街がまるごと異世界転移

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第一章 島が異世界転移

島ごと異世界に転移

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まず落ち着け。

世の中には、驚きが満ちあふれているんだ。どんなことが起こっても、冷静に対処することで、失敗は最小限に抑えられ、最大限の成果が得られる。

『人生は未知との遭遇の連続だ。その中で経験を積み重ねて成長するんだ。』

じぃちゃんが教えてくれた言葉を心の中でくり返す。

「よし、俺は落ち着いている。」

落ち着いているって言ったら、落ち着いているんだ。例え、さっきまで夏のきつい日差しが照りつけていた空が、一瞬で真っ暗な夜空になっていても!自分の頭上にランランと輝く月が、赤と青と紫の3つあってもだ!!
さらに、暗くなる直前に、島を覆うほどの巨大な円形の幾何学模様、いわゆる魔方陣のようなものの光につつまれていたとしてもだ!!!

きっと、人生という長い道のりの中からすると、今日発生した摩訶不思議な出来事も、後日イイ思い出となって振り返る事ができるだろう。あるいは、苦い思い出になるかもしれないが…。

「なーにが、「俺は落ち着いている」なのよ、さっきまで、「えっ?えっ?」って言ってアタフタしてたじゃん。」

後ろで何か耳触りな声がする。幻聴だろうか…。

「何が幻聴よ!!」

「あいた!!」

思ったことを独り言でつぶやいていたようで、後ろにいた女に頭を叩かれた。
俺の名前は、くすのき千歳ちとせ。ド田舎な市内の高校に通う高校2年生だ。特にこれといって目立つところもない、ゲームやマンガが趣味という普通の学生だ。

一緒にいるこいつは幼馴染の山下やました香里奈かりな。同い年で家も近く、何かと一緒に行動したがる口うるさいやつだ。まぁ、兄弟のいない俺にとっては、いつもついてくる姿からカワイイ妹みたいな感じかな。

最近は暑いからか、黒いストレートのロングヘアを、片側にまとめてシュシュを着けている。スレンダーと言えば聞こえはいいが、胸は若干寂しい感じだ。今日はオフショルダーとかいうブラウスにショートパンツという服装で、まあ、似合ってるかな。

こいつとはお互いゲームやマンガの趣味も似通っていて話も合うし、色々と一緒に遊びに行くこともある女友達って感じだな。今日もさっきまで、こいつと、あと男女一人ずつの合計四人でカラオケに行っていた。

この四人は仲良くって、ほんとよくつるんでいるメンバーだ。他の二人とは家が別方向のため、香里奈と二人で帰っている途中だった。ちなみに、さっき叩かれた頭はそんなに痛いわけでもない。俺たち二人のお約束という感じである。

それにしても、香里奈の表情を見るに、いつもどおりだ。せぬ。いつもは俺と一緒になってオロオロする感じなのに。

そんないつものやりとりをやっていると、自分がすっかり落ち着いていることに気が付く。まぁ、ほんとは言葉にした時点で落ち着いていたんだけどな。香里奈とのかけあいで、さらに落ち着いたって事で、口には出さないけど心でありがとうと言っておく。もちろん、つぶやきなしでだ。

「んで、やっぱこの状況って、ラノベとかでよくある魔法とか転移とかみたいな感じだよな~?」

香里奈も俺の影響か、ラノベとか結構読んでいるのでネタが通じる。なので当たり前のように説明とか抜いて、確認してみる。

「頭わいてんの!?ってツッコミたいところだけど、確かにさっきの光とか、今の空見てたら同意したくなるね。」

失礼な発言をしているが、こいつの口が俺限定でちょっと悪いのはいつものことだし、気にならん。腐れ縁というやつだからな。

「もし、仮に異世界転移とかなら、俺たち二人だけってわけじゃ…なさそうだよな?」

そう言いながら俺は周りに視線を向ける。空以外、周りはさっきまでと全く変わらない。アスファルトの道路に電線に電柱。田舎だから大きな建物はなく、緑生い茂る感じの眺めだけど、遠くに現代日本の民家も見える。草木も変わったものはなく、見知った感じのものばかりだ。

「まぁ、そうだよね。でも、あの変な色の月みたいなのはパッと見で作り物に見えないし、やっぱ夜みたいだし。少なくとも、私たちだけじゃなく周りも巻き込んで転移って感じだよね。問題はその規模だけど…」

