ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる

文字の大きさ
276 / 312
第5章

第273話

しおりを挟む
 頭を全て潰し尽くし、腕を全て斬り離しても、ヘカトンケイルは倒れなかったが、最後に思い思いの魔法で皆が一斉に攻撃すると、それでようやく戦闘は終了した。

 戦い終わった感想としては、どうにも勿体ないモンスターだったといった印象になる。
 百腕も五十頭も活かしきれていないように思えた。
 これがリビングドールではなく本物のヘカトンケイルだったら、恐らくはもう少し苦労したのだろうが……。

「なんか思ってたよりは楽な相手だったね~」

『最初はビックリしましたけどニャー』

 亜衣もトムも、オレと同じように感じたらしい。

「……マヒしちゃってるのね」

 トリアは違う意見のようだ。

「マヒ?」

「感覚が……ね。普通、あんなに岩を投げ落とされたら生きていられないわよ。皆、劇的に身体能力が向上しているものだから、あれが大したことないように思えただけだと思うわ」

 それは確かに、そうかもしれないな。
 普通の人間は、あんな砲弾のような勢いで次々に飛来する岩石を躱したりは出来ない。
 しかも、いつ尽きるとも分からないほど追撃が降って来る中、反撃することも出来ないだろう。
 それに……

「そうだな。実際オレも危ない目に遭ったわけだし、決して弱いワケでは無かったと思うよ」

 ……あの魔法の一斉行使は正直なところ、本当に危なかった。

 もし、ヘカトンケイルが投石を弾幕代わりに、メインの攻撃手段を魔法と割り切っていたなら……もし、それこそがヘカトンケイルの本来の姿だとしたら……もっと苦戦していたのは間違いないだろう。
 結局のところ、岩石を空間から出し入れする魔力と、魔法攻撃に使う魔力とを秤に掛けて、ロスの少ない投石をメインにしていたような気もするが……。


『……倒して、しまわれたのですね。仕方ありません。これ以上の抵抗は無意味でしょうね。そのまま真っ直ぐに進んで来て下さい』

 先ほどの声が聞こえた。
 今度はオレだけではなく、全員に聞こえているようだ。
 頷きを交わし合い、守護者のものらしき声に導かれるまま歩を進めていく。
 先頭をオレが歩くと、トムがさりげなく最後尾に回った。
 もちろん、罠である可能性を考慮してのことだ。
 スキル構成上、周辺警戒能力が最も高いのはトムで、次が僅差でオレ。
 トムに先頭を進ませないのは、単に戦闘能力に関してはオレの方がトムより上だからだ。

「なんだか……か弱そうな声だったね~」

『迷宮の規模と守護者の実力は必ずしも比例しませんからニャー』

「声だけで、そう判断するのは危険よ? 魔法行使に特化した存在なら、肉体の強さはあまり関係が無いのだし……」

「そうだな。油断せずに進もう」

 進むこと暫し……転移時特有の身体が宙に持ち上げられるような感覚に見舞われた。
【危機察知】が反応しなかったことから、階段代わりの移動系ギミックなのだろうが、少しばかり心臓に悪い。

 気づけばオレ達は、階層ボスの部屋というよりは守護者に割り当てられる居住スペースのような、殺風景な小部屋の中に転移していた。
 マチルダが暮らしていたダンジョン内の部屋に似ている。
 かりんとう好きなハーピーのように、自分の生活レベルを向上させることに頓着するタイプでは無いようだ。

「ようこそ……とは、あまり言いたくありませんが、何はともあれ初めまして。私がこの迷宮を預かる者です」

 最初、どこから声がするのか分からなかったが、どうやら部屋の隅にいる小さな人影が、この部屋の主のようだった。

 幼い。

 ウチの長男よりは大きいが、まるで幼子のようにしか見えない。
 しかし人間の子供では無いことは明らかだ。
 まず耳が尖っている。
 それに……感じられる魔力の量が桁違いだ。
 トリアの本体であるナイアデスさえ、優に上回るほどだった。
 肌の色は小麦色と言うしか無いが、そうした表現で連想されがちな健康的なイメージからは程遠い、陰鬱な表情が全てを台無しにしている。

「初めまして。早速で悪いが【交渉】をさせて欲しい」

「……私は本来なら、この醜い姿を誰にも見せたくないのです。貴方の提示する魔素の量には何の興味も有りません。とにかく、姿を晒したくない。それさえ飲んで頂けるのなら、どんな条件でも構わないのです」

 醜い?
 いや、恐ろしく整った容姿にしか見えないが……。
 種族としては恐らくダークエルフといったところだろうか。
 本人達なりの呼び名が有るかもしれないし、美醜の概念も人それぞれだ。
 迂闊に口に出すわけにもいかないが。

