1 / 1
序章
しおりを挟む表に暮らして居れば決して『視る』事の無い裏の世界。闇夜に紛れ活動する心霊、妖魔の類い。それらを『視る』事ができる者は人々に害をなすそれらを討ち滅ぼす『祓い手』を生業として生きてきた。古よりこの世の裏側の平穏を守り続けて来た者達がいた。
とある夜、ある屋敷にてーー
古くより龍の血を受け継ぎ、魔を祓う事を生業とする家系の出である少年。滝川翔(たきがわ しょう)は屋敷の縁側の柱に身体を預け、月を見上げる友人を見かけて声を掛ける。
「やあ。君がこっちの家の会合に顔を出すなんて珍しいね」
少年は柱に身体を預けたまま、顔だけ翔の方を向く。男性としては少し長い髪。その髪で隠すようにしている左目は常に閉じていて、特徴的な蒼い右目だけで翔を捉え、軽口を叩く。
「滝川家の若き当主ともなると言うことが違うね。『落ちこぼれ』の俺にはこの場は似合わないと?」
少年の名は陽陰弧魄(ひかげ こはく)翔とは幼い頃からの友人であり、兄弟の様な存在である。
が、確かに翔の言う通り彼はこの場には似つかわしく無い。そもそも翔と違い、家の当主で無い彼は、祓い手家系の会合に参加する事は無い。さらに今日の会合は龍の一族の会合。弧魄とは全く関係の無い事だ。
「変な風に取るなよ。単純に気になっただけさ」
「別に気にして無いがな。今日はお袋が多忙らしくてな、姉貴も居ないんで、仕方なく俺が名代としてコレをババアに届けに来たのさ」
弧魄は、答えながら小さな桐箱を取り出して見せる。
「おかしいな。今日は本当に龍の一族だけ。命様も来ないはずだけど」
「何? 本当か? それなら完全に無駄足じゃねぇか。お袋の奴どうゆうつもりだ?」
「残念だったね。もうすぐ会合も始まるし、用がないなら帰った方がいい。今日はなんだか騒がしい」
翔に言われて弧魄は左目を閉じて右目を開く。彼は悪霊や物の怪を討滅する祓い手の家系に生まれながら、霊や妖の類いが一切見えないのである。例外として彼の特徴的な蒼の瞳の右目とは違って、普段閉じている黄色の瞳の左目はそれらを映す事ができるのである。
「コレは違和感のレベルでは無いな。明らかに霊が多い」
今まで見えていなかった物を視て弧魄が答える。
「とりあえず様子を観るけどね。このまま増えたら、祓うよ」
「俺も会合に参加しよう。役に立つかは知らんが、何か有った時の為にな」
二人は縁側を離れ、会合が行われる屋敷の中へと向かった。
屋敷の中にはすでに会合出席者が集まっていた。その中に居る、翔と同じく9つ有る龍の一族の当主の一人である老人が声を掛けてくる。
「遅かったの、滝川の。もう皆集まっておる。始めるぞ」
「巫女の嬢ちゃんの姿が見えないが、もう始めるのかい?」
「陽陰の『落ちこぼれ』が何故ここにおる? 主には関係ないわ」
「ババアの遣いだよ。聞かれて困る様な話しをする訳じゃ無いだろ? それより外の事には気付いてるのか?」
「貴様に言われんでも解っておるわ。これだけの霊力が一カ所に集まって居るんじゃ。霊どもが騒がしくなるのも当然じゃわい。霊力のほとんど無い『落ちこぼれ』の貴様には珍しいのも無理は無いがな」
「一応忠告はしたぜ。ま、『その落ちこぼれ』に言われて気付く様じゃあどの道ダメだろうな」
あからさまに嫌悪を表す老人に対し、皮肉を散々言われた弧魄は気にもしていない。
老人は弧魄との会話を打ち切り、会合を始める。
誰もが会合へと気を向けた時唯一弧魄だけが気付いていたーー
「今日の議題は他でも無い我等龍の一族を束ねる巫女様についてじゃ」
「参」
「知っての通り、我等龍の一族は代々9つが家の一つと巫女様が交わる事で、その血と結束を堅固な物として来た」
「弐」
「巫女様もよき年頃。そろそろ相手を決めようと言う話しじゃ」
「壱」
「ええいさっきから五月蝿い!もうちっと静かに出来んのか!これだから『落ちこぼれ』は……」
「零」
ーー最早全て後手を踏んでいて既に手遅れだと言う事に……
「何事じゃ!?」
突如屋敷を大きな揺れが襲う。その直後、死霊の武者の大群が屋敷の中に入って来る。
「襲撃!? まさかこれほどの数が入って来るまで誰一人気付かんとは」
「だから言ったじゃねぇか」
不足の事態に皆が狼狽える中、一人、陽陰弧魄だけが余裕を見せていた。
「フン! こんな数だけの雑魚の集まり返り討ちにしてくれるわ。『落ちこぼれ』は隅で見て居るといい」
「んじゃあ遠慮なく」
弧魄は言われた通り傍観を決め込む。突然の襲撃に最初こそ戸惑った物の、龍の一族が勢揃いしている為押される事は無い。
「仮にも一族の当主、分家、その護衛。流石に数だけでは押し切れぬか」
死霊の武者達の背後から人間の男が現れ屋敷の中に入って来る。
(コイツ……ヤバい!)
