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番外編 本部長霧山悠斗の恋
失った存在と側にある存在、それぞれの大きさ
しおりを挟む「申し訳ありません!」
「……、…っ…」
「健…本当にもう、無理なのか?…どうにか助ける方法はないのか。」
「…。子宮内の胎嚢は完全に剥離され、それを淘汰しようと既に出血が始まってしまってます。…こうなるともう、どうにもっ…」
「……。」
「…健先生…それは、一種の『流産』ってヤツなんですか。…処置する事で『中絶』や『堕胎』には…」
「なりません。今回の事は『流産』となります…」
「……わかりました…ほのかの事、よろしくお願いします…」
「力及ばず、本当に申し訳ありません。…これから処置に入らせて頂きます。以降は数日の安静が必要なので、このまま入院となります。」
「……。」
「女性の身体は思う以上に『繊細』です。しっかり癒せばまた望めますから…」
「…ありがとうございます。」
踵を返し戻っていく健を見送った霧山と南雲。
『彼女の身体を癒すのは医者である健の仕事だけど、心を癒してやれるのは君にしか出来ない事だよ。』…そう言って南雲は霧山を奮い立たせた。
ほのかの流産は意外にも霧山に影を落とし、気落ちしてしまった事で仕事も手に付かない。
手抜かりを重ね、時折ボーッとしている様子を見て…『らしくない』と会長は溜息を吐く。
「霧山…霧山っ。」
「っ!はい…何ですか会長。」
「…今夜、付き合いなさい。一緒に『モナムール』へ行きましょう。」
「……。」
事務所から程近くにあるススキノ繁華街のスナックバー『モナムール』は会の舎弟企業の1つ。オーナーママのみずきは、会長と古くからの『知り合い』だった。その馴染みもあってか、会の面々は気兼ねする事なく店へと飲みにやって来る。
「いらっしゃいませ…ようこそ、ってあら会長。」
「…どうせ言いかけたのですから、最後まで言い切って下さいよ。」
「ふふふ。…ようこそ、モナムールへ。お珍しい組み合わせね?霧山様、お久しぶりです。」
「…様なんか自分には勿体ないですよママ。お久しぶりです。」
「じゃあいつものように『キリさん』で。…それとも『ゆうくん』が良い?しーくんみたいに。」
「…何であの人とひと括りにするんすか。」
「はっははは!ママ、今日は私が無理矢理に霧山を引っ張って来たんですよ。」
「あらやだ。会の長と頭脳(ブレーン)が密談?…お部屋、ご用意致します?」
「いえいえ。ある意味密談ではありますがね、そういう類ではないので。…カウンターで構いませんね?霧山。」
「……。」
「やぁねぇ、もしかして疑われてる?大丈夫よっ、仮に聞いちゃっても他言はしないわ。…ね?真次。」
「はい、自分も同じく。…というか霧山さん、知られたくない事でもあるんですか?」
「…それなりに。」
そうしてカウンター席へ会長と2人並び座ると、わかりきったかのように飲み物が出てくる。共にバーボンのロックを手に乾杯を交わした。
「…さて霧山。近頃、というよりそれ以前から気になってはいたのですがね…」
「……。」
「…お前の身辺、何が起きているんです?特として話は聞いてませんが、何もわからないからこそ目に付きます。」
「…会長…」
「まぁ…まるで機械(メカ)のようだったお前ではありましたけど、近頃はだいぶと人間らしい。…美優さんと出逢って変わった清水を見るようです。」
「会長は怖~い人よ?知らないわけないでしょう、キリさん。…見てないようでちゃんと見てるんだから、今の内に話しちゃった方が楽よ?」
「こらママ。余計な口を挟まないっ。」
「あらら、ゴメンなさーいっ。」
「…すんません、もし何か迷惑掛けてんなら謝ります…」
「別にこれといって迷惑被った訳ではありません。…ただ、この数日のお前から覇気が感じられないので、気になっただけです。」
「…。実は…夏辺りに『ある女』と知り合いまして…マズいとはわかりながらも、意外に惚れちまいました。」
「あらら、蓋を開けたら恋バナ。…でも何故マズいの?もしかしてっ…どっかの組織の『姐さん』だった?」
「違いますよ。仮にそうだったら惚れませんて。…女が、18の高校生…なんすよ。」
「「「えっ?!!」」」
「じ、18…って、霧山さんより7つ歳下ですか?」
「おやおや…」
「え、ちょっと待って。…キリさんから好きになったの?その子の事。」
「…どうでも良くないすか?」
「良くないわよっ。だって『マズい』って思ってたんでしょ?順番、重要よ!」
「…。向こう曰く、自分に『一目惚れ』したそうで…実際、付き合ってくれって言い出したのも向こうからなんで。…けど、自分も憎からず寧ろそんな女が『可愛い』とか思っちまったんで…どっちもどっちなんじゃないかと。」
「なるほど…確かに未成年の高校生、マズいわ。でも18だから『青少年育成条例法』にギリギリ引っかからないだけマシね。」
「……。」
「霧山、お前…何日か前に口の端に絆創膏貼ってましたね。…誰にやられたんです?」
「…女の親父に。この間休みもらった日…挨拶に行って来たんです。…『嫁に欲しい。』って。」
「やだー♪急展開っ。…でも何故?まだ卒業前よ?」
「え、待った霧山さんっ、何もかもすっ飛ばしてる感はもしかしてっ…」
「…察しの良すぎる男は嫌われるぞ、真次。」
「な、何?!何なのよっ。」
「…。女を妊娠させちまったんで、さっさと結婚しようと思ったんすよ。」
「「「…え、えーっ!!!」」」
「き、霧山っ…」
「けど…向こうの親には殴られた上に物別れ、俺が殴られるのは道理ですが女まで殴られて…終いには腹のガキ、失っちまいました…」
「っ!」
「…。今、南雲先生のとこに入院中なんです。もう何日かで退院出来るとは思うんですが…何となく、言葉がないってぇか…」
「駄目!…そんな事でどうするの!キリさんっ。…本当に彼女の事好きなら、ちゃんと労わってあげてっ。」
「…ママ…」
「彼女は、貴方や周りには笑顔見せてるかもしれないけど…1人できっと泣いてるわっ。突然『失う』って辛いのっ…男にはわからないでしょうけど!」
「……。」
「だから…ね、まだ若い女性なのよ…ご両親とそういう事になってしまったんなら尚更よっ。」
「…、そうすね…自分が落ちてる場合じゃあないすね…」
会長である笛木やママのみずき、真次にサラッとでも話を聞いてもらった事で気持ちが楽になる。霧山から放たれる雰囲気が変わったのを見てとり、彼らにも安堵の表情が浮かんだ。
「しかし…お前の女はまだ18ですか。…若いですねぇ。」
「ふふふ。キャピキャピしてて可愛いんでしょうねぇ、きっと♪」
「……霧山さんって、意外にロリ…」
「それ以上言ったらコロスぞ、真次。」
「い、いやっ…はは、はっ…」
「けれど本当『人』というものは“面白い”。十人十色とは言ったものですよ。お前が『歳下』に落ちれば…清水は『歳上』ですからねぇ。」
「…。自分はまだ直接会った事がないんですけど…そうなんですか?」
「そうなの♪しーくんより3つ歳上。でもそうは見えない、所謂『美魔女』ってヤツね。そこはかとない可愛らしさが魅力なの。」
「女の事をあれだけけちょんけちょんに言ってた清水さんが、今では彼女に頭が上がらず溺愛全開ですからね。」
「……本当に、変われば変わるものですねぇ。」
会長の口から感慨深げな言葉が呟かれた時…霧山のスマホがブルブルと震え出す。『すんません。』と断りを入れ出ると…
『っ悠斗さぁ~~んっ!!』
…と、うぇーん!という泣きと共に大音量で叫ばれ、堪らず耳から電話を遠ざけた。
それによって微かに声が聞こえた会長らは“おや?”と霧山を伺う。
「ッ、んだよっ…でけぇ声で叫ぶなっ。耳痛ぇだろがっ。」
『うぇっ、ごめんなさいっ…今日もう来れないの?』
「…。今会長に誘われて、飲みに来てんだよ。酒入ったからもうムリだ。…明日顔出す。」
『わ、お酒飲んでる悠斗さん…すごく“レア”だねぇ。私もそこ行きたい…』
「アホか、自分の歳を考えろ。」
『…うぅ…寂しいよぉ…眠れないよぉ…怖いよぉ…』
「…。最初の2つはまだいい…『怖い』って何だよ。」
『だって!すごく大っきい病院なんだよ?!…ゆ、幽霊…出てきちゃう…』
「幽霊って…あのな、幽霊なんかこの世に存在しねぇ!もしいたら、俺が蹴っ倒してやるから写真撮っとけっ。」
『うん、わかった!そうするっ。』
「……。お前、マジでやるなよ…てかさっさと寝ろ!」
『…。悠斗さんいないと寝れないぃ…』
切実に訴えるほのかの言葉に思わず閉口してしまう。実際彼女は日頃を霧山の腕枕でぬくぬくと眠るせいか、一人寝では寒々しさがあって眠れないのだ。…だがそれは彼もまた“同じ”だった。
「…はぁ。もうすぐ退院だ、それまで我慢しろ。…とにかく明日行くから…黙って寝ろ。」
『ふぇーん…悠斗さ~んん…』
「あーわかったわかったっ。まだ店にいるんだから…またな。」
ほのかとの応酬にヤレヤレと通話を切ると…傍らにいるニヤニヤ笑う3人と目が合ってしまい、思わずフイと逸らした。
「キリさん…可愛い彼女ねぇ。ふふふ♪」
「いいんですか?何やら『寂しい、寝れない』と言ってましたけど。」
「…。何聞いてんすか、人の電話を。」
「意外にラブラブですねっ、霧山さん。」
「……ハァ…」
その後もヤイヤイと聞きたがる3人から上手く逃げ果せた霧山は、やっとマンションへと帰るものの…ほのかのいない夜に色んな意味で限界を感じつつ、眠れぬ時間をやり過ごすのだった。
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