王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

こたつぬこ

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「エトワイア、丁度良いのでお昼にしませんか?」

 そろそろ腹も減ってきたなという頃、エリーゼが少し開けた場所でそう提案した。
 魔物はいないし危険もない。
 苔の明かりが幻想的で洞窟内でも気分的には悪くない。

「そうだな。食えるときに食っとくか」

 俺がそう言うとアリゼッタが茶色のシートのような物を洞窟に敷いた。
 それを見ると子供の頃に出かけたピクニックを思い出す。
 家族で出かけた小川を拝める山での一時。
 バーベキューを行い空気が旨かったのを覚えている。

(姉さんや家族はどうしているんだろ……)

 そんな疑問がふと沸いた。
 考えたことがなかったわけではないが、考えても仕方がないと思っていたのだ。
 これらすべてが夢オチと考えるのは流石に無理がある。
 二人の体温も俺が見て感じる光景も、全てが現実と確信させるのだから。

(もし俺じゃなく姉さんがここに来たとしたら、今みたいにはなってなかっただろうな)

 変わってしまった世界に少しだけ責任を感じる。
 それが良かったのか悪かったのか。俺の行動によって不幸になる人間が出てしまっているのではないか。
 そんな気持ちが僅かに沸いた。
 でも、後悔はしていなかった。

 本来はないはずのアリゼッタの笑顔がある。
 本来はいがみ合うエリーゼとアリゼッタの二人が仲良くなり笑い合っている。
 俺にはそれで十分だった。

「エトワイア、何か考えごとしてますの?」

 惚けた様子だったのかアリゼッタが俺の顔を覗き込んできていた。
 よく見れば簡易的ではあるが準備が整っている。

「いや、二人と一緒に過ごすことができて良かったなと思ってたんだよ」

「ま。エトワイアは本当に私たちが喜ぶ言葉を自然と口にするようになったわね」

「ふふ。そうですね。あの時から……ですか。まだそんなに経ったわけではないのですけれど、随分長い時間を三人で過ごした気がしますね」

 まだ俺がこの世界に来てから二か月も経ってはいない。
 元の王子は二人と長い時間を過ごしていたとは思うが、俺はそうではない。
 それでもエリーゼの言った通りに感じている自分がいた。

「そうですわね。あの時は……ま、正直複雑な気持ちでしたわ。
 でも今はエトがこういう選択をしてくれたことを本当に良かったと思っていますの」

「こんな冒険をすることになるなんて夢にも思ってませんでした」

 選択によって良い事もあれば悪いこともある。
 でも、やはり二人が良いと思ってくれることは嬉しい。

「まだまだ始まったばっかなんだけどな。こっから大変になるぞ、多分」

「なんでもこいですわよ!」

「アリゼッタ、はりきってますね。とりあえず今は休息ということで……はい、二人とも」

 簡易なコップに飲み物を注いでくれる。
 柑橘類の香りがほんのり漂う甘味の抑えられた飲み物。
 日本人の俺には少しばかり物足りないが、二人と過ごす時間がその味という要素に+αし俺の心を満たしてくれる。

 ちなみに食事にと持ってきていたのは、長パンに肉や野菜を挟んだもの。
 鮮度の関係でこれを食べてしまえば後は保存食のような物しかない。
 それでも二人は文句を言わないし、笑顔を見せて俺に食べさせようとしてくれる。
 どちらが先に食べさせるかで言い合いをしたり、顔を背け合ったりするのを俺が宥めて仲直りをする。
 日本では体験したことのなかったことに俺の心も綻び食も進む。
 飯を食い終えた俺たちは、二人の笑顔を守るためにもと気合を入れ足を進めていった。
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