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番外編 本部長霧山悠斗の恋
その恋、『東大受験』宣言から始まる
しおりを挟む『北斗聖龍会』本部長、霧山悠斗。
極道でありながら自らの武器は、己の頭脳と様々な分野からもたらされる情報、という所謂『インテリ系』である。
けれど会の面々は機械好きの『オタク』と評する。そう思われても無理はない。会の若頭である清水圭介同様、他人に対して無関心で一線を画してこれまでを生きて来たのだから。どこか似ていながらも、何くれと下の者らの面倒を見る若頭とは違う。
そんな『どこか人間らしくない』霧山ではあるが、ある人との出逢いそして共に過ごす日々が彼を変えていく…
・・・・・・
彼女と出逢ったのは、会の仕事を終えたその帰り道。夜回りがてらススキノ内を歩き、車を停めてある駐車場へと向かうその途中の事だった。
1本、その道をずれると『モナムール』などの飲み屋が立ち並んでいるが、霧山は敢えてこの手前の僅か薄暗い道を選び突き進む。
理由は単純に『酔っ払いに絡まれると面倒、且つ無駄に腹が立つ。』からだ。何より前記したように、彼は頭脳派であって武道派ではない。…喧嘩が出来ない訳ではないが。
そんなこんなでツカツカと歩いていると…やがて珍しく人がいる気配と話し声が聞こえてきた。だが…どうにも楽しげな会話には聞こえない。
『いいじゃん!俺らと遊ぼうよっ。』
『ヤです!』
『明日日曜だし!』
『イヤったらイヤです!そんな暇もありませんから!』
「………。」
基本的に目が悪く眼鏡をしている霧山は、遠くを見ようと目を凝らす。だが暗がりな為かボンヤリとしか見えず…
「…、…チッ。」
舌打ちしながらも背後から近付き、声を掛けた。
「…おい。女が嫌がってる…フラれたんだから、さっさと諦めて次に行け。」
「ッ、びっくりすんなぁ…いきなりどっから出て来たんだよ!つうか余計なお世話だっつうの!」
「あぁ、そうかい。けどよ…女とヤリてぇんなら、手っ取り早く『風俗』にでも行けや。…何なら『良いモン』やろうか?」
「「…え?!」」
男2人の素直な反応を見てニヤリと笑った霧山は、スーツの内ポケットから銀製の名刺ケースを出すと中から2枚引き抜き、裏側に何かを走り書きをして差し出す。
「そいつを裏に書いてある店のオーナーに見せな。俺の顔で、1回限り無料で入らせてやるからよ。…その代わり、こういう真面目なお嬢さんには手出しすんじゃねぇ…わかったな。」
「マジで?!」
「あざっす!…って!ほ…『北斗聖龍会』!?」
「…。わかったら、さっさと失せろ。」
「「う、うす!あざっす!」」
ヘコヘコと頭を下げて2人組はあっという間に去って行き、場には霧山と呆然と佇む『お嬢さん』が残る。
「……、…じゃ、そういう事で。」
「え、あ、待って…待って下さいっ!」
呼び止められ振り返ると、イマイチよくわからないと言いたげな表情の『女の子』。格好はごく普通のものだが、見るからに全身からあどけなさが漂っていて『子』と呼ぶに相応しい。
「…。アンタ、未成年だろ。ガキがこんな繁華街なんか歩くな。…しかもこんな暗い時間に。」
「じ、塾の帰りなんです…バス停がこの先なんで近道しよう、と…ほ、ホントはもう1本ずれた道の方が近いんですけどっ…」
「そっちはもっとマズいだろがっ、アホかっ。」
「……知ってますぅ…だからここを通って…」
霧山は呆れると同時に重い息を吐き出す。言い分はわかるが、時間を考えろと言いたいようだ。
「…。とにかく、未成年でしかも『女』が1人でこんなトコ歩くモンじゃねぇ。…どこに進学するかわからねぇが…」
「っ、私『東大』目指してるんですっ!」
「……、…『東大』?」
無邪気な笑顔で言い放ったそのとてつもない『展望』に、一瞬思考が止まった霧山だが…数秒の沈黙の後には「あっははは!」と仰け反り笑った。
「はっは!そうかいそうかい…そらスゲェな。受かるといいなぁ…まぁ“頑張れ”や。」
