Hold on me〜あなたがいれば

紅 華月

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結実ノ章

38 集いし華

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「やっぱなぁ~♪こうなるって思ってたんだよ!俺はっ。」

「は?何がよ。」

「何って…若頭だよ!若頭!ぜってぇ姐さんと結婚したら、すぐデキるって思ってたんだよ!俺の勘は間違いなかった!」

「ンな事、誰だってわからぁ。…あんだけべったりでデレてりゃあよ!」

只今、場所は『北斗聖龍会』事務所内。若衆筆頭の1人である春原と笹木のコンビは、朝から所内の掃除をしながらそんな話題で盛り上がる。

“自分の勘はスゲー!”と豪語し胸を張る春原は、普段は若衆頭の小田切の側にいるが若頭である圭介を尊敬してやまない男の1人。…今からでも兄弟盃を受けたいとすら思い、虎視眈々と狙ってさえもいる。

もう1人の笹木は後から入って来たのだが、歳が近い春原と仲良くなった事で嫌という程に圭介の武勇伝を聞かされ、今ではすっかり心酔している。

…2人とも憧れる男の影響がかなり強いらしく、口が悪い為にそうは聞こえないが。

「でもなぁ…若頭が『親父』かぁ。なんか信じらんねぇなぁ、イマイチ。」

「俺もだ。あの若頭が『赤ちゃん言葉』とか使うのか?…想像出来ねぇ…」

「アホか!若頭はあの口調だからカッケェんだぞ!吊り目で『でちゅねー?』なんて…怖えだけだろ!若頭は今のまんまが…」

「…。てめぇら…『オレ』があんだって?」

「「ッ!?わ、若頭!?」」

好き放題話していた2人の背後に、ぬぅと現れた若頭こと圭介に驚き飛び退くが…逃がすものかと両手が伸び2人の頭をガシ!と鷲掴みする。

「鬼の居ぬ間に洗濯って奴か?だったらオレがてめぇらを洗濯してやるぜ…あァ!?」

「「ひいぃ!!」」

今更『今のまんまがカッコ良い。』とは言えず…また聞く耳のない圭介によって洗濯という名の『鉄槌』が容赦なく下されたのだった。

こんなスチャラカから僅か遡って数時間前…朝をゆっくりと過ごした夫婦の自宅マンションのドアフォンが『ピンポン♪』と鳴る。

「こんにちは、お邪魔します。どう?美優さん、体調は。」

「こんにちは。やっと落ち着きました…圭介さんにはご迷惑と心配を掛けてしまって…」

「そら心配にもなるわ。あんだけ昼も夜もなくゲーゲーやられりゃあよ。」

「…ちょっとしーくん、言い方っ。ホントにもう、口が悪いったら…」

「ハッ!オレの口が悪りぃのは今に始まった事じゃねぇ。ンな事くれぇ、美優はちゃんとわかってら…な?」

「はい。」

「あらら、相変わらずラブラブ♪」

「美優さんっ、座って座ってっ。赤ちゃんに悪いからっ…ね♪」

「お、良い事言うじゃねぇかあかり。美優はほっとけばいつでもその辺パタパタしてっからよ…ちょっと注意してやってくれ。」

「はーい♪おまかせあれ~♪」

「はい!オーダー通り、マタニティ服をいくつか持って来たわよー。お支払い、お待ちしておりますわ『旦那様』♪」

「…へいへい。ったく…てめぇはマジで頭ん中『金』の事しかねぇのな!」

「商売上手って言いなさいよ!」

この日、清水家には様々な顔触れの女性達が集まった。モナムールのママみずきを始めアモーレ・ミオを商う翠、モナムールのナンバー1のあかり、そして圭介の友人南雲の妻で看護士長の志穂…と多種多彩だ。

4人はこれまでの古い付き合いを断ち切り、心許せる人の少ない美優を思ってやって来た。知る顔は会の男達ばかり…それではさすがに小さなストレスが積もっていくだろう、たまには同性である女同士で話したい事もあるはず…何より『同士』でなければ話しづらい事だってあるのだから。

