Hold on me〜あなたがいれば

紅 華月

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結実ノ章

36 幸せは春の雪解けと共に(後)

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『…会長。明日から3日間、休みもらっていいすか。てか休ませてもらいます。この間は何があっても呼び出しにも応じねぇし、電話にも出るつもり“全く”ねぇんで。…そんじゃ、そういう事で。』

圭介は粗方の酒宴が収まりつつあるそのタイミングで、会長である笛木にそう言い放ち期限付きの『音信不通』を宣言すると、可愛い嫁を連れさっさかと帰って行く。

その事態に目を丸くして驚くのは祖父であるロゼーニョだ。

「オオ?コゾウハ、ナニヲアワテテイルデスカ?マダマダ、コレカラデス!」

「はは!さすがにもう2人きりになりたいのでしょう。…短い間に色々とあり過ぎて、清水も美優さんも辛い思いをしましたしね…」

「…。ソレニツイテハ、ワタシモ『ハンセイ』シテルデス。ミセス・シノノ『ジョウホウ』ハ、マサニワタシガモトメテイタモノ。…デスガ、エンジェルヲトリモドシタイ…ソノキモチハ、フタタビ『オナジコト』クリカエソウトシマシタ…」

「…ミスターロゼーニョ…」

「ドン…ご自身をあまりお責めにならないで下さい。マリアお嬢も、美優お嬢も、ドンのお心をご理解なさっておられます。…もちろんミスター圭介も。」

「ミスターロゼーニョ、清水圭介という男は口は悪いですがね、心根は真面目で優しい『良い男』なんですよ。」

「ハッハ!タシカニ、ケイスケハ『クチガワルイ』デス!コノワタシヲ『クソジジイ』ヨブノハ、ケイスケダケナノデス。」

「…いや~…ロシアのドン相手に『クソジジイ』だもんなぁ。聞いてるこっちは心臓に悪い。」

「ミスターフエキ。アナタノイウトオリ、ケイスケハ『イイオトコ』!ワタシハ、トテモキニイッテマス!ナノデ『コゾウ』トヨブデス!マケテイラレマセン!」

「あっはは!なるほど…それでミスターロゼーニョは清水をそう呼んでいるのですか。」

「我がドンは、気に入り認めた者でなければ自らの懐にお入れになられません。抱きしめるは親愛の証…信の置けない人間には会う事すらされません。」

「あの、ミスターロゼーニョ?どうしてしーくん…いえ、清水圭介を可愛い孫娘の『夫』と認めて下さったの?」

「フム…ケイスケハ、エンジェルニ『イッショニ、シンデ。』イワレマシタ。ソノトキカレハ、オソレルコトナク『ウナズイタ』デス。」

「……。」

「ワタシハ、オモイマシタ…『コノオトコナラバ、カワイイエンジェルヲ、ショウガイマモッテクレル。』ト。ナノデ、ユルシタデス!」

「ふふ♪…ミスター、とても『良い選択』をなされましたわね。」

嫋やかに笑うみずきをロゼーニョが不思議そうに見つめる。それに応えるように笑みを深めた彼女が告げたのは…

「今の彼には、美優さんと出逢った時の『出来事』を僅かに後悔している節があります。…あんな事がなくても、自分達はこうなっていたはずだ…と。その後悔がある限り、彼は美優さんを大切にし続けますわ。」

「ハッハッハ!ナルホドナノデス!」

「大丈夫です、ミスターロゼーニョ。圭介はああ見えて『優良物件』ですから。何かあっても俺が身体張って止めますよ。」

「…トコロデ、アナタハ?」

「俺は『シュン・ナグモ』。ドクターで、圭介のフレンドです。」

「オオ!ドクターナグモ!コゾウノフレンドナノデスネ!マイエンジェル、オネガイシマス!」

「えぇ、お任せ下さい。」

「さて…ミスター。もし宜しければ場所を変えてお話をしませんか。我が会の地盤であるススキノに『モナムール』という、美人揃いの良い店があるんですよ。特にそこの『オーナーママ』は格別の美しさなんです。」