「オイジジババ共!巫女の嬢ちゃんはどこだ!?」
男を見た瞬間、弧魄に有った余裕が消える。
「こんな時巫女様をどうする気じゃ?」
「そこの小僧の言う通りだ。龍の巫女を出して貰おうか」
「この騒ぎは何事ですか?」
その時丁度良く奥の襖が開き、少し小柄な清楚可憐と言う言葉通り少女ーー九頭龍司(くずりゅう つかさ)
誰が見てもハッキリと解るような巫女の格好をして、件の龍の巫女が現れた。
「チッ、このタイミングでかよ」
「まさかそちらから現れるとは……捜す手間が省けたわ」
その時当主の一人である老婆が男に襲い掛かる。
「何故巫女様を狙うか知らないが、死霊の兵だけ連れて一人で来るなんてとんだウツケだよ」
……が男は造作もなく斬り捨てる。
「コヤツなかなかの剣の腕。私がやります」
それを見て、次は若い女の当主が男に切りかかる。老婆とは違い、幾度か刀を合わせるも、彼女もまた無惨に斬られてしまう。
「バカな!? アヤツは我等が一族の中でも一、二を争う剣の使い手。それをこうもアッサリと……」
「簡単な事さ、確かにさっきの姉ちゃんも大した腕だったが、それ以上にその男の方が圧倒的に強いのさ」
「これは一体何事なのでしょう」
(このままじゃ全滅か。ジジババは構わんが巫女の嬢ちゃんに死なれると面倒だな)
「翔!巫女の嬢ちゃん連れて裏から逃げろ」
「逃げろってお前はどうするんだ?」
「巫女の嬢ちゃんに死なれると不味いだろうが。この中でアイツとやって死なないのは俺だけだろうぜ。ジジババ共の命は保証しないが、嬢ちゃんが逃げる時間ぐらいは稼ぐさ」
「大丈夫なのか?」
「なんとかするさ」
「わかった。司様こちらへ」
弧魄に最後の確認を取り、翔は司の手を取り屋敷を離れる。それを弧魄は後ろでに手をプラプラと振り見送った。
戦いの音が響く屋敷の中を巫女の手を取り、奥へと進む。手を引かれながら巫女は翔に尋ねる。
「翔さん,弧魄さんは大丈夫なのですか? あの方は我等一族では無いのに巻き込んでしまいました」
「自分から巻き込まれたんですよ。司様がお気になさる事ではありません。大丈夫ですよ」
「ですがあの方は……その……」
「『落ちこぼれ』ですか? そう呼ばれてるのは確かですが、今は大丈夫ですから信じてください。と言うしかないですね」
「そうですか。この場は信じましょう。話が進みません。それで次に翔さん。今後敵と遭遇した場合、貴方は戦えますか?」
「私は当主を任されておりますが、未だ若輩者の為、龍の力を上手く引き出せてはおりません」
「そうですか。ではそこを左に曲がってください」
「左に?失礼ですが屋敷を抜けるなら直進が最短では」
「はい。少し取りに行きたい物が有るのです」
「それは今ではないと駄目でしょうか?」
「はい。龍の一族が宝具を取りに行きたいのです。何故あの者達が私を狙うか定かではありませんが、もしかしたら目的はその宝具の可能性もありますから」
「宝具を? 分かりました。なるべくお急ぎください」
翔は司の言う通り一時進路を変え、宝具のある部屋へと向かう。
「本来なら宝具は社の方に祀ってあるのですが……今は此処にコレが有るのは助かったのかも知れません。翔さんコレを着けていただけますか?」
司は部屋の中に隠して有った宝具を取り出して、翔に向ける。その宝具は対なる篭手。
「コレは?」
「説明は逃げながらします。今は急ぎましょう」
