フィクション日記

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好きな人の作品を見ると、死を願いたくなる。
嫌いな奴の作る物を見ると、気分が良い。
だから、私はお前のそれを評価なんてしてやいない。

筆に色を取るだとか、キャンバスに置くだとか。
あまりにも動作がうるさい。
滑稽とは、お前の為に生まれた言葉と思ったけれど、
お前に一語を所有する資格なんか絶対にない、と思ったのでなかった事にした。

「お前、オレの描くの見てんの好きよな」そう背中が喋った。

お前に、お前呼ばわりされたくねぇよ。
「別に好きじゃない」

「いつもよく見てんじゃん」「それって好きって事だろ?」

こいつからすると、頻繁に見る=好き、なようだ。
ならお前は、電車内の広告も、毎朝見かける疲れ切ったおっさんたちも。
そうやって好きと言えるんだな?
いや、こいつは本当にそれも好意を持っていそうだ。そんな気がして、鼻から息が漏れた。

「あんたさ、死を乞うほどの何かに出会った事ないでしょ?」

「・・・」「あるよ」

そらそうだ。あると答えるに決まっている。
批判の意思があったくせに、こんな言葉を投げかけた自分が憎い。

「昨日見た、あの映画、あれ。あれが最近だとそう。」

こいつが言っているのは、あの巷で流行りの映画だ。
体から力が抜けるような、または軽くなり飛んでいきそうな。今の私はそんな感じだ。
こいつの何かに何かを意見したい欲求は、吐いた息で飛ぶ埃と同様になくなった。

「そう」会話を断つように、それだけ言った。

今の気分は良い。
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