『土台、無理だろうがな。』…そんな意味を込めた彼の言葉は、意外にも彼女には心に響く嬉しいものだった。
ひゃっひゃっと笑いながら再び去ろうと足を動かし始めた霧山だったが…その足はまたも止まる。
「…。おい『東大予備生』…仕方ねぇから送ってやるよ。この先に車停めてあるから、ついて来い。」
「……へ?」
こうして、霧山は彼女を送り届ける事となり…2人の『ファーストコンタクト』となる。
車中で様々な会話がなされる中、まるであだ名のように『東大予備生』と呼ぶ彼に彼女が不貞腐れ顔を見せたので、仕方なく名刺を渡してやる。
「…霧山、悠斗…さん。この『北斗聖龍会』って何ですか?『本部長』って役職なの?っていうか…この『マーク』って何なんですか?」
「……、…」
未成年なら知らないのも無理はないかと彼は思う。だが疑問に思って聞くのは良いが、一辺に聞かず1つずつにして欲しいと思うのはワガママか。何より答えないと何かとしつこそうだ。
「…。『北斗聖龍会』は、ススキノを地盤とする極道組織…“ヤクザ”だ。俺は会の本部長の肩書きを預かっていて、会の資金を動かしたり人員の確保配置を考える。…ちなみに『マーク』って言うな、『代紋』だ。」
「ほぁー…結構偉い人なんですねっ。札幌にヤクザさんがいたなんて知らなかった!」
「…ヤクザに『さん』付けすんなや。俺より上なんてまだいる、しかも『怖い』…色んな意味でな。」
「……それって、どんなイミで?」
「例えば俺のすぐ上に若頭っていう肩書きを持つ男がいるが…その若頭は良く言って『熱血漢』、悪く言って『単細胞』だ。喧嘩っ早い上、行動と思考が全く読めない…この辺りじゃ『予測不能男』って呼ばれてる。仲間である俺らでさえ肩透かし食らっちまう。」
「す、すごいです、ね…」
車が走り出して数分…やっと大通りに出たその時、霧山のスマホが無機質に鳴り響く。助手席の彼女に「喋るなよ。」と念押ししてスマホを操作すると、いきなり聞こえてきたのは『オラァ!』という何とも不穏な罵声。
途端…彼の目がスッと細まる。
『き、キリさん!兄貴がっ…超ヤバいっす!激ギレっす!!』
「…。聞こえてます…司、何とかしろ。」
『ムリっすよ!助けて下さい!』
「私はもう事務所を出てます。何より私の制止を聞くような若頭ではないですからねぇ。…、…場所はどこです?」
『も、モナムールのちょい手前す!行く途中で玄武絡みのチンピラ風情がっ…』
「…玄武、ですか。…司、モナムールまで行って真次を呼んで来なさい。そうなった若頭を止められるのは彼だけですから。後はそっちで頑張りなさい…では。」
『え、キリさん?!キリさ…』
必死な向こうの声を無視して容赦なくプチ!と切った霧山は、疲れたように息を吐く。いつもなら何だかんだ言いながらも場に駆けつけ、若頭に『説教』をネチネチとするのだが…この日は不思議と他の関わりを断ちたかったようだ。
「…あの…いいんです、か?」
「あぁ。若頭の側には可愛がっている『舎弟』が2人いる。…何とかするさ。これまでもそうして来たんだからな。」
やがて大通りから住宅街へと入り、車がひた走る中…2人の会話は尚も続く。その中でようやくわかった彼女の事…
「…あ、私『平井ほのか』って言います。来年高校卒業です!」
「……ってぇと『18歳』、か?」
「はい!なったばかりですっ。」
「……、…」
改めて知るとその歳に唖然とする。何せ霧山は…
「ところで、何歳なんですか?」
「…。…25。」
「わ、見えませんね!25歳にも、ヤクザさんにも!」
「だからヤクザに『さん』付けすんな。しかも取って付けたような言い方しやがって…どうせお前らガキから見たら『オッサン』だっ。」
「…そんな事、言ってませんよ?25歳って若いじゃないですかっ。まだまだイケますっ。」
「………。」
無邪気に笑うほのかに、僅か視線を奪われていた霧山がその目を逸らして気を引き締め直したのは、ほんの一瞬の事。そしてそれから数分としない内に彼女の自宅へと辿り着いた。
「ありがとうございました!交通費1回分、浮いちゃったっ。」