司は篭手の装備を翔に促す。翔はとりあえず言われた通り篭手を填めると、再び屋敷から離れるべく動き出した。
屋敷の外、裏手に広がる森の中を二人は尚も逃げ続ける。
「それは龍の一族に伝わりし、宝具が一つ『龍神の篭手』装備した者の能力を引き出す事が出来ます」
「能力を引き出す?」
「ええ。ですがその力はあまりに強大。なるべく使わないで済む事が望ましいのですが……」
「そうですね。私も出来れば無闇に力を奮いたくはありません」
「そう言っていただけると助かりーー」
「ですが、残念ながらそうも言ってられないようです」
森を行く二人の前に現れたのは、先ほどの武者達の数倍はあろうかという死霊の大武者。
「まさかもう追い付かれたのですか!?」
「司様、とりあえずお下がりください」
司を後ろに下げ、前に出る翔。
(どうするか? 能力を引き出す篭手、か。それが本当ならーー)
思考を巡らす翔に大武者はその身体に見合う大太刀を振るう。
「クッ……」
翔はその攻撃を脊髄反射で篭手を前に出して防ぐ。
(防御は問題ないか……)
翔は大太刀を防いでも傷一つ付かない篭手を観察する。
(問題は力を引き出す方か……)
翔の考える暇など待たずに大武者は二撃目、三撃目……と幾度となく大太刀を振るう。全て篭手で防いだが、幾度の攻撃で隙が出来た大武者に、これもまた脊髄反射で反撃する。
(マズい!つい篭手に力を込めてしまった)
翔が大武者を篭手で殴った部分は鎧が剥げダメージを負っている。
(この篭手まさか!?イヤ……これなら行けるか)
翔がここに来てようやく戦闘体制に移ると、先ほど大武者が負った傷はすでに、攻撃受けて無いかの様に消えていた。
(やはりあの大武者、先ほどの大量の死霊達の集合体か。小さなダメージではすぐに死霊が集まり傷を治すか。ならば連続でダメージを与えるか? いや、一撃で仕留めるか)
翔は先ほどとは違い、大武者の攻撃を篭手で防ぐのでは無く、全て避けて、かわしていた。避けている間にその腕に装備している篭手には力が溜まり続けていた。
「司様、多少衝撃がそちらに届くかも知れません。お気をつけください」
「えっ、あ、はい。分かりました」
念のため司に声を掛けると、翔は大武者の振るう大太刀を最後にかわし、懐に飛び込んだ。
「喰らいつくせ」
大きな音が鳴り、強い光を放ち、地面を揺らす。
死霊の大武者はまるで龍に喰われたかの様に跡形も無く消滅していた。
「ちょっと加減を間違えたかな? 司様ご無事ですか?」
「はい。私の方は。それよりも追ってが来たって事は、弧魄さん達は無事なのでしょうか?」
会合、そして襲撃の有った屋敷の広間には先ほどとは違い、静寂が訪れていた。立っている人間は二人だけ。
「龍の一族を一人で全滅とは、恐れ入るね」
「貴様が大口を叩いた割には手出しをしなかったからな」
事の一部始終を全て傍観していた弧魄に対して、龍の一族を容赦なく全て斬り捨てた男は、当然の仕事を終えたかの様に語る。
「オタクこそ、巫女が狙いならジジババ共の相手なんかせず最初から巫女に向かえばいいのに面倒な事をしたもんだ」
「それについては手を打ってあるし、目的が巫女とは言い切れんのだよ。貴様に語るつもりは無いがな」
「左様で。オタク等が何考えてるか今の所俺には関係ないから構わんがな」
「それでどうする? 私とやり合うか? それとも諦めて素直に斬られるか?」
「んー……とりあえず此処から出ようかね」
「フッ、楽は出来ぬか……」
