れても変わらずにいたつもりだったが、結果的には距離に負けてしまった。
その別れ自体を彼女は仕方のないことだと受け止めている。
だが、一緒に来て欲しいと言ってもらえなかったことは彼女の傷となって今も残っている。
転勤が決まった際に、何の迷いもなく遠距離恋愛になることを宣言された。
当時、彼女は仕事が面白くて仕方のない時期であったので、実際に結婚を匂わされていたり、ついて来て欲しいと言われていても困っていただろう。
それでも、遠距離恋愛になることについて相談もなく、ただ宣言されたことに対する戸惑いもわずかにあった。
そしてそれは、ふたりの未来が重ならないことが確定となった今でこそ、傷となって残ってしまっている。
仕事と結婚。
どちらかを選ぶつもりも、どちらかしか選べないつもりもない。
だが、三十路を目前にして友人たちから結婚や出産の連絡が来るたびに、どちらかを選らばなければならないような焦燥感に駆られる。
ついて来て欲しいと言われなかったこと、事実はそれだけであり、それ以上のことを彼は何も口にしていない。
だが、彼女は仕事をする自分が結婚に向かないと、彼がそう判断したのだと感じるようになっていた。
仕事に夢中になって外食が続くのはまだましな方で、彼女はしばしば寝食を忘れて仕事に励んでいた。
キャリアウーマンだと言われることが嬉しくもあった。
同時に、そのような状態で主婦業ができないことも心のどこかでは自覚していた。
自覚しながらも自分を変えようとしなかったこと、それが彼女の負い目である。
今でも仕事は楽しい。
だが、仕事に対する割合を減らさなければ結婚はできないであろう自分の性格を、彼女は薄々感じていた。
そして、どちらかを選ばなければならないという焦燥感に駆られるのだ。
------------------
玄関を開けると、カレーのにおいがした。
カレーだと認識すると同時に、彼女のお腹が空腹を訴えるようにきゅるると鳴る。
「ただいま」
バッグを放り投げながらキッチンに声を掛けると、「おかえり」と明るい声が帰ってくる。
とりあえず化粧を落とそうと洗面所に向かうと、彼の部屋からパソコンの起動音が漏れ聞こえた。
仕事の途中なのだろうと判断し、食卓で進捗を聞いてみることにする。
32歳となった彼女は、仕事で知り合ったフリーのWEBデザイナーと同棲するようになっていた。
自宅で仕事をする彼は料理が趣味であり、仕事に行き詰ると凝った料理に挑戦する。
その日の気分と温度と湿度で数種類のスパイスを使い分けるカレーは、彼の得意料理のひとつだ。
残業が多い彼女が帰宅する頃には、大抵、彼は食事の用意を終わらせていた。
休日、ふたりでいても食事の支度は殆ど彼がする。
彼女は感謝と労いを込めて、後片付けと洗い物をする。
いつの間にかそれが当たり前となっていた。
ひとり暮らしが長いふたりなので、洗濯は自分のペースで行う。
その際に、ついでに洗うものがあるかお互いに声を掛ける。
彼女は、仕事か結婚かと悩んだ日々をもう覚えてはいない。
どちらかを選ばなくとも、一緒に生活できる男性と暮らしているからだ。
結婚に対する焦燥感もない。
お互いにそういう気分になれば、ふとしたはずみで婚姻届を提出してしまうだろう自分をわかっているからだ。
だが、結婚願望は前よりも強くなったと彼女は感じている。
結婚を焦るつもりはない。
焦っても仕方ない。
相手あってのことだから、自分ひとりが焦ったところで仕方がないのは重々承知している。
何度そう言い聞かせても、心の奥で膨らみ続ける期待は収まりそうにない。
焦っても仕方ない。
相手あってのことだから、自分ひとりが焦ったところで仕方がないのは重々承知している。
何度そう言い聞かせても、心の奥でくすぶり続ける不安は消えそうにない。
最近、彼女は自分自身の不安を持て余していた。
この人と結婚するのだと思っていた相手との別れを経て、今もひとりでいる彼女には、強さと不安が同じ重さで存在する。