それを憂いたみずきが率先して動き、声を掛け合って集まったのがこのメンバーである。

…何故みずきか?それはめでたく妊娠した美優だが相変わらず独り占めしたがる圭介を唯一『ねじ伏せられる』人物だからに他ならない。

「ちょっとアンタ!仕事はいいの?もうじきお昼になるわよっ。」

「オレの仕事は自由が利くんだ。てめぇらみてぇに時間に縛られちゃいねぇ。」

そう言ってドッカリとソファーに腰掛ける。場所はもちろん可愛い嫁の隣だ。

「そうかもしれないけれどね、これから子供が産まれるのよ?子供って考えてる以上にお金掛かるんだから。」

「ンな事くれぇわかってる。伊達に司や将也、幹哉の舎兄やってんじゃねぇぜ?アイツら食わして住まわして小遣いやって、それでもオレら2人食うに余りある。要は余裕綽々なんだよ…でねぇとガキ作ろうなんて思わねぇって、さすがによ。」

「あら意外。清水さん、ちゃんと考えてるのねー。」

「意外とか言うな志穂。オレだってなぁ…、…あ?」

「あらあら。どうしたの?美優さん。」

「…ゔぅ…圭介さん…また言いましたっ。」

「…、…あ…」

突然唸りを上げ、下から圭介を睨み上げる美優を他の女性陣はハテナを浮かべる。その訳は…

「お腹の赤ちゃんの事を『ガキ』って言わない約束です!どうしてそうなんですかっ。」

どうやら夫婦の間において子供の事についてそんな約束を交わしたらしい。…だがいかんせん口の悪い圭介の事、子供の事を『ガキ』とつい言ってしまうようだ。

「わ、悪かったっ…ンな怒るなって、な?」

「ゔぅ…知りませんっ。」

「み、美優ぅ…マジで悪かった!ンなプンスカしてたら腹のガ…子供がっ、ビビるからッ…な?ひとまず落ち着けって。」

「…こうもなると、巷で有名な『予測不能男』も只の男よねー。なんか拍子抜けしちゃうわ。」

「えー、可愛くない?嫁に頭上がらない極道!きゃはは♪」

「るせぇ!笑うなあかりっ。」

「でもね、男はこんなでいいのよ…ねぇ?志穂さん。」

「そうそう♪ウチの瞬くんもこんな感じ。家でも外でも病院でもっ。」

「…なっさけねぇなぁ、瞬の野郎…付いてるモン付いてんのか?マジで。…おい志穂、お前実は切っちまったんじゃ?」

「やだ!そんな事したら瞬くん死んじゃうじゃないっ。まだ病院のローンが何十年もあるのよ?まだまだ頑張ってもらわなきゃ!」

「お、鬼嫁がいるぜココに。てかよ、違う事ガンバれって。跡継ぎだ、跡継ぎ!それこそ病院廃れちまうぜ?」

「だからぁ、そんな『元気』ないってば♪」

どっかにいそうなオバちゃんみたいな仕草で笑い飛ばす志穂を、皆も一緒になって笑う。そうしている間にもさすがに仕事に行く気になったのか、はたまた女ばかりで居づらくなったか…圭介が『ういせっ。』と立ち上がった。