二人は部屋から一息で飛び出して屋敷の外へと出る。その直後、先程まで二人が居た広間は複数の武器、術が現れ一瞬にして姿を変えた。
「老人共の考えそうな事だな」
「ジジババ共め自分達の先が短いからって道連れは辞めて欲しいね」
「しかし、命を賭けただけあって、無駄では無かったな。これで私の目的の一つも困難になったからな」
「目的?」
「この屋敷に隠されてると言う宝具だが、屋敷がこれでは捜索は困難に成ると言うもの。それでも一つ当たりは付けているのだかな」
「ソイツは良かったな其処に在ると良いな。無かったら骨が折れるぞ」
「それとの言うのも貴様の懐だがな。巫女を追わなかった理由の一つ。貴様の懐から強い霊力を放っておる」
男の話を聞いて、弧魄は自分の懐にしまっておいた小さな桐箱を取り出す。
「コレの事か? 残念ながらハズレだ。俺は今日別の遣いでたまたま居合わせただけだ。本来龍の一族とは何の関係もない」
「口では何とでも言えよう」
「じゃあ開けて中見てみるか」
「貴様どうゆうつもりだ?」
「別にアンタと同じさ。死人に口なし。何を知られようとも殺してしまえば何の心配もない」
「フッ。私を殺せば問題ないと? 殺せるつもりか?」
「どうだろうね。例え殺されたとしても、それはそれで死ぬ前に興味を残して逝くのも浮かばれないだろ?」
「中々どうして、面白き小僧よな」
「とりあえず開けるぞ」
桐箱の中から弧魄が取り出した物は、色の付いてない勾玉。それを手で弄びながら弧魄が問う。
「オタクの探してたのはコレか?」
「いや残念ながら違うようだ。だが勾玉とは興味深いな。太古より様々な力を秘めている物故。小僧、少しその勾玉に霊力を込めてみよ。何か起こるかも知れぬぞ」
「何で俺がそんな事を……」
「冥土の土産代わりだ。貴様がせぬのなら、貴様を殺した後私がするだけだ」
「分かったよ。しょうがねぇな」
弧魄は手に力を集中させ、勾玉に霊力を込める。すると途端に勾玉は紅く染まり、光を放ち始めた。
より一層の輝きを放った勾玉から一つの影が飛び出すと、勾玉は光を放つのを辞めたが、色の付いてなかった勾玉は真紅に染まっていた。
勾玉から飛び出した影の正体は人らしき者。妖艶な魅力を放つ身体つき。浮き世離れした美しさを持つ女が人と明らかに違うのは、地まで着きそうな程長い金色の髪の頂点には獣の様な耳が生え、また同じく獣の様な尾が見えている。
「妾を喚んだのは御主かぇ?」
「化け狐。妖弧の類か。小僧にしては中々に力のあるのを喚びだしたな。小僧それは貴様の霊力によって勾玉から喚びだした、貴様が使役する妖よ」
「成る程やはり小僧が妾を喚びだした主か」
現状を直ぐに理解した男と妖弧に対し、弧魄は妖弧に向かい悪態つく。
「うつくしきかな、うつくしきかな。どこぞのお姫様かと見間違える。故に今ここで戦力の足しにはならねぇな」
「ほぅ。妾を美しいと言うのは凡百のそれ。大いに結構。しかし妾を捕まえて弱いなど呼ばれては黙っておけぬのぅ」
「ん、いやアンタが弱いとかじゃなくて、時と場合が悪いと言うか……」
「なんであろうかその言い訳は? 許す理由を述べよ」
「美しいモノを愛でたいというか、傷付けたくないというか……」
「はっ、自分の使役する妖を傷付けたくないなどと、笑わせる」
「その男の言う通りだが、まぁ悪くない答えよのぅ」
「「「!」」」
その時轟音が鳴り響き、周囲を揺らす。
(この霊力、まさかアイツ!?)
