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それ以降、冬になるとアウレールは、よく空や木を見上げるようになった。シマエナガをずっと探しているのだ。時にシマエナガの集団が枝の上で押し競饅頭をしているのを見付けると、思わず問い掛けてしまう程には、毎年冬が来るのが待ち遠しくなったのだ。
だからといって、シュネーが見つかる訳も無い。しかしそれでも良かったのだ。探している行為自体が、シュネーと隠れん坊をして一緒に遊んでいるようであったから。
───あれから二十一度目の冬。三四歳になったアウレールは職に就き御者となり、手綱をとって雪道で馬車を揺らしていた。乗っていた客を降ろすと御者台に座ったまま、やっとこさと一息深く白煙を吐く。冬であっても、街人が少しでも不便にならぬよう精を出していたのだ。
休憩する暇もない──故に、隠れん坊をする時間も減ってしまった。立場上仕方のない事とは分かってはいても、冬の唯一の楽しみであった為か、口惜しい。──立て続けにまた客が来た。振り向かずに仕事を再開する。
「どちらへ?」
「あの…──三丁目のカッツェンナーゼ通りの突き当たりまで行ってくださる?」
「かしこまりました。お買い物ですか?」
「いいえ、息子が見てみたいというものですから。」
「ママー!早く早く!!」
そんな他愛の無い会話をしながら、目的地へと馬を走らせる。
「チーチーッ、チュチュンッ。」
あぁ、折角あの声がするのに、今は仕事中だ。
「チュチュチュチュン!!!」
──アウレールの肩にシマエナガが二匹とまり、耳元で騒がしく鳴き始めた。思わず馬車を止めて肩口のシマエナガ達を見遣ると、二匹は後方へと飛んで行き、窓から客室へと入り込んでしまった。慌ててアウレールは馬車を止め、客室を開けに行く。
「すみませんね──鳥が入って来てしまったよう…………で……────」
謝罪を言いかけたところで客と目が合い、アウレールは言葉を失った。そこに座っていたのは、シュネーに似た大人の女性だったのだ。──間違いない。見間違える筈がない…。アウレールが口を開閉させていると、女性に抱かれていた小さな息子がアウレールを指差して。
「ママー!この人間ちゃまがママの王子ちゃま?」
「ふふ、そうよ?これからこの人のお家に行くのよ~…。」
「!!──…シュネー……!!!」
──そこで確信した。長年探し続けていた彼女が、会いに来てくれたのだ。シュネーが客室から降りては、息子をアウレールに見せるように抱き直しながら奥ゆかしく笑い。
「ふふふ…驚かせようとしたのに、気付かれてしまったわね?──やっと会えたわ…──アウレール。あの日の事、息子に聞かせていたら気に入ってしまって。同じ事をしたい!って言って聞かないのよ。」
「いいな、いいな!!ぼくも遊ぶ!!あーーそーーぶーー!!!」
びぇぇと駄々を捏ねながら泣き始める息子の瞳と髪色は、シュネーとそっくりだ。後ろ髪だけ長く靡いている。
アウレールは、幸い明日から休日だ。うんと二人を色々な場所に連れて行ってやろうと、寒さも忘れて腕捲りをしては快活に笑い上げながら。
「はは!そうだな、遊ぼう遊ぼう!ママが書いた日記も一緒に読もっか!沢山思い出、作ろうね。───さて!〝ぼく〟のお名前は、なにかなぁ?」
この男の子の…雪の思い出は、どんなものになるだろうか。きっと忘れられない物になるだろう。シュネーとの日々のように。──
だからといって、シュネーが見つかる訳も無い。しかしそれでも良かったのだ。探している行為自体が、シュネーと隠れん坊をして一緒に遊んでいるようであったから。
───あれから二十一度目の冬。三四歳になったアウレールは職に就き御者となり、手綱をとって雪道で馬車を揺らしていた。乗っていた客を降ろすと御者台に座ったまま、やっとこさと一息深く白煙を吐く。冬であっても、街人が少しでも不便にならぬよう精を出していたのだ。
休憩する暇もない──故に、隠れん坊をする時間も減ってしまった。立場上仕方のない事とは分かってはいても、冬の唯一の楽しみであった為か、口惜しい。──立て続けにまた客が来た。振り向かずに仕事を再開する。
「どちらへ?」
「あの…──三丁目のカッツェンナーゼ通りの突き当たりまで行ってくださる?」
「かしこまりました。お買い物ですか?」
「いいえ、息子が見てみたいというものですから。」
「ママー!早く早く!!」
そんな他愛の無い会話をしながら、目的地へと馬を走らせる。
「チーチーッ、チュチュンッ。」
あぁ、折角あの声がするのに、今は仕事中だ。
「チュチュチュチュン!!!」
──アウレールの肩にシマエナガが二匹とまり、耳元で騒がしく鳴き始めた。思わず馬車を止めて肩口のシマエナガ達を見遣ると、二匹は後方へと飛んで行き、窓から客室へと入り込んでしまった。慌ててアウレールは馬車を止め、客室を開けに行く。
「すみませんね──鳥が入って来てしまったよう…………で……────」
謝罪を言いかけたところで客と目が合い、アウレールは言葉を失った。そこに座っていたのは、シュネーに似た大人の女性だったのだ。──間違いない。見間違える筈がない…。アウレールが口を開閉させていると、女性に抱かれていた小さな息子がアウレールを指差して。
「ママー!この人間ちゃまがママの王子ちゃま?」
「ふふ、そうよ?これからこの人のお家に行くのよ~…。」
「!!──…シュネー……!!!」
──そこで確信した。長年探し続けていた彼女が、会いに来てくれたのだ。シュネーが客室から降りては、息子をアウレールに見せるように抱き直しながら奥ゆかしく笑い。
「ふふふ…驚かせようとしたのに、気付かれてしまったわね?──やっと会えたわ…──アウレール。あの日の事、息子に聞かせていたら気に入ってしまって。同じ事をしたい!って言って聞かないのよ。」
「いいな、いいな!!ぼくも遊ぶ!!あーーそーーぶーー!!!」
びぇぇと駄々を捏ねながら泣き始める息子の瞳と髪色は、シュネーとそっくりだ。後ろ髪だけ長く靡いている。
アウレールは、幸い明日から休日だ。うんと二人を色々な場所に連れて行ってやろうと、寒さも忘れて腕捲りをしては快活に笑い上げながら。
「はは!そうだな、遊ぼう遊ぼう!ママが書いた日記も一緒に読もっか!沢山思い出、作ろうね。───さて!〝ぼく〟のお名前は、なにかなぁ?」
この男の子の…雪の思い出は、どんなものになるだろうか。きっと忘れられない物になるだろう。シュネーとの日々のように。──
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