「そら良かったな。…そんじゃ、今度こそおさらばだ。2度とあんな道、通るなよ…じゃあな。」
「あ、あのっ!えっと…き、霧山さん!」
「…あぁ?」
「ヤクザさんって…決まった『休み』とかってあるんですか?」
「は?…ンなものねぇ。いつ何があるかわからねぇのが『極道』だ。だからてめぇが休みてぇ時に休む。」
「…霧山さんは…いつ休み?」
「だからっ…俺の休みはねぇ。てか…何なんだよ、休み休みって。」
「…。えへへ♪」
照れたように笑う彼女が後に口にした言葉に、天地がひっくり返ったかという程に驚いた。…これが若気の至りというものか、はたまた彼女の素直で一途な内面ゆえか。
とはいえ、ほのかに言われ無碍に断る事が出来なかった霧山は、その日仕事を終えて場にいる会長と若頭に切り出した。
「…会長。すいませんが明日、休みを頂戴します。…まぁ、時間によっては来れるかもしれませんが…若頭もその旨、覚えておいて下さい。」
「おや霧山、珍しいですねぇ…いや、初めてなんじゃないですか?お前の姿が事務所にない日などなかったですから。」
「…別に、大した用事ではないので。」
「おいキリ。…てめぇ1回、南雲ントコで検査してもらった方が良いんじゃねぇのか?…『頭』のよぉ。」
「自分は至って正常です。…貴方と違って。」
「…ンだとコラ。喧嘩売ってんのかッ。」
「そこまでですよ。清水も霧山も若いですねぇ…」
『失礼します。』とそそくさと退散した霧山の背に清水がメンチ切って睨み付ける中、会長ははて?と考える。だが…
「…ま、どうせまた新しいシステムでも手に入れて、手を加えたいのでしょう。…ホントに好きですねぇ…」
そんな会長の予想はものの見事に外れていた。会に入って初めてと言える休みを取った霧山が、次の日いたのは意外な場所だ。
「きゃーっ、可愛い!アザラシさーんっ♪」
「……。何でもかんでも『さん』付けすんなっての。」
ここは隣市にある水族館、観光客にも地元人にも人気がある。数日前、助けたほのかを送り届けたその別れ際…
『霧山さんっ、今度私と『デート』して下さいっ!』
と誘われてしまったのだ。もはや彼女の武器にも等しい『無邪気な笑顔』でそう言われてしまっては断るに断れなかったのだ。
…いや、これまでの彼ならば普通にツラッと断るはずである。何せ会の酒席にさえ滅多に出ないくらいなのだから。
だがしかし…
「…何で極道が、この真昼間に水族館なんかに来なきゃなんねぇんだ?…」
僅かな自分への疑問が拭いきれない霧山は、心の声を呟いてしまう。
「へ?何か言った?」
「…別に、何でもねぇ。」
くるくると表情を変え、楽しんでいる様子のほのかを見て、霧山にもフッと笑みが浮かぶ。…図らずも、会に入る前の穏やかな『堅気の頃』を思い出させた。
しばらくを堪能し動物から癒しを得たほのかを連れ、昼食を食べに軽食レストランに入ると
「ねぇ霧山さんっ、『悠斗さん』って呼んでもいい?」
「……グフッ。」
黙々と食べていた霧山が口の中でむせる。危うく口から吹き出しそうになったのを、無理矢理堪えたせいで鼻にスパゲッティが入って僅か痛い。
「ゲホッ…な、何なんだよいきなりっ。…あー鼻の奥痛ぇ…」
「あ、さっきグフッってなったのってむせたの?…可愛い♪」
「…可愛いとか言うなっ。…てか、何がどうなってそうなるんだよっ。」
「え。そう呼びたいから。…ダメなの?」
「…。あのな…俺は『極道』、ヤクザだ。そうは見えなくても事実だ。仮にそれを抜いたとしても、お前は高校生の18で俺は25…7つも違うだろが。」
「呼ぶ分には関係ないでしょ?『愛や恋に歳は関係ない』って言うしっ。」
「…今、何て言った?『愛や恋』って聞こえたぞ。」
「ん、言ったよ。私、悠斗さんの事『好き』。…好きな人の事は名前で呼びたい。」
「……ッ…」
サラッと言う辺り、若さの勢いを感じ霧山は今度こそ閉口してしまった。…だが、そんな彼女の真っ直ぐで一途な想いを、彼は『男冥利』に感じたのだった。
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