「小僧、貴様との時間も中々に愉悦であったがそろそろ終いだ」
「みたいだな。俺も急用が出来ちまった」
男が刀を抜くと一瞬で戦場の空気に戻る。
「契約はまだじゃが妾が力を貸してやろう。御主の霊力を直接妾に渡せ。それで終わらせてやるわ」
「妖弧風情が私を倒せるかな?」
「妾をそこらの妖弧と一緒にされては困る。主より力を貰えば一瞬で消し飛ばしてやるわ。ちなみに御主の霊力はどの程度かぇ? 妾を喚んだのじゃ。半分程も貰えば十分じゃろう」
「3」
「は? 3とは何じゃ?」
「だから俺の霊力。お前が聞いたんだろ?」
「それは誠かぇ? 3って3万とか3千とかじゃなくて只の3かぇ? 欲は言わぬ。せめて3百程あれば」
「只の3だよ。0に3足しただけの3」
「フハハハハッ。霊力がそれだけとはな。祓い手では無い一般の人間にも劣っているとは。だからと言って容赦はせぬがな。せめて一撃で終わらせてやるわ!」
男は弧魄との距離一気に詰めると、一閃。高速で刀を振るう。が、その刀は獲物を捉える事無く空を斬る。その事に気付いた時、男は霊力を手足纏った弧魄の連撃を喰らう。
「ほぅ。今のを避け、さらに反撃を繰り出すか」
「堅ッ。全然効いてないみたいだな」
男は弧魄の霊力を込めた連撃を喰らって尚、傷どころか汚れ一つ付いてない。
「御主が妾なら奴は鎧……いや、武者か。武者を使役しておる。良く見よ。奴は霊力の塊の様な鎧を身につけておるわ」
「生憎と俺は『視えない』んでね。なら鎧が壊れるまで叩くさ」
弧魄は男へと向かう。それに対して男は刀を振るい迎え撃つ。今度は油断もなく男も一撃で辞めず連続で攻撃する。それでも弧魄は全てかわして隙を突いて攻撃を繰り出す。
「無駄じゃ。奴の鎧は堅い。御主が幾ら攻撃した所で、文字通り傷一つつかん。妾と替われ。御主の少ない霊力でも妾が持ち合わせの霊力でなんとかしよう」
それに対して弧魄は右目を閉じ、左目で男とその能力を捉え答える。
「駄目だな」
「なっ、妾の力を信じよ!妾なら奴を倒せる」
「俺では奴を倒せないかも知れない。けどお前なら倒せるかも知れない。でもな、お前は奴の攻撃を間違えなく一撃は喰らう。俺は絶対に一撃も喰らわない。それが答えだ」
再び弧魄は男に向かい、先程の再生の様な攻防を繰り返す。
(アヤツ何を考えておる。例えアヤツの言った通りになっても妾は妖、死ぬ事は無い。どれだけ喰らおうが奴を倒せれば良いでは無いか。しかしアヤツは本当に一撃も喰らわないのぅ)
「どんな幻術か妖術か知らぬが一撃も当たらんな。しかしそれもどれだけ持つかな?」
「オタクの鎧もいつまで持つかな?」
「ならば根比べとしようか」
(小僧は幻術も妖術も使っておらぬ。まさか完璧に……だとしてもダメージを与えられねば意味が無い。……試してみるか。妾の主に相応しいかどうか)
攻防を辞め、一旦距離を取る弧魄に妖弧は話し掛ける。
「御主、コレを使え」
妖弧は弧魄に小刀を渡す。
「これで刀とやり合えってか?」
「それは今妾の力を全て込めてある。当たれば奴を
倒せよう」
「ソイツは凄いね」
「しかし、一撃だけじゃ。掠ったり、かわされたりして霊力が漏れれば奴を倒すのに十分な力は無くなる。さらに恐らく甘く入っただけでは、奴はその一点に鎧を固め防がれてしまう。分かるか? チャンス一度切り。必殺のタイミングでのみ使え。失敗すれば倒す術は無くなるじゃろう」
「成る程。こんだけ御膳立てされつらミスれ無いな」
「フッ。死ぬなよ」
「なに、こんな美人の頼み事だ。こんな所で死ねるかよ」
「何やら相談していた様だが、いい作戦でも思い付いたか?」
「コイツを貸して貰った」
弧魄は小刀を構えて見せる。
「何かと思えばそんな小刀一本で何が出来ると言うのだ?」
(あの馬鹿者!黙って居れば当てやすかった物を……)
