心に候う

よっしー

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坂上

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「なんだアイツは」

とっさに言葉が口から漏れた。隣に居る愛葉には事情が分かってるだろうことが、顔色から伺える。眼前の男達の言動や雰囲気から、奴らが魂喰人であろうことは予想がついた。
「魂を喰らうとは、どういうつもりですか?」
「言葉通りだ。こっちはロクな飯にありつけてねぇんだ腹が減ってんだよ。」
「魂を喰べては、その人が死んでしまう。私達魂喰人には魂の捕食を禁ずる掟があるはずです!」
「知ったこっちゃねぇ! 俺ら下民の事情はお前のような上流階級とは違うんだよ!感情なんてチマチマしたもんで腹が満たされるはずがねぇ。」
「それは..」
「よくは分かんないが、俺はまだ死ぬ気は無いぞ」
「...。」
ヤバイ。また口から漏れた。あー、めっちゃ睨まれてるよ俺。空気読めみたいな視線送ってるよあの男の人。
「人間、まずはお前の魂から食ってやる。女はその後だ。 」
「待って! この人は…」
常人の速さとは思えない勢いでこちらに向かって男達は食指を伸ばしてくる。目で追い切れず、呆然と立ち尽くすしかなかった。が、襲いかかって来た男の腕は空を切る。間一髪で義一は愛葉に庇われる形で、廊下に転がされる。起き上がり様、男と距離をとるため義一と愛葉は後方へ数歩退がる。隣に居る愛葉の表情が、事態はかなり深刻であると語りかけてくる。が、逆に義一は焦るよりも冷静さを増していた。おかしい、敵は明らかに人ではない。そんな奴らに俺たちは今襲われている。
「ヤバイな。こんな状況なのに不思議と落ち着いてる。」
「恐ろしく動きが速いですね、あの人。」
「えっ?」
義一の言葉の意味の正体が、愛葉には分かっていた。距離をとったので見辛かったが、男が口元へ、黒の結晶を運ぶのが目に入った。
「さっきの一振りで、あなたの感情が少し奪われたみたいです。その落ち着き用を見ると、"焦燥感"が奪われたみたいですね。」
「マジか。」
同じ魂喰人の愛葉にさえ目で追えないスピードで奴らが襲ってくる。この事実にまた焦燥感が芽生えてくる。彼女の一言で、義一から落ち着きの表情が失せる。
「やっぱ味は最悪だ。まぁ良い、次は捕らえる。行くぞお前ら。」

先頭の男を筆頭に、後ろの男達は口も開かず同じようにこちらへ襲い来るよう構えをとる。奴らの身体能力の高さを再認識したこともあって、恐怖心で身体が震える。震える義一の横で、今度は逆に愛葉が冷静さを取り戻すよう努める。
「後ろに丁度階段があって良かったです。廊下で彼らに遭遇したのは幸運ですかね。」
後ずさりする義一の手を掴み、愛葉が走り出す。
「逃げますよ! こっちです!」
「ちょっ! 」
丁度真後ろにある階段を義一と共に降る愛葉。虚をつかれ、踏み出す脚が一瞬鈍る黒服集団。彼らを追えとでも言わんばかりに顎で促す坂上。頷きで黒服達は応え、階下へ下る義一達を追う。

2人を捕らえるのは奴らに任せれば良いかと、1人坂上はその場に残り、胸元から取り出した煙草を咥え、火を点ける。義一達の足音が館内に鳴り響く。煙草を咥えたまま、足音を辿ってゆっくりと彼らを追い、階下へ下る。坂上がある教室の扉前に差し替かった丁度その時、扉が開かれた。
「ちょっとちょっとー。誰さ誰さ廊下走り回ってんのー?!」
何事かと扉を開け外を確認しに来たようである男子生徒と、目が合う坂上。教室内にはまだ他にも生徒が多数、インクで汚れた手先が皆目立っていた。


「おやつターイム♩」


口元に歪んだ笑みを浮かべ、教室内へ踏み込む坂上。彼に律儀に閉められた扉には

"漫画研究部"

と書かれた貼り紙が貼ってあった。

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