仕事は順調であり、最近ではチームをまとめるリーダー役に抜擢されたりと順風満帆である。
それなりに稼ぎ、自立しているという自負もある。
それは彼女の自信であると同時に負い目でもある。
彼女がいずれ結婚するのだと思っていた男性とは、5年間の付き合いの内2年間は遠距離恋愛だった。
離れても変わらずにいたつもりだったが、結果的には距離に負けてしまった。
その別れ自体を彼女は仕方のないことだと受け止めている。
だが、一緒に来て欲しいと言ってもらえなかったことは彼女の傷となって今も残っている。
転勤が決まった際に、何の迷いもなく遠距離恋愛になることを宣言された。
当時、彼女は仕事が面白くて仕方のない時期であったので、実際に結婚を匂わされていたり、ついて来て欲しいと言われていても困っていただろう。
それでも、遠距離恋愛になることについて相談もなく、ただ宣言されたことに対する戸惑いもわずかにあった。
そしてそれは、ふたりの未来が重ならないことが確定となった今でこそ、傷となって残ってしまっている。
仕事と結婚。
どちらかを選ぶつもりも、どちらかしか選べないつもりもない。
だが、三十路を目前にして友人たちから結婚や出産の連絡が来るたびに、どちらかを選らばなければならないような焦燥感に駆られる。
ついて来て欲しいと言われなかったこと、事実はそれだけであり、それ以上のことを彼は何も口にしていない。
だが、彼女は仕事をする自分が結婚に向かないと、彼がそう判断したのだと感じるようになっていた。
仕事に夢中になって外食が続くのはまだましな方で、彼女はしばしば寝食を忘れて仕事に励んでいた。
キャリアウーマンだと言われることが嬉しくもあった。
同時に、そのような状態で主婦業ができないことも心のどこかでは自覚していた。
自覚しながらも自分を変えようとしなかったこと、それが彼女の負い目である。
今でも仕事は楽しい。
だが、仕事に対する割合を減らさなければ結婚はできないであろう自分の性格を、彼女は薄々感じていた。
そして、どちらかを選ばなければならないという焦燥感に駆られるのだ。
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玄関を開けると、カレーのにおいがした。
カレーだと認識すると同時に、彼女のお腹が空腹を訴えるようにきゅるると鳴る。
「ただいま」
バッグを放り投げながらキッチンに声を掛けると、「おかえり」と明るい声が帰ってくる。
とりあえず化粧を落とそうと洗面所に向かうと、彼の部屋からパソコンの起動音が漏れ聞こえた。
仕事の途中なのだろうと判断し、食卓で進捗を聞いてみることにする。
32歳となった彼女は、仕事で知り合ったフリーのWEBデザイナーと同棲するようになっていた。
自宅で仕事をする彼は料理が趣味であり、仕事に行き詰ると凝った料理に挑戦する。
その日の気分と温度と湿度で数種類のスパイスを使い分けるカレーは、彼の得意料理のひとつだ。
残業が多い彼女が帰宅する頃には、大抵、彼は食事の用意を終わらせていた。
休日、ふたりでいても食事の支度は殆ど彼がする。
彼女は感謝と労いを込めて、後片付けと洗い物をする。
いつの間にかそれが当たり前となっていた。
ひとり暮らしが長いふたりなので、洗濯は自分のペースで行う。
その際に、ついでに洗うものがあるかお互いに声を掛ける。
彼女は、仕事か結婚かと悩んだ日々をもう覚えてはいない。
どちらかを選ばなくとも、一緒に生活できる男性と暮らしているからだ。
結婚に対する焦燥感もない。
お互いにそういう気分になれば、ふとしたはずみで婚姻届を提出してしまうだろう自分をわかっているからだ。
だが、結婚願望は前よりも強くなったと彼女は感じている。
結婚を焦るつもりはない。
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