「そんな事より、そろそろどっちかがくたばって終わるだろう。その前にオタクの名前を教えちゃあくれないかい? これだけの相手だ。斬るにしろ、斬られるにしろ、その相手の名を知らないってのはどうもね」
「良かろう。我が何は高倉草徳(たかくら そうとく)。以後があれば見知っておくがいい」
「高倉!? 平の重鎮じゃねぇか。狙いは九頭龍じゃなくてババアか!?」
「ほう。我が家の名を知っておったか」
「何が狙いだ?」
「知れた事よ。帝家は我が主から見れば目障りでね」
「九頭龍は直接帝家とは関係無いはず?」
「九頭龍は中立を謳ってはいるがその実、帝家から擁護されている立場にある」
「帝を倒すのに龍に暴れられちゃあ困るってか? 巫女を追わなかったのは宗家さえ倒せば巫女自体に力は無いからな」
「理解が早いな。さて、そろそろ終わりにしようか。ついでとはいえこの後宝具を探さねばならん」
「そうだな俺も負けられなくなっちまった……」
再び幾度目かになる似たような攻防を繰り返す。しかし弧魄は斬撃を避けるだけで反撃はしない。
「もう攻撃するのは諦めたか?」
「まだ聞きたい事が在るんでね……幾ら平と言えども、こうあからさまでは他の家が黙って無いぞ」
「承知の上。帝が気に入らんのは我々だけでは無いだろう。これを機に長い物に巻かれるかも知れぬ」
「逆にこの機に矛先を向ける者居るはずだが?」
「それもまた然り。只斬り伏せれば良いだけの事」
「祓い手と祓い手……人と人とで戦をするつもりか!?」
「戦とは本来そうゆう物。歴史が語っておるわ」
「もう良いか? ならば貴様一つ聞かせろ。小僧、名は何と申す? そちらも名乗るのが礼儀であろう?」
「陽陰……陽陰弧魄」
「ほう。あの陽陰の……聞けば陽陰の世継ぎは、落ちこぼれの能無しと聞くが……どうして中々頭もキレるし戦慣れしておる」
「間違ってねぇさ。俺は落ちこぼれの能無しさ。俺の命なんざくれてやっても良いが……生憎今聞いた事を伝えなきゃならんのでね」
「馬鹿め!最早手遅れよ!貴様の言う通りこれだけやって、しらを切り通せぬ。ならば徹底的にやるわ!」
「既に本家まで!?」
「我等、平と帝は本より相容れぬ。更に帝の宗家は分家を持たぬが、圧倒的力を持つ陽陰、鬼崎を始め、剣の道を行く者なら誰もが知っている時雨と余りに強大な力を持っている。人はな相容れぬ強き者が居ると恐れ、そして滅ぼすのだよ」
「まさか全ての家に同じような襲撃を!?」
「毒を食らわば皿まで、よ」
「……悪い。お喋りはここまでだ」
「ほう。まともな殺気を放てたか」
弧魄は今日初めて、敵を定めて殺しにかかる。草徳へと向かえば当然の様に来る斬撃。それを事も無くかわしながら、開いている左目で在る一点のみを見続ける。最後にヘマをしない為。
斬撃を繰り出しながら語る草徳。
「もともと帝は甘過ぎるのだ。こうなってからではもう遅い。今頃自らの愚かさを嘆いておるわ」
そう言って草徳は弧魄の左手を掴み取る。
「これで逃げる事もできまい? 終わりだ!」
草徳は右手に持つ刀でトドメの突きを繰り出す。それを掴まれた左手を軸に宙で回転しながらかわす弧魄。
「俺もあの家に関わる人間は甘くて愚かだと思うよ」
反対に弧魄は草徳の右手を掴み、攻撃を封じる。互いに手を抑えられ攻撃が出せぬ状態。
「それでも俺はあの家の人達が好きなんだ」
しかし、弧魄は既に突きを避ける前に自分と草徳の間に小刀を投げていた。突きを避けた回転のまま、回し蹴りの要領でその柄を蹴り草徳の脇腹に小刀を食い込ませる。突如小刀から光が溢れ、爆発した。
「倒したか。それにしても器用な奴よのぅ」
事の終わりを見届けた妖弧が弧魄に近づいて来る。
「馬鹿ッ! 来るな!」
叫んでもおそかった。弧魄がその左目で視てから常に気にし続けていた、高倉草徳最後の切り札がここで切られた。
突如現れる鎧に包まれた腕と刀。それは只、無情に振りかざされる。瞬時に妖弧を突き飛ばして庇った弧魄の無防備な身体へと……