「ぷふっ!やぁね、取って付けたように持ち上げたって何も出ないわよ?」

「…what's?」

「ふふふ♪『モナムール』は私のお店ですの。若い日本の可愛いどころがたくさんおりますので是非。」

「オオ!ジャパンノススキノ、カイガイデハトテモ『ユウメイ』デス!デスガ…マイエンジェルヨリ、カワイイコハイルデスカ?」

「……。」

「…。あっははは!いやぁ~、美優さんに敵う子は…いるかな、みずきさん?」

「い、いるワケないじゃないの~…でも『そこそこ』可愛い子達ですわよ?うふふふ♪」

逃げる為に無茶振りしてきた南雲の背中の肉を、みずきが見えない所でギュッと抓る。そうしながらも顔では笑っているのだから…末恐ろしい。

「…霧山。これでここは切り上げて、モナムールへ移動します。」

「了解です。…主役2人もいなくなってしまいましたしね。」

「結婚式や披露宴などそんなものですよ。主役はさっさと引き、招待客で好きなように盛り上がり騒ぐ。…本来のあるべき姿とも言えます。」

「ま、その点は心配ないんじゃないすか。我らが若頭は『仕事が早え』から!」

「そうそう、美優さんが妊娠すんのも時間の問題っすよ。」

「おいおい…ンな事言ってると、若頭にその辺に吊るし上げられるぜ?…とはいえだ、前に圭介本人も言ったな…『ガキは早めに。』みたいな事。」

「あらやだ、そうなの?!」

「ん…美優さんがウチの病院に運ばれて来た時にさ、ちょっとそんな話になったんだよ。そん時に『アイツが産んだ自分のガキなら、身体張って守ってやれる。』って…子供が好きでもねぇ野郎がそう言ってたぜ。」

「ヤッパリ、ケイスケハ『イイオトコ』デスネ!ハヤク『ヒマゴ』ノカオ、ミタイデス!」

「ミスターにすれば、2人の子供は可愛い曽孫。…楽しみが増えていきますね。」

笑みでそう口にした笛木だが、圭介が帰り際に言い残して言った言葉の意味と意図をここでようやく理解し、彼は心中密かに冷や汗を流す。

けれどそれは敢えて口にはせず、会の一部の者と南雲夫婦などを伴い、モナムールへと移動を始めたのだった。

…そう、圭介はハナから計算尽くだった。彼はこの日を迎えた次の日から3日間、美優と2人きりで誰に邪魔される事なく過ごしたいが為に、前日まで仕事をこなして来たのだ。

そしてその言葉通り、電話や定時連絡など一切を完全無視して引きこもった。とはいえ、美優とスーパーへ買い物に出たり、そこらの近所を散歩してみたりなど…一応『外』には出ている。

…ただ、これまでの極道としての生き様から離れ、普通の人ならばするであろう事をし、嫁となってくれた女(ひと)と新婚旅行へ行けない代わりにそれらしく過ごしたかっただけ。

だから彼にとって『3日』もあれば充分なのだ。

そしてその3日を死守する為に何もかもが徹底的だった。話を聞いた霧山は、試しに圭介のスマホを鳴らしてみたのだが…

「……、……ックソ!マジで出ねぇ!何考えてやがんだ!」

圭介のスマホは呼び出すどころか、機械音声が流れ『着信拒否』を知らせた。さすがの霧山もコレにはキレる。

「…だから止めろと言ったのに。『予測不能男』に敵うワケないでしょう?全て計算し尽くしているのだから。」

…見ていた会長はただ呆れたのだった。

だが…そんな圭介にも、1つだけ予想出来ていなかった事がある。

それは美優とのラブラブな日々の2日目に起きた。午前中、突然ドアチャイムが鳴ったのだ。

圭介はまだ寝ていたものの、いつものように起きていた美優がパタパタとスリッパを鳴らしドアフォンを取ると…

「はい、どちら様ですか?」

『エンジェル!オジイチャンデス!』

「っ!お、お祖父ちゃん?!」

突然響き渡った美優の驚声に圭介も目が覚めガバ!と起き上がる。

「マイエンジェル・ミユウ!オハヨウナノデス!」

「んぐっ…おじっ、お祖父ちゃんっ…くるしっ…」

「…。おいコラ、クソジジイ。いい加減に力の加減くらいわかれや。美優が死ぬ。」

「オオ、ゴメンナサイ…エンジェル。ダイジョウブデスカ?」

「は、はいっ…けほっ…」

「コゾウモ、アイサツデス!…、…ノウ、ヤッパリヤメテオキマス…」

「あァ?…何でだ。一昨日は離せっても離さなかったじゃねぇかよっ…」

「…イマノコゾウ、アセクサソウデス。エンリョシマス…」

「…。悪かったな…美優、悪りぃがオレに着るモンくれ。」

「はい。」

やがていそいそとシャツを持って来た美優に着せてもらった途端に大舅のロゼーニョに抱きつかれ、2度目にしてもう慣れたとばかり且つ宥めるように『おはよう、おはよう。』と挨拶した。

