4 / 25
プロローグ
3
しおりを挟む
これから「調査」をするために喜びが隠せない常連と、今回の痛い出費に肩を落とした探求者をマスターは見送った。
店に残ったのは、マスターと弟子、それからその仲間だ。
「で、ししょー」
「その間抜けな言い方を何とかしなさい、馬鹿弟子。
それで、どうしました?」
「いやさぁ、こんなに薬草要る?」
今回マスターが弟子たちに依頼した薬草の量は、百キロ単位である。
「仕方ないでしょう。ここ数日で、ほとんど薬草の在庫がないんですよ。ハーブティに回すのを含めてですが。吽形の空間にもほとんど残っていないんですよ」
この調子で作っていけば、明日で薬草は切れる。
何度ギルドに依頼しても薬草は届かない。つまりは、薬草納品すら滞っているという現実だ。それくらいなら、店を閉めて自分が行った方がまし。そう思っていたところでもあった。
「……マジで?」
「嘘を言ってどうするのですか」
薬の重要性を知る弟子のパーティは愕然としていた。
余談だが、マスターは二種類の亜空間が使える。それも偏に、阿形と吽形という、二体の狛犬がいるからである。吽形の空間は時間経過しないが、積載量に限りがあり、阿形の空間は無限に入れれるが、時間経過がある。
鮮度が落ちて困るものを吽形に、それ以外を阿形に預けることで、マスターは身軽なのだ。
「……師匠の場合は、そうやって預けられる妖精がいるから、この量で依頼出来るんだよな」
「妖精ではありませんよ。狛犬、つまりは『神之使』です」
このあたりを何度訂正しても、弟子は「妖精」と言い張る。困ったものだとマスターは思う。
「そういうわけで、お願いしますよ。私も調べ物がありますので」
ポーションの行方を調べないことには、これ以上作れない。
弟子とその愉快な仲間はにやりと笑った。
「謝謝、マスター。このふざけたクエストから解放されるのは、サイコー」
パーティメンバーの李 春麗だ。
弟子のパーティは通常ではありえないほどの多国籍パーティでありる。弟子が一応リーダーだが、誰よりも探求者ランクは低い。ここが日本であるということが理由である。ちなみに、全員日本語を解するため、会話はすべて日本語。まぁ、全員が共通して話せる言語というのが、日本語だけなのだが。
「さて、お茶を淹れなおしますから、堅苦しい話は終わりにしましょう」
「やったぁ! マスターのお茶はのんびり飲みたいもの!」
「マイニさん、ありがとうございます」
「僕はT?よりもCappuccinoのほうがいい」
美味しいと言ってくれたのは、フィンランド出身のマイニで、ウーゴは言いたい放題だ。カプチーノというあたりが、イタリア出身のウーゴの好みを表している。ちなみに春麗は、お茶お茶と嬉しそうにしているが、いつも頼むのは中国緑茶だ。
もう一人のメンバーである、イギリス出身のクリフは「お茶を淹れなおす」と聞いてさっさと買い物に出かけてしまった。茶が嫌いなわけではない。おそらくアフタヌーンティにしてしまおうとしているだけだ。
……濃ゆいメンバーの個性に、マスターも慣れたものである。
再度一人一人の好きな茶をゆっくりと淹れていく。最後に入れるのは、もちろん弟子ので、薬草茶に変更した。
「ししょー。ゆっくり飲む時くらい俺のリクエスト聞いてよー」
三十過ぎた成人男性のとは思えないげんなりとした口調で、弟子が抗議してきた。だが、知ったことではない。
「お前はこうでもしないと、薬を飲みたがりませんからね。マイニさんとクリフさんからも頼まれておりますし」
「ひどっ! 俺も師匠の美味しいお茶が飲みたいっ!」
「裕里、諦めるのね。いつも大人しく薬草茶を飲んでいれば、マスターだってそんなことはしないもの」
「春麗、ヒドス!」
「落ち着け、裕里。美味しいお茶請けを買ってきたから」
「クリフサンキュー! ……って、薬草煎餅じゃんか! 俺だっておいしそうなスコーンが食いた……」
弟子が最後まで言い終わらないうちに、クリフがさっさと口に放り込んでいた。
そんな弟子にやるのは、口直し用の砂糖をたっぷり入れた甘い紅茶だ。
「マスターはやっぱり裕里に甘いのね」
マイニが楽しそうに言う。
「暴れられるよりましですから」
一息ついたところで弟子たちも帰り、マスターも店を閉めた。
「阿形、吽形。出かけますよ」