「馬鹿な!? あれだけの力込めた攻撃を喰らって生きてるというのか!?」
「いや、確実に殺した。あれは己が死んでから発動する、武士の執念とも言うべき最後の一太刀。言ったろ? お前が戦えば一撃貰うって……」
妖弧は弧魄に駆け寄るが、最後にして最強の攻撃。それが直撃した弧魄の傷は深い。
「御主知っておったのか? 何故妾を庇った? 妾は妖。攻撃を受けて現世に残れなくなる事が有っても、死ぬ事は無い」
「妖とか、人とか関係無いさ……これだけの美人に傷を付ける訳にはいかないさ……」
「馬鹿者が。早く妾と正式な契約を! 妾の契約者は治癒力を高まる故」
「契約って……陣書いて、契約の誓い交わして……この身体じゃ無理だな」
致命傷を負った弧魄は最早自分で動く事も出来ない。
「じゃが! 妾に出来る事なら何でもする、兎に角生きよ! 妾を庇って人に死なれては、妾の名折れじゃ」
「やれやれ……美人の頼みなら仕方ないか……俺は罪と罰そして業の道を行く者。付いて来てくれるか?」
「御主が望むなら何処へでも付いて行こう」
「後悔は無いか?」
「無論じゃ」
「そうか……ならばもう少し近づいてくれるか?」
弧魄は側に寄る妖弧の顔を、自分の血で染まる手で引き寄せる。
「『落ちこぼれ』の俺が唯一受け継いだ力かな?」
そして自分の血を吐き紅く染まる唇を妖弧の物と重ね合わせた。
「お、御主は、イ、イキナリ何をする!?」
重ねた唇を話離すと、急な事に動揺する妖弧。
「数百年以上も生きる妖弧の類だろ? 別に初めてじゃあるまい? それにしても本当に死にかけてたのが治って行くな」
「!? まさか今ので契約したのか?」
「ああ。今からお前は俺の式神」
(本当にコヤツと霊力が繋がっておる。それよりも何だこの力は?コヤツから流れてくる力、並みの物では無い。何を秘めている?)
「そんなすぐ治る物では無い故、しばらく安静にしておれ。それより御主、名は何と言ったかのぅ?」
「弧魄だ。キツネのたましいと書いて弧魄」
「何とも妾にあつらえた様な名じゃのぅ。まぁ面倒な字じゃから妾はコハクと呼ぶが」
「好きにしてくれ。それよりこれからどうするか……」
「御主以外全滅した様じゃな。御主が気にする事じゃ無いと思うがのぅ 」
「そんな事よりお前だよ。お前はお袋の遣いの品だったんだ。さてどう誤魔化すか」
「そんな事今更じゃろうて。それとも妾の唇を奪って置いて逃げる気かぇ?」
「そんな気はねぇが……最悪殺されるな。機嫌が良ければ……殺されるな。詰んでるな」
「弧魄!無事だったか!」
屋敷の方から翔と司がやってくる。
「お互い生きてる様で何より」
「そっちは無事とは言い難い様子だがな」
「酷い怪我です。すぐに手当てを」
「大丈夫だほっとけば治る」
「僕達以外に生存者はいないようだね」
「仕方ないさ。相手が悪かった。それよりさっきの力はお前だろ? 何か問題は?」
「それに関しては問題無い。どうやらコレが役に立ったらしい」
「んだそれは?」
「これは我等、龍の一族に伝わる宝具『龍神の篭手』です。装備した者の能力を引き出します」
「それがアイツの探してた……でもそれ引き出すっつーよりも……」
「細かい事は良いさ。そっち新しい式神かい?」
「ああ。コイツ喚んだ所為で、敵を倒す為の霊力なくなったり、死にかけたりしたが……それでも釣りが出る美人なんで良しとするさ」
「君らしいね」
そこで、紙で出来た人型をした物が鳥の様に手を羽ばたかせて飛んでくる。それを弧魄は手掴み取ると、開いて中に書かれてある文に目を通す。
「あれは一体何なのでしょうか?」
「司様はご存知なかったですか? あれは彼の使う低級な式神の一つ、通称ペラピト君(弧魄命名)ですよ」
「お袋からーー生きてたら御所に来なさい。だと。命懸けで戦った息子にもう少しなんか無いもんかね?」
「相変わらずだね」
