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富士樹海迷宮編
いざ、迷宮へ
しおりを挟む探る、というよりは「何もしない」が正解だ。下手に動けばあのギルドマスターに筒抜けになる。だったらと、アメリカ国籍の探求者チームが「ポーカーをやろう」と言い出した。
「日本では違法だと聞くが、ここは国法の利かない探求者ギルドだ。リアルマネーをかけたポーカーだって許される」
いや、治外法権じゃないからね? という弟子の言葉は却下された。「文書偽造罪が罪に問われないなら、問題ない」と。ある意味正論である。
迷宮グループはさっさと「調査」と銘打って出かけた。そこにマスターたちの姿もあった。
「いいんですか?」
「ランクBの魔獣を倒すには戦力が足りないので、今回は調査のみです」
わざとらしくマスターが答えた。
「あとは大暴走で薬草関係に異変がないか、見てくる予定ですが」
「そちらよりも……」
魔獣倒しを優先しろと言わんばかりの職員の態度に、マスターは呆れた。
「たったこれだけの、下級ポーションのみで、ランクB魔獣と対峙しろとおっしゃるのですか? だったらあなた方が倒せばいいでしょう。少なくとも私や、弟子パーティメンバーは無理ですよ」
弟子パーティに回復魔法持ちがいる、それを知っていてあえて言う。職員は魔法のことを口に出そうとしたが、「機密保持も出来ないのですか?」というマスターとマイニの言葉に、何も言えなくなっていた。
「ここまで最低限のマナーも、ルールも無視するギルドは初めてだな」
ウーゴが吐きすてるように言った。
それが、このギルド支部に下された「評価」となった。
富士樹海迷宮の入り口は、樹海の奥にあるとある洞窟だ。
そこには何百年前かに奉納されたしめ縄が飾られてある。
本来、それが目印であり、そこから数キロは一般人も立ち入りが可能だ。そして、その奥にもう一つの扉があり、そこからは探求者しか入ることはできない。といっても、最初のフロアは本当に初級も初級で、探求者になりたての者が修行に使ったりもしている。
今は、しめ縄がある場所ですら、魔獣たちがたむろしている。
久方ぶりに潜る迷宮、しかも大暴走中となれば、かれこれ十年以上前になる。
「師匠はそれくらいなんだ。俺は師匠と一緒に潜った中国のやつ以来かなぁ」
とすると、二十年くらい前。現役の者にしては少ないと思った。
「予想以上に大暴走に巻き込まれていないのですねぇ。もっと厳しく鍛えれば……」
「ウーゴと師匠が巻き込まれた大暴走の数が異常なの! 日本限定で活動しているとそこまで巻き込まれない!!」
「それは言えてるわ。ウーゴは大暴走に巻き込まれるのが趣味だものね」
「マイニ、酷いぞ。俺は迷宮という迷宮に潜りたいだけだ!」
弟子のメンバーが和気藹々と話す。ここは大規模な大暴走が起きている迷宮だということを忘れていないのか、と自分を棚上げにしてマスターは思った。
余談だが、五人の中で誰よりも大暴走に巻き込まれているのはウーゴだ。次点でマイニ。マイニは長生きしているため巻き込まれた数が多いだけだが。そしてマスターと続く。マスターの場合、国外で巻き込まれた大暴走のうち、弟子が一緒の時にわざと巻き込まれたものもある。
マスターとしては、探求者になる弟子に「死なない程度で」教えられるものを教えてきただけなのだ。
「だからって『大暴走が起きる』って分かっている迷宮に、置いていかれると思わなかったよ!?」
「あれは、お前がポーション系を軽視したからですよ。一応、少しばかり置いていったでしょう?」
「分かったけど、マジで三途の川渡るかと思った。あと、食べ物の偉大さも思い知った」
ぼやく弟子に、マスターは「何事も勉強」という言葉で逃げた。
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