「エンジェル、コゾウ。ワタシハ、コレカラロシアニカエルデス。ソノアイサツニキマシタ。」

「なんだよ。ジジイの事だからまだまだこっちにいるつもりなんだと思ってたんだが…」

「コレデモワタシ、イソガシイデス!ロシアデヤルコト、ヤマズミナノデスヨ。」

「…。お祖父ちゃん…」

「オオ、エンジェル…ソンナカオ、シナイデクダサイ。ロシアハスグソコ!イツデモアエルデス。テルモ、タクサンスルデスヨ。」

「んだってよ美優。それにジジイのこった、何だかんだでまたすぐに来やがるって。」

「……はい…」

寂しそうにシュンとしてしまった美優を、隣に座る圭介が慰める。その姿を見て、祖父であるロゼーニョは安心したように笑う。

「エンジェル…アナタニハ、ケイスケガイマス。ホカニモ、タクサンイルデス!シンパイナド、シテイマセン!」

いつものようにハッハッハ!と声高に笑って、祖父のロゼーニョはエネッツァを伴いロシアへと帰って行く。

『ミオクリハ、イラナイデス。…キットマタ、スグクルデスカラネ!ヨイシラセヲマッテイマス。…コゾウ、ガンバルデスヨ?』

去り際、そんな意味深な言葉を残して行ったロゼーニョに、意味がわからないと言うように圭介と美優は揃って首を傾げた。

辛い時を過ごすのは長く感じるもの。だが楽しい幸せな時間や日々はあっという間に過ぎゆく…

2人にとっての新婚旅行代わりの濃密な3日間は一応の区切りを迎え、これまでと変わらぬ日常が戻って来た。

圭介のスマホは音信不通から復帰し、着信拒否も解除され…彼は再び他人様を怒鳴り散らす日々を再開。美優は毎日を愛する夫の為、これまで以上に家事に精を出す。

右半身の感覚も、その頃にはだいぶ戻って来ていてリハビリを『卒業』するまでに回復していた。

手を伸ばせばすぐ側にあり届くその温もりと幸せ…それを得た2人は互いに穏やかに笑う。

「…ふふっ♪」

「ンだよ、いきなり…もう寝たモンだと思ってたぜ。」

「ごめんなさい。でも…幸せだなぁって思ったら、何だか笑えてきてしまって…」

「…まぁ、わからねぇでもねぇな。」

「圭介さんもそうですか?…『幸せだなぁ』って…思う事あります?」

「あったり前だろが。お前と出逢えたオレを褒めてんぜ…『あの時、美優に手を出したオレ。よくやった!』…てな。」

「…。私はあまり嬉しくないです…寧ろ出来る事なら忘れたい…」

「おい!」

「圭介さんと出逢えた事は良かったですっ。でも…その『後』が…怖かったですし…い、痛かったです…」

「…マジか。…つうか確かにな、怖えかったとは思うっ、それは認めるっ、悪かったっ。…『痛かった』は初耳だぜ…」

「言える訳ありませんっ。…初めてなんですもん…痛いに決まってます…」

「……。重ね重ね悪かった。オレはオレなりに気ぃ使ったつもりだったけど、足んなかったみてぇだな。…てかよ、あくまでそれは『キッカケ』だっ。ンな風に思ってんなら、次の日にココで抱いたのを『初めて』だって思えばいいだろ。」

「……。」

「…ンだよ…不満か?『清水さんちの嫁さん』は。」

「まさか。今が幸せならそれで良いですっ。」

そう言って再び笑った彼女ではあったが…2人の幸せはまだまだ序の口、更なる喜びはすぐそこにやって来ていた。
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