異世界召喚者は冒険者ギルド受付になりました(隠れ兼業は魔王と帝国元帥です)

トキオ

文字の大きさ
16 / 19
ローレス領ダンジョン攻略

しおりを挟む
 扉三つのノブを同時に引かないと開かない扉。
 一つを開けたままで他の二つが閉じられたら、残りの一つも自動的に閉まる仕掛け。

 試してはいないが、恐らく二つの扉を開いていた者が走って一つの扉に集まり、皆で一つの扉に入ったとしても、その先の出口はまたこの場所に繋がるようになっていることまで考えられる。

 安易な方法でギミックの抜け道がないか探そうとしても、この様子では無駄だろう。

(さてと、3つにPTを分けるなら、ベストはアンフェルディスとディルグラート、レースウィックとフィリフェルノ、ギィリと俺なんだがなぁ)

 戦力的な面もあるが、剣士や魔導士といった相性的な問題もある。フィリフェルノと俺は特化タイプではなく、オールマイティに魔法も剣術も両方戦うことが出来る。

 だが、非戦力と思われているギルド職員と、魔導軍団長のギィリがセットになる可能性はかなり低い。オマケにこのタイミングで俺と2人になろうとしてくるものが、既に一人いて、さっそく声を上げた。

「ではレイは俺と」

「遠慮します」

 即座に断った俺に、アンフェルディスの眉間に血管が浮いた。睨みつけてくるアンフェルディスから、反発するように視線を反らす。

 獣人族ということもあるが、アンフェルディスの体から怒りのオーラが滲みはじめていたけれど、

(絶対そうくると思ったぜ!それでいざ扉入ったら、誰も見てないならいいだろとか言って来るんだろ?思い通りになってたまるか!)

 根本的にこのPTでフィリフェルノとアンフェルディスの心配はしていない。2人ともダンジョン経験が豊富で、不利と判断すれば即座に引くだけの判断力もある。

 気がかりなのは残り3人。ギィリ、レースウィック、ディルグラートだ。3人とも戦力として申し分ないが、PT全員がはぐれないことを想定した戦力構成だ。
 その不安が、この扉前に来た時、三つの扉のうち一つに全員で入ろうと提案したことにも繋がる。

「理由を言え」

「……えっと、……2人セットになるなら女性がいいです」

「テメェ……」

 とにかくアンフェルディスとセットになるのを避けるために咄嗟に言ったことだったので、理由までは全く考えておらず見え見えの言い訳になってしまった。

 怒気をはらんだアンフェルディスの声とは正反対に、最初に「ぷっ」と噴出して笑い声を上げたのはレースウィックで。隣で、ギィリも笑いを堪えているが、口元を出で隠して頬がぴくぴく痙攣しているので、笑っているのと大差ない。

 笑われたアンフェルディスは口を数回ぱくぱくさせた後、なんとも言えない複雑な表情でレースウィックたちと俺を交互に見比べて、結局何も言わずに腕を組んでそっぽを向いてしまう。

(あれ?滅茶苦茶適当な言い訳だったのに、なんか上手いこと漫才みたいな流れにできた?)

 本気でアンフェルディスとセットになるのを避けたかったからの言動だったのだが、想定外の流れ、安堵する俺を置いて、ギィリがレースウィックを窘めた。

「レースウィック、もうその辺りで笑うのをお止めなさいな。失礼よ?」

「だってギィリ様ぁ~!この状況でいきなりレイが男同士がヤダってレイが真面目な顔で言うんですもんー!」

「確かに私も驚いたわね。こんな緊張している場面で冒険者ギルドの支部長と組みになるのが嫌だなんて、ふふふ」

「嫌っていうか、何ていうか……生意気なことを言ってすいません……」

 言われてみれば、アンフェルディスは元SSランク冒険者で有名人だ。その有名人とセットになるのを面と向かって嫌だと言えば、誰だって驚くし、支部長とギルド職員の関係性なら笑うしかなくなるだろう。

「お陰で緊張がほぐれたわ。裏ダンジョンに入る前から扉のギミックにまんまとハマりかけて焦り始めていたみたい」

 ダンジョン攻略は常に焦りは禁物である。地上とちがってダンジョンは逃げ場がない。決して深入りしてはならず、ダメだと思ったらすぐに引く判断力が求められる。

 いくら冒険者たちから色んな話を聞いて知っているとしても、帝国の魔導軍団長という高い地位のギィリではなく、ギルドの受付に過ぎない俺が先にギミックの仕様に気づいたことが、焦りを助長してしまったのだと察せられた。

「2人組み合わせの方法について、俺からもよろしいでしょうか?」

 手を挙げたのは、それまで黙って話を聞いていたディルグラートだ。これといった組み合わせのいい案は出てないので、止める者はいない。

「レイの意見は横に置いておくとして、今回のPTは冒険者ギルド3人と帝国側から3人の6人です。戦闘力ではなく、ここは経験や知識をメインに考えて組み合わせを考えませんか?ここから先は裏ダンジョンです。戦うだけでは進めない場所もでてくるでしょう。今もレイがこの3つの扉のギミックに気づいたように」

「一理あるわね。ギミックは戦闘力だけで片付くものではないわ」

 ディルグラートの提案にフィリフェルノが頷く。が、フィリフェルノはアンフェルディスの思惑も、俺がギィリの実力を見ようとしていることも両方承知なので、ディルグラートの案にすかさず乗っかったのだろう。

「そういうことなら俺に異論はない」

 不承不承でアンフェルディスも納得する。そしてすぐさま組み合わせ希望の手が上がった。

「じゃあ、レイと私がセットになるわね!」

「レースウィックはできればフィリフェルノ殿と組になりなさい」

「えええ!?どうしてですか!?」

「あまり考えないで暴走しがちな貴女をレイでは止められないわ。アンフェルディス殿は貴女相手では甘やかしそうですし、フィリフェルノ殿はよろしいかしら?」

 フィリフェルノは一つ頷き承諾し、にこやかだが有無を言わせないギィリの笑顔にレースウィックは口をとがらせて渋々従う。
 異性はどうしても甘くなってしまいがちだ。特に同じ組織の上下関係ではなく、さらに年下の甘え方を知っている少女相手では尚更に。

 その点、ハイエルフの長寿であるフィリフェルノは、年下であろうと同性であろうと厳しくいくことだろう。

「では、俺はアンフェルディス殿と行こう」

「ディルグラート殿か。よろしく頼む」

 こちらもすんなり組みが決まったアンフェルディスとディルグラートだ。残りはもうギィリと俺しかいない。
 始めに俺が望んだ通りの組み合わせが、偶然にしては過ぎるくらい自然な流れで決まった。

(これは……、うーん、やっぱりそうなのか?)

 ローレスの街のあたりから薄々思っていたことなのだが、どうもこれは間違いないようだと内心思う。

「残りは私とレイがセットね。よろしく」

「はい、よろしくお願いします……」

 美人にニコリと微笑まれたら、照れてしまうのは男の性である。
 しかも、思わず襟から除く乳の谷間にどうしても視線がいきかけて、強制的に頭を下げることで視線をそらした。

(ここからギィリと2人きりか……。いかんな……。これは仕事だ。ギルド職員としての参加ではあるけど、元帥としてギィリの実力を測るための仕事であって、けっして不埒な考えなど俺は持っていない!)

 仕事であってやましい気持ちは持っていないのだと自らを言い聞かせる。ただ、先ほどの扉のギミックについて、自分が言い過ぎた感は否めないので、今後は控えるようにする。

(あとは相互連絡方法か。近くに入れば伝心が使えるんだが、裏ダンジョン内で離れると伝心が使えなくなることがあるんだよな)

 これはスキルの使用制限のギミックが発動している場合だ。それまでの普通のダンジョン内であれば階が違っても伝心で連絡を取り合うことが出来ていたのに、裏ダンジョンに入ると伝心スキルが使えないことがままあった。

 あまり使いたくない手段だったが、それでこのPTの誰かが死ぬよりはマシだろう。それに相手は帝国元帥 に恐らく気づいている。

『ディルグラート、オムファロスから元帥 について何か聞いていたのか?』

 俺が伝心した相手はディルグラートである。一瞬だけびくっとしたが、こちらを見なかったのは流石オムファロスの直属の騎士だ。

『オムファロス様からはギィリ殿をダンジョンでサポートするようにとしか命じられておりません』

『じゃあどうして俺が帝国元帥だと気づいた?城で俺が仮面を外した瞬間を見たことがあるのか?』

『元帥閣下のお顔を見たことはございません。しかしながらオムファロス様から命を受けたとき、<くれぐれも頼む>と念押しされました。あの方は貴方様元帥閣下 以外のことで他に気をかけることはありません。それにいくら冒険者たちから話を聞いていたとしても、魔導軍団長に<攻略のための思考>を説けるギルド職員は珍しいです。最後に確信したのは扉のギミックに真っ先に気づかれたことですね』

『そういうことか……』

 オムファロスは帝国の将軍だが、それは俺が命じて将軍になっているだけであって、帝国そのものに関心は無いに等しい。忠誠も帝国皇帝アーネストではなく、魔王オルトラータに捧げられている。
 そのオムファロスが関心がないはずの魔導軍団長ギィリの共を命じるだけで、念押しするのはおかしいと、直属騎士が違和感を覚えても致し方ないだろう。

 しかし、ディルグラートが普段から上司をよく見ており、思慮深い性格であることを差し引いても、後半はほぼ自分のポカミスである。
 責める資格はない。むしろ、このPTの意図を汲み取り、自然な流れでギィリと俺をセットにした機転を褒めるべきだろう。

(俺にしたって、ディルグラートが今回のPTで俺が狙っている意図通りに、上手く話の流れを作るなぁって疑問に思わなければ、ディルグラートに気づかれていることに気づけなかったし)

『まぁいい。これから3つに分かれて扉に入るが、恐らく裏ダンジョンに入ってしまえば伝心のスキルは使えなくなると考えていたほうがいい。そこでだが、別の連絡方法を使えるようにしておく』

『別の方法ですか?伝心スキルを使わずに、離れた場所からも話が出来るのですか?』

『その通りだ。アマデウスのアクセス権をお前に与えておく』

 自分の視界の右端に、ダンジョンに入ってからずっと表示されているアマデウスのディスプレイ。
 もちろん俺以外には見えていない。
 そして、スキルではなくシステムを通してアマデウスに命令する。
 
<アマデウス、ディルグラートにLV2のアクセス権を付与せよ>

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 Amadeus:了解。ディルグラートにLV2のアクセス権を付与します。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...