「ちょっと『ジジイ』、どこ行くのよっ。」

「ンだと?るせぇな『ババア』。仕事に行くんだっての。…まぁとりあえず、楽しんでってくれや。ウチの嫁サンを頼むぜっ。」

「大丈夫よ、心配しないで仕事してらっしゃいな。」

「おう。んじゃな美優…行ってくんぜ。」

「はい、行ってらっしゃ…あ!圭介さん待って下さいっ。背中の『トラさん』がほつれちゃってます!」

「ぷふ!と、トラさんって!」

「…あ?あぁ…別にいいってこんなの。ンなペロンってなってねぇだろ?」

「ダメですっ、違うの着て行って下さい!…えっと確かパーカーが…あ、待ってっ、ダメですってば圭介さん!」

「あらあら。走っちゃ危ないわ美優さんっ。」

「…はいっ、聞こえてないっと!」

黒のパーカーを手にパタパタと走って行ってしまった美優がちょっとして戻って来る。その手には圭介がついさっきまで着ていた派手ジャージの上が握られていた。

「ふぅ…何とかパーカーを着てもらえましたっ。」

「賑やかねぇ清水さんちはっ。ラブラブだし、羨ましいわ。」

「そ、そんな事ないですよっ。南雲先生と志穂さんだって仲良しです。」

「…美優さん、さっき私が清水さんに何て言われたか聞いてた?『鬼嫁』って言われたのよ?」

「でも結婚して旦那がいるでしょう?…私なんかっ…もう何年、男がいない事かっ…」

「み、翠ちゃんはほら…理想がエッフェル塔並みに高いからっ。」

「でも大穴なのがみずきさんよねー。まさか会長の笛木さんとそういう関係だったなんてっ。若い頃…って言うか族の頃からの『知り合い』とは聞いてはいたけど。」

「まぁ、あっちにはワケありとはいえ『嫁』がいたから、大っぴらには言えないわよね。でもそのすっごくごっちゃごちゃなそれも、今はスッキリ解消よ。」

「よ!北斗聖龍会会長の妻!姐さん!」

「やだっ、やめてちょうだい翠ちゃん!私は『モナムール』のオーナーママのみずき…それで十分よ。」

「あかりちゃんは?…司くんと何か進展してないの?」

「ふぇ?あたひ?」

「…あかりちゃん。貴女、食べながら話すのお止めなさい…お行儀悪い子ね。」

圭介が去り、女ばかりとなった場には紅茶と美優特製のサブレが並べられていた。あかりは早速とばかりそれに手を出しモグモグと頬張っていた時、話を急に振られたのだ。

これまでのあかりならば『司なんか大嫌い!』となるはず…なのだが、何故かこの日は「ンー…」と考え込む。そして出て来た言葉は…

「それがぁ…あかりちゃん、食べられちゃいました!パクッと!あはは♪」

「「…。…えぇーーっ!!?」」

意外や意外のその告白に、一同がザワつき一斉に驚声を上げた。

「あぁ…あかりっ、貴女もとうとう男の餌食となっちゃったのねっ…うぅっ。」

「み、翠さん?どしたの?」

「この子はほっときなさい。それよりあかりちゃん!どういう事なの?!」

「お、お付き合い…してるんですかっ?司さんとっ。」

「…。なんかぁ、みんな怖い~。」

「司くん…って、清水さんの舎弟で金髪頭ツンツンの子?それとも赤髪のちょっと髪長めの子?それとも『…自分すか。』って喋る黒髪の子?」

「ん~、司さんは金髪ツンツンの人ですよ。いつもニコニコしてます。」

「あーようやくわかったわ。確かに可愛い顔してるっ。」

「そかな?あかりは清水さんみたいな感じがタイプなんだけどなぁー♪」

「あかりちゃん…理想と現実、かなり差があるわよ?」

みずきのツッコミも虚しく、あかりはあはは♪と笑いながらそこに至るまでの経緯を説明した。

キッカケとなったのは、会総出でミスターロゼーニョ率いるロシアマフィアと対峙する事が決まった時だそうで、仕事の合間に見たスマホにこんなメッセージが届いていた。

『近々、兄貴の為に俺はてめぇの身体を張る。女神が俺らに微笑んでくれれば、全部終わった後に会いに行く。もしそうじゃなかったら…お前とはもう2度と会えない。そん時は『那須司』っていうアホな同級生がいたっけなぁ…ってくらいの記憶にしとけ。』

何とも中途半端で意味不明なその内容に、あかりは意味がさっぱりわからなかった。舎兄である圭介からの小遣いで日々を暮らす司は、時折憎まれ口を叩きながらもあかりを気にして店の裏口からたまに顔を見せていた。…客としては来れない事を詫びながら。

その事はママであるみずきも、舎弟暮らしの辛さを人伝に聞いて知っている真次も周知の事実。真次などはたまに1杯飲ませてやったりなどしていたくらいなのだ。

とはいえ、これまで来る時に連絡してくる訳でもなく、増して『2度と会えない』の意味もわからず混乱した。

…その2日後。突如の臨時休業でヒマを持て余していた彼女は、無駄なお金を使うのを防ぐべくさっさと寝てしまおうという選択をした。けれどそんな夜遅くにピンポン!とチャイムが鳴る。

『…悪りぃ。店行ったら休業ってなってて…そりゃそうだよな、ママも真次さんも『こっち』来たんだもんよ。』

『……は?さっぱりワケわかんない。何言ってんの?』

『別にわかんなくていいって。…ずっと好きだった。それが言いたくて来ただけだから。』

言ってグン!と抱きしめた司だったものの、そのまま顔を見るワケでもなく帰ってしまったのだ。

「…えー…司ったらヘタレぇ…」

「へ、そう?…次の日には押し倒されたけど?…普通に♪」

「「…。えぇーーっ!!?」」

…再びの告白と、その予想を上回る内容に一同は再び驚声を揃って上げるのだった。
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