「やっぱ、さっきの魔法陣ッポイやつの大きさからして、だいたいウチの島全体くらいだよな?」

「だね。」

二人ともとりあえず落ち着けたのは、その部分があるからだ。これで二人だけ、いきなり見知らぬ植物でいっぱいの山中にいたりしたら、もう少しアタフタした時間は長かったかもしれないし、二人そろって取り乱したかもしれない。でも、空以外はさっきまでと全然変わらないのだ。魔法陣(ッポイ何か)の光、月(ッポイ衛星?)×3、昼→夜。この3つの現象を目の当たりにしていなければ、誰も転移と思わないくらい、いつもどおりだったのだ。

「携帯は……ってこのへんは元々圏外だし、家の近くまで行かないとわからないか…。」

「そうだね。ザ・田舎クオリティだからしょうがないよ。」

ラノベなら、携帯圏外が現代日本でない判断の一つになったりする。けど、離島で人の少ない地域まで電波が届くわけもなく、今はそれで判断できない。田舎だからしょうがない。まさに田舎クオリティ。

「んじゃ、とりあえず帰ろっか。」

香里奈が普通に帰ろうと歩き出す。まぁ、さっきまで帰宅途中だったし、帰るのは問題ない。が、この特別なイベントをフツーにスルーする感じはいただけない。若いんだから騒がねば!!

「いやいや、これは一大事件だぜ?テレビの全国放送で、この島の特集とかを二時間番組にしちゃった!!くらいのありえない事件だぜ?」

「テレビなら異世界転移よりはありえそうじゃん。いや、こんなド田舎を特集とかナイけどさ。いいとこダー○の旅…。まだ異世界転移よりはありえるでしょ。」

おたがい田舎をバカにする発言みたいだが、二人とも別にこの島が嫌いでもバカにしているわけでもない。むしろ、小学生くらいの頃と違って、地元愛みたいなものもあるくらいだ。今じゃネットで買い物も普通にできるし、田舎生まれはたいしたマイナスでもない。うちの親父も自宅でインターネットを通じて会議したり仕事したりしているみたいだし。人ごみは疲れるし、行列に並ぶ人の気持ちとかってのもよくわからん。田舎バンザイだ。

「おまえも、言う事結構ひどいな…。けどそれは置いといて。異世界ってなったらさ、魔法とかステータスとかアイテムボックスとか、特有の何かあるじゃん!!あるいは、チートなスキルとかモンスターとかな!!!」

「…まぁ、お決まりのパターンならあるかもしれないけど、モンスターは……周り見た感じいるとは思えないし。あーいう魔法とかって呪文とかないと出ないんじゃない?それにイキナリ力が強くなったような感じもしないし。状況を確認するためにも、とりあえず家に帰るのが先でしょ?自宅近くなら携帯の電波も確認できるはずだし。」

俺はノリノリだが、香里奈はあきれた顔をしている。若者がそんな現実を悟った顔では、早く老けるぞ!!若いんだからバカやらなきゃ!!!

「とりあえず、何かやってみて損はしないはずだろ。魔法とか使えたら楽しいじゃん!!」

「まー、使えたらね~。」

ノリ悪いなぁ~。小学生の頃なら、「そうだねっ!!んじゃファイヤあたりから試してみようか!!」なんて言いそうなノリで会話してたのに、全く。色気づいたのか、大人になったとかぬかすのか、最近は落ち着いたフリなんかしやがって。

「とりあえずファイヤあたりから試してみようぜ!!呪文はどんなのかよくわからんし、発動しなかったら(精神的な)ダメージをくらいそうだから、よくある、イメージだけの無詠唱で、呪文名だけ言って発射ってやつやってみようぜ!!」

「ガンバレー」

香里奈め。棒読みも良いとこだな。自分はやらないから、見学しててあげるよって感じ満々の返事だった。しかたない、自分だけでやってみるか。

へその下の丹田たんでんってところあたりに力をこめる。血流みたいな魔力の流れをイメージして手の先にそれを集める。そして、最後に呪文名と呪文をイメージして手から発射。ってのがベタなテンプレ設定だったかな?
んじゃ、やってみよう。

血流みたいなもの…。そもそも血流自体も魔力みたいなものも何も感じない。まぁ、血管に神経があるわけじゃないだろうし、血流は感じられないだろうけど、当然のごとく魔力なんてものも感じたことないからわからん。

「…ん゛ん゛ー」

「ガンバレガンバレー」

丹田に腹筋で力を込めていると、思わず脱力しそうな応援が聞こえてきたが、気にせず続ける。その力を腹→胸→肩→腕→手といった順で右手に力を集めていく感じ。気分は地球生まれのサイ○人が元○玉の元気を手のひらに集めて作っているような感じ。そして、最後に直径10cmくらいのお化け屋敷で見れそうな火の玉をイメージして叫ぶ。

「いけ!!!『ファイヤ』ーーーー!!!!!」

思いっきり右手を前につきだして声を出す。こういうのは、勢いで何とかなるはずだ。たぶん!!!
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