「君が嫌なら、無闇やたらに人前に姿をさらす必要は無いよ。オレにそのつもりもない」

「……本当に? 貴方は判定者を連れ歩いて協力を強制しているのでは無いのですか? そちらのニンフの方や、ケット・シーの方のように……」

『ニャニャニャ! それは誤解なのですニャー。我輩は自ら望んで、主様のお供をしているのですニャ!』

「そうね。彼に無理やり付いて来たのは私の方よ。彼の協力者の中には私の妹もいるけど、あの子も初めはそうだったみたいね。こんな迷宮に籠っているなんて退屈じゃない?」

「そうだね~。いつの間にか増えてるもんね」

 亜衣が悪戯っぽく笑いながらこちらを見ているが、オレだって決して好き好んで仲間を増やしてきたわけではない。
 大半は不可抗力で、残りは成り行きだ。
 まぁ、今となっては居てくれて良かったと思える皆だけれど……。

「……にわかには信じられませんが、確かに貴方達の間には一定の信頼関係が構築されているようにも見えます。今は、その言葉を信じましょう。貴方に守護者権限を無償譲渡させて頂きます。見返りとして……こちらの迷宮のどこか片隅に住まわせて下さい。私はどこにも行きたくない。誰にも会いたくないのです」

「分かった。約束しよう。君に同行を強制したりはしない。そして一部の権限は制限させてもらうが、君をこのダンジョンの守護者として再び任命するよ。このまま、この部屋で過ごしてくれて良い」

「そういうことなら……私に異存は有りません。よろしく、お願い致します」

「あぁ、よろしく頼む」


 こうして仙台市内最大のダンジョン……青葉城址のダンジョンの攻略は完了した。

 そして、この引きこもりのダークエルフという一風変わった存在が、このあと思わぬ影響を齎すことになるのだが……この時のオレはその可能性を何故かあまり考慮していなかった。
しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

(更新終了) 採集家少女は採集家の地位を向上させたい ~公開予定のない無双動画でバズりましたが、好都合なのでこのまま配信を続けます~

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
突然世界中にダンジョンが現れた。 人々はその存在に恐怖を覚えながらも、その未知なる存在に夢を馳せた。 それからおよそ20年。 ダンジョンという存在は完全にとは言わないものの、早い速度で世界に馴染んでいった。 ダンジョンに関する法律が生まれ、企業が生まれ、ダンジョンを探索することを生業にする者も多く生まれた。 そんな中、ダンジョンの中で獲れる素材を集めることを生業として生活する少女の存在があった。 ダンジョンにかかわる職業の中で花形なのは探求者(シーカー)。ダンジョンの最奥を目指し、日々ダンジョンに住まうモンスターと戦いを繰り広げている存在だ。 次点は、技術者(メイカー)。ダンジョンから持ち出された素材を使い、新たな道具や生活に使える便利なものを作り出す存在。 そして一番目立たない存在である、採集者(コレクター)。 ダンジョンに存在する素材を拾い集め、時にはモンスターから採取する存在。正直、見た目が地味で功績としても目立たない存在のため、あまり日の目を見ない。しかし、ダンジョン探索には欠かせない縁の下の力持ち的存在。 採集者はなくてはならない存在ではある。しかし、探求者のように表立てって輝かしい功績が生まれるのは珍しく、技術者のように人々に影響のある仕事でもない。そんな採集者はあまりいいイメージを持たれることはなかった。 しかし、少女はそんな状況を不満に思いつつも、己の気の赴くままにダンジョンの素材を集め続ける。 そんな感じで活動していた少女だったが、ギルドからの依頼で不穏な動きをしている探求者とダンジョンに潜ることに。 そして何かあったときに証拠になるように事前に非公開設定でこっそりと動画を撮り始めて。 しかし、その配信をする際に設定を失敗していて、通常公開になっていた。 そんなこともつゆ知らず、悪質探求者たちにモンスターを擦り付けられてしまう。 本来であれば絶望的な状況なのだが、少女は動揺することもあせるようなこともなく迫りくるモンスターと対峙した。 そうして始まった少女による蹂躙劇。 明らかに見た目の年齢に見合わない解体技術に阿鼻叫喚のコメントと、ただの作り物だと断定しアンチ化したコメント、純粋に好意的なコメントであふれかえる配信画面。 こうして少女によって、世間の採取家の認識が塗り替えられていく、ような、ないような…… ※カクヨムにて先行公開しています。

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

勤続5年。1日15時間勤務。業務内容:戦闘ログ解析の俺。気づけばダンジョン配信界のスターになってました

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
ダンジョン出現から六年。攻略をライブ配信し投げ銭を稼ぐストリーマーは、いまや新時代のヒーローだ。その舞台裏、ひたすらモンスターの戦闘映像を解析する男が一人。百万件を超える戦闘ログを叩き込んだ頭脳は、彼が偶然カメラを握った瞬間に覚醒する。 敵の挙動を完全に読み切る彼の視点は、まさに戦場の未来を映す神の映像。 配信は熱狂の渦に包まれ、世界のトップストリーマーから専属オファーが殺到する。 常人離れした読みを手にした無名の裏方は、再びダンジョンへ舞い戻る。 誰も死なせないために。 そして、封じた過去の記憶と向き合うために。

処理中です...