弧魄は内容を読み上げると炎出して式神を手の中で燃やす。そして少し真面目なトーンで司に問う。
「それで、九頭龍家はどうする? 俺はこれから帝家本家御所へ行く。襲撃に会い、ほぼ壊滅状態でも一応は中立の立場だろ? そっちが望むなら帝家に案内するが、それとも他に擁護を求めるかい?」
その問いに司は弧魄の知人としてでは無く、九頭龍家の巫女としての言葉で答える。
「九頭龍家の巫女として、帝家当主命様に擁護の申請及び、その謁見を望みます。願わくば道中の案内及びお話を通して貰う事を願います」
それに対して弧魄もまたキチンとした言葉で返す。
「九頭龍家が巫女、司様及び滝川家当主、翔様を帝家が客員として招き入れます。道中の案内、護衛及び、当主命様への謁見の申請は、帝宗家、陽陰家当主、陽陰闇夜衣が名代。私、陽陰弧魄が務めさせていただきます」
「弧魄殿のお心遣いに感謝と共に、道中宜しくお願い申し上げます」
「あらまぁ。私の息子にしては酷い有様。召し物が台無しじゃない。まぁ念の為遣わした意味はあったか」
御所に着くと3人を迎えたのは黒い髪、黒い着物、全身黒に包んだ人外――もとい狐魄の実の母親、陽陰邪夜衣(ひかげ やよい)であった。
「龍の巫女を連れてきただけオタクの出来損ないの息子にしちゃー上出来でしょうよ? て言うかわりぃババアの使いの品ダメにしちまった」
そう言うと狐魄は真紅に染まった勾玉を邪夜衣に投げる。孤魄の側には先程の妖狐が現れる。
「霊力におかしい所があると思ったらお主の子だったか邪夜衣」
「あらまぁもう契約済みなの」
「よいよい。どうせお前にやるためだった物。それよりよくぞ無事に戻った」
狐魄達に歩み寄ってきたのは、見た目は幼女の様な姿をしているが最も齢を数えている帝家当主、帝命(みかど みこと)。
「俺にくれるって? この白面金毛九尾の狐を?」
「コハク、お主妾の正体に気づいておったのか」
「まあな。そんじゃありがたく頂戴して、あらためてよろしく頼むタマモ」
そんな事をしていると、二人の男女が御所へとやって来た。1人は――
「遅れての参上誠に申し訳無い」
――壮年の男の方は剣の道にその人ありと言われる時雨流師範、時雨道元(しぐれ どうげん)。軽く会釈をするもう1人は道元の娘時雨姫乃(しぐれ ひめの)である。
「道元が最後かのう。いや無事で何より。少ないがそろそろ始めるとしよう」
命の取り仕切りの元、各自戦況報告が始まった。
「まず俺から、龍の一族が襲われた。敵は平家の重鎮高倉草徳。一族はほぼ全滅、残ったのはここに居る翔と、巫女の嬢ちゃんだけ。そのため龍の一族は帝家に擁護を求めている」
「私からも、狙われたのは我が道場、門下は壊滅。恥ずかしながら守れたのは我が娘のみ」
「ふむ。儂と邪夜衣も他の家を回ったが似たように、酷いモノじゃった。今回は完全にしてやられたのぅ。まぁそれはそれとしてここに来れた者が無事で何より。もちろん龍の一族の申し出も、もちろん受けよう。まずは翔坊も巫女殿も緩りと休むがよい」
「お心遣い感謝します」
「時に狐魄殿。このような事になった今、またいつ敵が来るかもわからん。そこで我が娘に手ほどきを頼みたいのだか如何かな?」
「なっ!? 父上っ私はこのような落ちこぼ―― 」
「愚か者! 見ず知らずの風評で語るではないわ」
姫乃の言わんとすることを遮り道元が叱責する。
「道元殿の頼みとあればコチラとしては断れますまい。けど娘サンの方が俺じゃ不満なようですが?」
「申し訳無い。後で躾て置く故、何卒お願い申す」
「俺は慣れっこ……もとい気にしてないですので、俺でよろしければお受け致しましょう」
「うむ、ではあとの事は明日にして、今日は休むといい。皆疲れたじゃろう」
命が締めて初動の1日が終わった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる