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第15章
しおりを挟む私は、おじいちゃんの持つマンションに引っ越した。
これまで私はずっと、大和中心の生活だった。
寂しさは少しあるけれど――もう、大和に合わせる必要はない。
ご飯を作る必要も、彼の機嫌を伺う必要もない。
…こんなにも楽だったなんて、気づかなかった。
おじいちゃんから渡されたカードで、好きな家具を買い揃えた。
何もせずに、ソファに座ってぼーっとするだけの時間。
今までの一年は、いったい何だったんだろう。
私は、彼に愛されていると信じて疑わなかった。
でも――
あの人は、私の家に女を連れ込み、好き勝手にやっていた。
私の存在って、いったい何だったんだろう。
そんな時、和也からメッセージが届いた。
「明日、仕事休め。アイツらの家に朝から行くぞ。仕事中に行かないと調べられないだろ」
「わかった。会社に連絡しておく」
「朝、迎えに行く。準備しとけ。じーさんが動き始めたぞ」
「詳しくは明日話す」
和也は、私のことを姉だと思ってるんだろうか?
呼び捨てに、上から目線の言い方。たまに鼻につく。
昔、ギャングか何かやってた名残りなんだよね。
……でも、協力してくれるし。まあ、よしとするか。
翌朝。
和也が迎えに来た。
私は、和也と自分の分のベーグルとコーヒーを持って車へ向かった。
「ほら、ベーグル」
「お、サンキュ」
和也はすぐにかぶりついた。
「コーヒーも飲む?」
「おう、くれ」
一口飲んで、にやっと笑う。
「うまいな、このコーヒー」
「近所の豆専門店のやつだよ。和也のために朝から豆を挽いたの」
「へえ、香ってこういうの好きだよな」
「うん。昔からお母さんの料理手伝ってたからね」
「俺も料理できるし。母さん、うるさいだろ?」
「和也には甘かったじゃない」
「そんなことねぇよ。親父とじーちゃんはお前に甘い。ずるいよな、いつもなんでも買ってもらってさ」
「私はお手伝いして買ってもらってたの」
「俺も今回、手伝ってるんだから。…また、彼女役してくれよ」
「やだよ。あの女の目、怖いもん。和也を取るなって目で見てくるし」
「ははっ、確かにな」
「だから、もうしないから」
和也は舌打ちした。
しばらくして、マンションに到着。
二人が出てくるのが見える位置に車を停めた。
「そろそろ出てくる頃だな」
「…また、盛ってたんだろうね」
私は家に入り、靴や洗面所、バスルームの私物をゴミ袋にどんどん詰めた。
私が買った物は、ほとんど捨てた。
電化製品も私が買ったものは、和也が「売れるだろ」と言って車に積んだ。
寝室の机も私の物だったから、捨てることにした。
黙々と二人で作業していると、あっという間に終わった。
かなりの量になったので、管理人さんに事情を話し、粗大ゴミを預かってもらった。
部屋がきれいに片付き、私の心も少し軽くなった気がした。
使い捨てのゴムがベッド周りに散乱していたけど、それはそのままにした。
ベッドルームの家具は、ほとんど私が買ったもの。捨てるしかない。
ベッドがなくなった今、二人はどこで寝るんだろう。
どうでもいいけど。
和也が突然話し始めた。
「じーさん、あの女の実家が融資を受けてる銀行に圧力かけてる。倒産かもな」
「そんなに簡単に倒産するの?」
「するだろ。間宮組だぞ」
「大和のおじさんも関わってるの?」
「たぶんな。じーさんの笑顔、見ただろ。出世のためにヤクザの孫騙すなんて、終わりだな」
「……私も悪いわ。大和には話してなかった。話してたら、きっと結婚なんてしなかったと思う」
「うちの家族は関わってない。言う必要ない。何か聞かれても、何も話すなよ」
「わかってるよ」
その時、インターフォンが鳴った。
和也がドアを開けると、作業着の男性二人が入ってきた。
「誰?」
「じーさんの知り合いのリサイクルショップの人たち。使える家具、全部持ってってもらう」
「これ、私が買った物じゃないよ?」
「香も家賃払ってたんだから、共有物ってことで問題ない。大丈夫、大丈夫」
「すみません。この部屋の物、全部運び出してください。服はその辺に置いておいてください」
「はい、かしこまりました」
男性たちは、家具やテーブル、キッチン用品、電子レンジなどを次々と運び出していった。
残ったのは、二人の洋服と、床に散らばるゴムだけ。
ほとんど何もなくなった部屋で、和也が笑い出す。
「これヤバいな。リビングのカメラだけ残ってる。この状態でもヤってたらウケるな」
「もう、彼女の家に行くでしょ?」
「だろうな。じーさんの弁護士からの書類と、指輪はちゃんと置いておいた」
「……ありがとう、和也。一人じゃ、ここまでできなかった」
「たまには役立つだろ。これからも、彼女役よろしくな?」
「はいはい、わかってます」
「よし、帰ってアイツらの顔でも見に行こうぜ。楽しみだな~。編集できないのは残念だけど、じーさん、報酬くれるだろ」
「え、お金もらうつもりなの?」
「当たり前。これ、仕事だからな」
「……人のセックスを見るのが楽しいって言うなよ」
「ははっ、俺も気をつけないとな」
「和也の話、聞きたくないわ」
「じゃ、香の家で乾杯しよう!スーパー寄って帰るぞ!」
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