行く先は探求者ギルドだ。
店に残ったのは、マスターと弟子、それからその仲間だ。
「で、ししょー」
「その間抜けな言い方を何とかしなさい、馬鹿弟子。
それで、どうしました?」
「いやさぁ、こんなに薬草要る?」
今回マスターが弟子たちに依頼した薬草の量は、百キロ単位である。
「仕方ないでしょう。ここ数日で、ほとんど薬草の在庫がないんですよ。ハーブティに回すのを含めてですが。吽形の空間にもほとんど残っていないんですよ」
この調子で作っていけば、明日で薬草は切れる。
何度ギルドに依頼しても薬草は届かない。つまりは、薬草納品すら滞っているという現実だ。それくらいなら、店を閉めて自分が行った方がまし。そう思っていたところでもあった。
「……マジで?」
「嘘を言ってどうするのですか」
薬の重要性を知る弟子のパーティは愕然としていた。
余談だが、マスターは二種類の亜空間が使える。それも偏に、阿形と吽形という、二体の狛犬がいるからである。吽形の空間は時間経過しないが、積載量に限りがあり、阿形の空間は無限に入れれるが、時間経過がある。
鮮度が落ちて困るものを吽形に、それ以外を阿形に預けることで、マスターは身軽なのだ。
「……師匠の場合は、そうやって預けられる妖精がいるから、この量で依頼出来るんだよな」
「妖精ではありませんよ。狛犬、つまりは『神之使』です」
このあたりを何度訂正しても、弟子は「妖精」と言い張る。困ったものだとマスターは思う。
「そういうわけで、お願いしますよ。私も調べ物がありますので」
ポーションの行方を調べないことには、これ以上作れない。
弟子とその愉快な仲間はにやりと笑った。
「謝謝、マスター。このふざけたクエストから解放されるのは、サイコー」
パーティメンバーの李 春麗だ。
弟子のパーティは通常ではありえないほどの多国籍パーティでありる。弟子が一応リーダーだが、誰よりも探求者ランクは低い。ここが日本であるということが理由である。ちなみに、全員日本語を解するため、会話はすべて日本語。まぁ、全員が共通して話せる言語というのが、日本語だけなのだが。
「さて、お茶を淹れなおしますから、堅苦しい話は終わりにしましょう」
「やったぁ! マスターのお茶はのんびり飲みたいもの!」
「マイニさん、ありがとうございます」
「僕はT?よりもCappuccinoのほうがいい」
美味しいと言ってくれたのは、フィンランド出身のマイニで、ウーゴは言いたい放題だ。カプチーノというあたりが、イタリア出身のウーゴの好みを表している。ちなみに春麗は、お茶お茶と嬉しそうにしているが、いつも頼むのは中国緑茶だ。
もう一人のメンバーである、イギリス出身のクリフは「お茶を淹れなおす」と聞いてさっさと買い物に出かけてしまった。茶が嫌いなわけではない。おそらくアフタヌーンティにしてしまおうとしているだけだ。
……濃ゆいメンバーの個性に、マスターも慣れたものである。
再度一人一人の好きな茶をゆっくりと淹れていく。最後に入れるのは、もちろん弟子ので、薬草茶に変更した。
「ししょー。ゆっくり飲む時くらい俺のリクエスト聞いてよー」
三十過ぎた成人男性のとは思えないげんなりとした口調で、弟子が抗議してきた。だが、知ったことではない。
「お前はこうでもしないと、薬を飲みたがりませんからね。マイニさんとクリフさんからも頼まれておりますし」
「ひどっ! 俺も師匠の美味しいお茶が飲みたいっ!」
「裕里、諦めるのね。いつも大人しく薬草茶を飲んでいれば、マスターだってそんなことはしないもの」
「春麗、ヒドス!」
「落ち着け、裕里。美味しいお茶請けを買ってきたから」
「クリフサンキュー! ……って、薬草煎餅じゃんか! 俺だっておいしそうなスコーンが食いた……」
弟子が最後まで言い終わらないうちに、クリフがさっさと口に放り込んでいた。
そんな弟子にやるのは、口直し用の砂糖をたっぷり入れた甘い紅茶だ。
「マスターはやっぱり裕里に甘いのね」
マイニが楽しそうに言う。
「暴れられるよりましですから」
一息ついたところで弟子たちも帰り、マスターも店を閉めた。
「阿形、吽形。出かけますよ」
行く先は探求者ギルドだ。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる