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向かうはローレス領
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目の前に並んだご馳走を前にゆっくりと味わいながらレイはまた一口と出された料理を食べる。
飲み物がなくなれば、後ろに控えている使用人たちがすぐにお代わりを入れてくれた。
新鮮かつ高級食材を使っていることはもちろんだが、調理した料理人の腕も王宮の料理人に劣らない。
(これ美味いな。肉に変な臭みはないし、柔らかくて、ソースもくどくない)
皿に盛られた肉は斜めにスライスされていて、真ん中はまだほんのり赤身を残しているものの、そこにソースを絡めて口の中に入れると簡単に噛み切れて肉のうまみが広がっていく。
狂暴なモンスターが存在するこの世界では、どの国も畜産業が発達していない。環境的に発達しにくいと言った方が正しい。
家畜を多く育てるためには広い土地や餌となる牧草地がいるが、モンスターたちが襲ってきてせっかく育てた家畜を食べてしまうからだ。
そのため畜産は発達が遅れ、家畜として育てても技術力が低いので肉が固く、そして生き物特有の臭みがあった。
だから肉に火を通せば固くなりやすく、香辛料と濃厚なソースで臭みを消す、というのがこの世界の肉料理なのだが、今食べている肉は柔らかく、下処理をしっかりしたのか臭みがないからソースもさっぱりした味で食べやすい。胃にもたれない。
(なにより、こういう畏まった場でも、気を使われずに食べることに専念できるってのはいいな)
広間で大人数が一緒に食事が出来る長方形の大テーブルだが、同席して食事をしているアンフェルディスやギィリたちと領主であるリーゲルガードが談笑し、雑用係と思われている俺に会話が振られることは全くない。
遠慮することなく『空気』になれる。
(テーブルマナー求められる食事って相手に気を使わないといけないから、正直言って料理を味わうどころじゃないし、知らない相手と食べながら食事するってのも苦手なんだけど、会話にさえ入らずに済むならまぁいいか)
帝国元帥として、どうしても晩餐会やパーティーに出席しなければならない時はある。しかし分かってはいても、堅苦しい雰囲気そのものに慣れず、元帥の自分に誰かしらが気遣って会話を振ってくる。それに俺も気の利いた返事をしなければならない。
相手も帝国元帥が同じテーブルで食事をするなら、気を遣わなければいけない心境なのは理解出来るし、気持ちも分かった。
元帥には独自の判断で裁判を通さずに、貴族を罰することが出来る権限が与えられている。無視して元帥の機嫌を損ねて、地位を剥奪されたり、家を取りつぶされてはたまったものじゃない。
(アーネストはそれも元帥としての仕事の内だって言うけど、だからって、やっぱり必要以上に気を使われたり、見え透いたご機嫌取りされるのは、好きになれないんだよ)
生まれながらに王族で貴族の食事マナーも身についたアーネストには、貴族たちとの食事は何ら苦でないのだろうけれど、一般市民として生まれた自分とってそれは苦痛でしかない。食事は誰にも気兼ねなくリラックスして食べたいのだ。
「本当に、我がローレス領に新しいダンジョンが出現したかもしれないと報告を聞いたときは、にわかには信じられませんでした!いつどこに出現するか、誰にも分らないダンジョンです!しかし、皆さまがこうして調査にいらっしゃられて、ようやく私も現実のものとして信じられました!」
とにかくリーゲルガードは興奮を抑えきれない様子で、出される食事にもほとんど手を付けず饒舌だった。先行調査だけでなく、もう一度戦力を増強してから再調査に期待が高まるのは分かる。
しかし、ダンジョンの詳細について口外しないようにと皇帝アーネストから連絡が行っているはずだが、しゃべらずともこの興奮した様子を見ただけで、察する者は察するだろう。
「新しいダンジョンはどんなモンスターが潜んでいるか、ギミックもどんなモノか不明です分かり。とにかく、念には念を入れて、この調査メンバーになったに過ぎません。全ての話はダンジョンから無事に帰ってきてからになりますわね」
言葉遣いは穏やかだが、ギィリもリーゲルガードの相手にそろそろ疲れている様子だった。相槌を打ちつつ、手頃な返事を返していたのに、話を終わらせようとしている。
俺自身、ギィリに実力を見るとは言ったが、こういう困った領主との付き合い能力まで評価に入れるつもりはない。
食事も終盤だが、まだデザートが残っている。
(助けてやりたいけど、雑用係と思われて、これまで一言もしゃべっていない俺がここで口出ししたら変だし、う~ん、どうすれば……)
ギィリの前はアンフェルディスが散々リーゲルガードの相手をしていたし、フィリフェルノは俺以外を助けてやろうなんて気は一切ないだろう。
それに伝心を送って上手いことギィリを助けてやれと命じても、次のリーゲルガードの標的になってしまってはフィリフェルノが可哀想だ。
(俺が同席しているからキレはしないだろうけど、リーゲルガードに塩対応は間違いないしな)
そうしてフィリフェルノの容赦ない塩対応に、この場が氷つくのが簡単に想像できた。
残りのディルグラートとレースウィックの2人は我関せずだ。
魔導軍団長相手であり、ギィリの実力評価がかかっていることをオムファロスは知っているから、ディルグラートに不必要なフォローはしないようにと命じられているのかもしれない。
レースウィックの方は少女が抜けきらない歳で、道中の会話でも子供っぽい言動がよく見られた。
こういった社交の会話に自分から入って場を和やかにフォローするというのはまだ期待出来ないだろう。
(あんまりひどいようだったら、ディルグラートに伝心でこっそり俺の素性をバラしてフォローさせるか?)
と思ったところで、期待できないと思ったばかりのレースウィックから声があがった。
対応的にはフィリフェルノだったが、上手く子供であることを利用したレースウィックにしか出来ないやり方で。
「あ、これ苦手なんだよね。ちょっと舌がぴりっとしてー」
フォークで行儀悪く皿をつつき、見せつけるように丸い粒を掬い取る。山椒に似た香辛料の一種で、肉の臭み消しによく使われる。そして、大多数の子供がこの香辛料が苦手だった。
苦手なら最初からサイドに避けて食べればいいものを、わざとこのタイミングで見せつけるように言うものだから、リーゲルガードも会話を中断せざるを得ない。
子供であろうが客人であり、ダンジョン調査PTの上位魔導士だ。
飲み物がなくなれば、後ろに控えている使用人たちがすぐにお代わりを入れてくれた。
新鮮かつ高級食材を使っていることはもちろんだが、調理した料理人の腕も王宮の料理人に劣らない。
(これ美味いな。肉に変な臭みはないし、柔らかくて、ソースもくどくない)
皿に盛られた肉は斜めにスライスされていて、真ん中はまだほんのり赤身を残しているものの、そこにソースを絡めて口の中に入れると簡単に噛み切れて肉のうまみが広がっていく。
狂暴なモンスターが存在するこの世界では、どの国も畜産業が発達していない。環境的に発達しにくいと言った方が正しい。
家畜を多く育てるためには広い土地や餌となる牧草地がいるが、モンスターたちが襲ってきてせっかく育てた家畜を食べてしまうからだ。
そのため畜産は発達が遅れ、家畜として育てても技術力が低いので肉が固く、そして生き物特有の臭みがあった。
だから肉に火を通せば固くなりやすく、香辛料と濃厚なソースで臭みを消す、というのがこの世界の肉料理なのだが、今食べている肉は柔らかく、下処理をしっかりしたのか臭みがないからソースもさっぱりした味で食べやすい。胃にもたれない。
(なにより、こういう畏まった場でも、気を使われずに食べることに専念できるってのはいいな)
広間で大人数が一緒に食事が出来る長方形の大テーブルだが、同席して食事をしているアンフェルディスやギィリたちと領主であるリーゲルガードが談笑し、雑用係と思われている俺に会話が振られることは全くない。
遠慮することなく『空気』になれる。
(テーブルマナー求められる食事って相手に気を使わないといけないから、正直言って料理を味わうどころじゃないし、知らない相手と食べながら食事するってのも苦手なんだけど、会話にさえ入らずに済むならまぁいいか)
帝国元帥として、どうしても晩餐会やパーティーに出席しなければならない時はある。しかし分かってはいても、堅苦しい雰囲気そのものに慣れず、元帥の自分に誰かしらが気遣って会話を振ってくる。それに俺も気の利いた返事をしなければならない。
相手も帝国元帥が同じテーブルで食事をするなら、気を遣わなければいけない心境なのは理解出来るし、気持ちも分かった。
元帥には独自の判断で裁判を通さずに、貴族を罰することが出来る権限が与えられている。無視して元帥の機嫌を損ねて、地位を剥奪されたり、家を取りつぶされてはたまったものじゃない。
(アーネストはそれも元帥としての仕事の内だって言うけど、だからって、やっぱり必要以上に気を使われたり、見え透いたご機嫌取りされるのは、好きになれないんだよ)
生まれながらに王族で貴族の食事マナーも身についたアーネストには、貴族たちとの食事は何ら苦でないのだろうけれど、一般市民として生まれた自分とってそれは苦痛でしかない。食事は誰にも気兼ねなくリラックスして食べたいのだ。
「本当に、我がローレス領に新しいダンジョンが出現したかもしれないと報告を聞いたときは、にわかには信じられませんでした!いつどこに出現するか、誰にも分らないダンジョンです!しかし、皆さまがこうして調査にいらっしゃられて、ようやく私も現実のものとして信じられました!」
とにかくリーゲルガードは興奮を抑えきれない様子で、出される食事にもほとんど手を付けず饒舌だった。先行調査だけでなく、もう一度戦力を増強してから再調査に期待が高まるのは分かる。
しかし、ダンジョンの詳細について口外しないようにと皇帝アーネストから連絡が行っているはずだが、しゃべらずともこの興奮した様子を見ただけで、察する者は察するだろう。
「新しいダンジョンはどんなモンスターが潜んでいるか、ギミックもどんなモノか不明です分かり。とにかく、念には念を入れて、この調査メンバーになったに過ぎません。全ての話はダンジョンから無事に帰ってきてからになりますわね」
言葉遣いは穏やかだが、ギィリもリーゲルガードの相手にそろそろ疲れている様子だった。相槌を打ちつつ、手頃な返事を返していたのに、話を終わらせようとしている。
俺自身、ギィリに実力を見るとは言ったが、こういう困った領主との付き合い能力まで評価に入れるつもりはない。
食事も終盤だが、まだデザートが残っている。
(助けてやりたいけど、雑用係と思われて、これまで一言もしゃべっていない俺がここで口出ししたら変だし、う~ん、どうすれば……)
ギィリの前はアンフェルディスが散々リーゲルガードの相手をしていたし、フィリフェルノは俺以外を助けてやろうなんて気は一切ないだろう。
それに伝心を送って上手いことギィリを助けてやれと命じても、次のリーゲルガードの標的になってしまってはフィリフェルノが可哀想だ。
(俺が同席しているからキレはしないだろうけど、リーゲルガードに塩対応は間違いないしな)
そうしてフィリフェルノの容赦ない塩対応に、この場が氷つくのが簡単に想像できた。
残りのディルグラートとレースウィックの2人は我関せずだ。
魔導軍団長相手であり、ギィリの実力評価がかかっていることをオムファロスは知っているから、ディルグラートに不必要なフォローはしないようにと命じられているのかもしれない。
レースウィックの方は少女が抜けきらない歳で、道中の会話でも子供っぽい言動がよく見られた。
こういった社交の会話に自分から入って場を和やかにフォローするというのはまだ期待出来ないだろう。
(あんまりひどいようだったら、ディルグラートに伝心でこっそり俺の素性をバラしてフォローさせるか?)
と思ったところで、期待できないと思ったばかりのレースウィックから声があがった。
対応的にはフィリフェルノだったが、上手く子供であることを利用したレースウィックにしか出来ないやり方で。
「あ、これ苦手なんだよね。ちょっと舌がぴりっとしてー」
フォークで行儀悪く皿をつつき、見せつけるように丸い粒を掬い取る。山椒に似た香辛料の一種で、肉の臭み消しによく使われる。そして、大多数の子供がこの香辛料が苦手だった。
苦手なら最初からサイドに避けて食べればいいものを、わざとこのタイミングで見せつけるように言うものだから、リーゲルガードも会話を中断せざるを得ない。
子供であろうが客人であり、ダンジョン調査PTの上位魔導士だ。
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