さいあい

えんじぇる

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One love

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 春の麗らかな日差しと、頬を撫でるほんの少し冷たい風。

 スズメの涙ほどの淡い期待と、重く肩に伸し掛かる不安や嫌悪感が、瞳に映るたくさんの彩りを失わせていく。

 ぐらぐらする。頭が自分のじゃないみたいに重くて、ぼーっとして、誰にも理解されない苦しみが。じわり、と自分の心体からだを蝕んでいく。


 こんな日常が、大嫌いだ。




 肩につくかつかないかの髪は、踊るように跳ね、自然の中で舞踏会が開かれてるような、そんな感覚に耽る。

「んん゛~っ…(ねむ…)」

 暖かい。でもまだ見ぬ淡い桃の花が芽吹く時期でもなく…春といえば、なんだろう。

 桜の散る暖かい季節?
 胸をざわざわさせる季節?

 そりゃただ人間が決めた行事にそわそわしてるだけだけど。

 自分にとって、春というのは憂鬱そのものだ。憎いほど自然に愛されるのに、自分は何一つ愛を受け取ることができない。

 そんなひねくれた自分に、思わず笑みを浮かべる。

 「(どんな生活になるかな…)」

 新しいしかないこの世界で、どう生き残ろうか。そればかり、考えているのだ。

 「彗月はづき、行くよ!」

 「はーい」

 外に出ると、じわりと冷や汗が出てきた。じゅわっと出てくるものだから一瞬気付かず、ワイシャツの濡れた感覚に戸惑った。

 「暑くない?」

 「今日気温高いってさ」

 スマホを弄りながら、いつもとは違うお母さんだ。

 なんだか高そうな服を着て、メイクして、まるで正装みたいだ。まあ、入学式だからか。


 「えー、お母さん冷たいの買って!」

 「やですー」

 「父!!!頼む!」

 首を横に2、3度だけ振るお父さん。

 (まあそうだよねー、そういう人だよね)なんて思いながら、汗ばむ身体をどうにか押さえつけた。

 「友達できるかな~、可愛い子しかいなかったらどうしよ病むよ?」

 「あんたまたそれ?笑」

 「だってさー」

 「お母さんにとって、彗月が一番可愛いよってずっと言ってるのに」

 お母さんは呆れた態度だけど、どこか優しい雰囲気でそう呟く。知ってる、知ってるけどさ?

 それは、なんだよね。

 はづの欲しいじゃないから。


 こんな娘でごめんね、お母さん。

 「じゃあ、しゅっぱーつ!」

 明るい自分の声と、両親と、愛車。

 まるで絵に描いたような、誰もが幸せだと信じて疑わない家族像。

 傲慢、我儘、怠惰、不孝者。そう怒られても仕方ないような、このちっぽけな深い穴。


 幸せ。幸せ……しあわせ?

 













 幸せなはずなのに、息が詰まるのはどうして。

 
 
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