戦慄の罠師 ~世界を相手取る俺の圧倒的戦術無双~

こたつぬこ

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第19話 対峙

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 アリシアの言葉を聞いて俺の心臓が跳ねる。
 偶然ではあるが俺たちは出てきた通路と逆側の柱に隠れていた。
 なのでこのままやり過ごせる可能性は高いと思っていたのだが、そうはいかないらしい。

「隊長、私が索敵魔法を使用しますので」

「ああ、すまない。助かるぞ、メーティ」

 索敵魔法云々と言ったのは女性の声だったのでメーティと言う女性なのだろう。
 しかし、まずい。
 俺はギュッとディアの肩を抱き寄せる。
 勿論不安や恐怖から行った行動ではない。
 俺とディアの距離を近付けることこそが狙いだ。

「た、隊長! その柱の陰に一つ反応があります! 人間の反応です!」

「何だと!?」

 途端、ガチャガチャと鎧の音が軋み散開するように音が鳴り響く。
 シャリリと剣を抜き取るような音も耳に届く。
 このまま隠れていると何をされるか分からない。
 ただ賭けというよりは試みのような物だったが、ディアを引き寄せることで狙い通り索敵魔法の反応を一つと誤認させることができた。

「プリシラ! お前のたくらみは潰えた! 大人しく出て来い! そうすれば命だけは助けてやる!」

 正直な話、ここがどういう場所かもわからないし、上半身裸の状態は非常にまずいとは思う。
 といっても座して待つわけにはいかない。
 ディアにここから動くなとジェスチャーで示し、アイテムボックスからこっそりと石ころをだし腕に大きく傷をつけた。
 ポタリポタリと地が滴る。ディアの顔が困惑で歪む。

 ディアに微笑みかけて俺は腕を抑えながらゆくりと彼女らの前へ姿を現した。

「なっ!? プリシラじゃない!? 男!?」

「お、俺はプリシラって名前じゃない。レンジュ。レンジュって言うんだ」

 やはり五人というのはあっている。女性二人に男性三人。
 中央に立つ赤髪ロングの女が声を発したので隊長のアリシアというわけなのだろう。
 口調からも感じられるように強気そうな顔立ち。
 目つきが鋭く、凛としたオーラも携えている。

「こんなとこで何を――なんだ? 怪我をしているのか?」

「あ、ああ……そうなんだ……。モンスターにやられてしまって命からがらここに逃げ込んで……。外にモンスターはいなかったか?」

「そうか。それは大変だったな……。外のモンスターは軒並み我々が駆除しておいたから大丈夫だ。だが、なんで裸なんだ?」

「服をモンスターに掴まれてしまって、脱ぎ捨てて必死で逃げてきたんだ」

 外にモンスターがいるかは分からなかったが、どうやら俺の賭けは成功に傾いたようだ。
 少し心拍数が上昇しているが問題はない。
 このまま切り抜けられたら俺の勝ちだ。

 ジッと俺の事を見つめてきている五人。
 しかし、最初程緊迫した感じは伝わってこない。
 傷を作ったのが有効に作用したということだな。

 そう思ったのも束の間。

 アリシアは腰に剣を収めると、油断なく俺の事を見つめながら歩み寄ってくる。
 それを見て再度俺の心臓が跳ねる。

 何かミスをしたか……?

 僅かに体が硬直し、ジトリと汗が浮く。
 アリシアは俺の横までやってくると口元を僅かに緩め、俺の傷のできた腕に手を伸ばす。
 手が水色に光輝き、俺の腕の傷が見る見るうちに治っていく。

 回復魔法。

 初めて目にするものだがそれを俺にかけてくれたという訳なんだろう。
 どういう原理かは分からないが素晴らしい効果だと思う。
 傷がすっかり治ったのを確認した後、俺から離れ若干の距離をとる。

「これで大丈夫だろう。一人で帰ることができるか? 何なら一人見送りを――」

「隊長! これから封殿に向かうというのに戦力を割くわけにはいきません! 彼もここまで来た男。一人で帰ることくらいできるでしょう!」

 アリシアに言葉を被せたのはアレス副隊長という男。
 金髪ショートを短く切りそろえていて、口調の割には目尻が僅かに下がり優男といった顔つきに思える。
 もとより見送りなどつけられてはかなわない。

「大丈夫です。帰るくらいだけなら慎重に進めば何とか。いや、本当に助かりました」

「そうか。しかし、なぜ隠れていたんだ? 普通に姿を見せてくれればよかったものを」

「いやはは。突然、ガチャガチャと鎧の軋む音が聞こえたら反射的に隠れてしまって……。ほんとお騒がせしました」

「確かに……言われてみれば分からん話でもないか」

 その時、メーティと呼ばれた少女がアリシアへと歩み寄っていき耳打ちを行った。
 急速に俺の中で不安が高まる。
 もしかしてこの直感力は罠師としての能力なのか?

 耳打ちするメーティに視線が集まる中、俺は保険として罠を待機させる。
 罠を仕掛ける人間の能力なのか、そういう性質なのかは分からないが気配も音も全く発生しない。
 当然、誰かが気付いたりといったことはない。

 耳打ちをしていたメーティが離れ、アリシアが俺に顔を向けた。

「レンジュ……と言ったな。一つ尋ねるが……なぜ入口からここまでに血が滴っていなかったんだ……?」

 当然気付かれるのは想定の範囲内のこと。
 気付かれなかったら良し、気付かれても相手の雰囲気を緩められれば良しの二段構え。
 ま、想定より気付かれるのが遅かったけれど、そのおかげで俺たちは楽々と逃げることができる。

 傷を負っていた手の中に隠し持っていた石ころをディアに向かって投げる。

 これが合図だ。

 同時に煙爆弾を二個生成。一個はその場で、二個目はアリシアに向かって投げ渡すように。
 当然両方とも既に作動させ煙を噴出している。
 充満するモスグリーンで内部は埋め尽くされていき、視界は急速に閉ざされていく。
 突如煙玉を投げ渡されたアリシアは、一瞬だけ手で触れ驚いた後すぐに下へと落とす。

「なんだ、これは!?」

「やはり怪しい奴でしたか!」

 アリシアとメーティの言葉が響く。
 が、既に俺たちは作戦を始動しているのだ。

 ディアは俺が耳打ちしていた通り、予め柱の横で待機させていた移動の罠に乗ったはず。
 そのまま入口の方向へと計算し配置しておいた移動の罠にかかり、直角に折れ曲がる様に移動したのが気流と気配から分かる。
 それを見て俺も即座に移動の罠にかかるために動く。
 視界は塞がれていても不変的な罠の力は変わることはない。

 急速な体重移動で足がもつれそうになるが、俺はさらに罠を待機させる。
 移動の罠を祭壇の方向へ向けて仕掛けたのだ。
 これでもし万が一向こうの移動の罠に触れる奴がいたとしても、高速で移動を繰り返し船酔いのような状態になるだけ。

「レンジュ、かっこいい……」

「しっ! ディアはいないことになってるんだから。それより早く逃げるぞ」

 命令系統の混乱。怒号と悲鳴が奥から飛び交う中、俺たちは祭壇に背を向け駆け抜けた。
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