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悪意のレイド
突然の別れ
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盆休みも終わり、現実世界でも仕事が増えていく時期だった。
ジャッジは、そうなる前に少しだけ繋ぎたいと思った。
「……カナリア?」
耳も完全に垂れ、うつむいたカナリアが拠点の居間にぽつんと立っていた。
「ジャッジさん、お帰りなさい」
「ただいま」
どうした? と聞くかわりに、カナリアを抱きしめ額と額をあわせる。キスのかわりだ。
「……ジャッジさん」
もうここに来れなくなりました。カナリアはそう寂しげに呟いた。
「電話番号は?」
「無理矢理、変えられて分からなくなりました」
「……そっか。学校の文化祭には行くから。……絶対に見つけるから」
見つけても声をかけないつもりだったが、向こうがそのつもりなら、ジャッジだって我慢する必要はないのだ。
シュウが両親に教えたこと。帰ってきて凄く怒られたこと、そしてVRMMOをすぐに止めるよう言ってきたこと。……おそらくカナリアの人格も努力も全てを否定する言い方でもしたのだろう。
「最後に、皆さんにご挨拶したいなって思ったんですけど……」
「あ~。ディッチさんは明日からの補習授業のために学校行ったらしいし。カナリアも希望してるって聞いたけど」
「はい。家にいなくて済むなら、それでいいかなって」
「いいんじゃないのか? ……仕事暇な時に学校前でカナリアを待ってみるか」
「え!?」
「そうしたら、文化祭まで待たなくても、カナリアを見つけられる」
VRで出来ないなら、現実世界でカナリアを笑顔にしてみせる。
「……嬉しい」
寂しげにカナリアが微笑む。
「両親に言われたんです。私、高校卒業したらすぐに結婚するんだって。私のような不器用な人間を嫁に貰ってくれるんだから、何があっても我侭言ったり、家に帰ってくるなって」
「そりゃおかしいだろ!」
何だその決定事項は。ジャッジの中で怒りだけが膨らんでいく。
色々シュウがカナリアを褒めたらしいが、それすらも「ゲームだから出来たこと。誰にでも出来る」と突き放したという。
発想、というものは誰にでも出来るものではないものなのに。
大半のVRMMOはスキルレベルが上がれば、ある程度誰にでも出来るようになる。だが、「TabTapS!」は発想力がなければスキルレベルが上がっても、何も出来ないゲームなのだ。最たる例がジャッジである。結局、知り合いが作ったものをメンテナンスすることしか出来ない。ディッチの作ったバイクや車だって、職人が違えば作り方も全く違うし、どういうところを走れるかも違う。だからこそ、色んなものに対して「特許」というものが与えられる。
ただ一つジャッジが誇れたのは、メンテナンスが得意だということだった。だからこそ、他人よりも長く使えるのだ。
「お前は俺が知る中でも最高の職人なんだがな」
おそらく、現実世界でもやらせればそれなりに芽は出てくるはずだ。あとは、少しばかりの「運」があれば、絶対にのし上がっていける。それだけの実力を持っている。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
カナリアを抱きかかえてソファに座る。メンバーの誰かが来てから、拠点に移動すればいい。
そう思っていた。
カナリアの身体が歪みだした。
「!?」
「やだっ!!」
強制ログアウトや、レッドカードをくらっての強制退場ではない、その消え方にジャッジは一瞬だけ躊躇った。
「まだっ、戻りたくないっ!!」
「カナリア!!」
思わず手を伸ばし、カナリアをつかむ。しかし、次の瞬間歪んだままカナリアが消えた。
すぐにGMコールをする。
――どうしましたか?――
「プレイヤーが歪んで消えた。バグですか?」
――いえ、そのようなものは報告されていません。どこでその様子を見ましたか?――
「ここで、GMコールを入れる少し前です」
――では社員を派遣し、状況を確認します――
タブレットから聞こえる穏やかな声に、ジャッジはいらついていた。
それから数分後、カウンターで見かける社員が慌ててやってきた。
「遅くなりました。現状確認をさせていただきます」
社員にだけ付与される、高性能のタブレット。それは現実世界で丸一日までならゲーム世界を遡って調べられる。
「確認が取れました。まずはあなたのお名前をお聞かせください」
「ジャッジ」
「では、この歪みに巻き込まれた方のお名前は……」
「カナリア」
社員も分かっていて聞いてくる。全てを上層部に報告義務があるからだ。
「何故、そのようになったかは見当つきますか?」
「全く。警告を受けるようなこともしていないはずです」
「そうですか。また後日お話を聞く場合があります。ログアウト時に個人情報を入れていただきますが、よろしいですか?」
「はい」
すぐにでもログアウトして、ディッチたちに知らせたかった。
「俺も、一度ログアウトして、時間が作れ次第ログインします。その時は、おそらくガレ連邦共和国首都にある、俺たちのギルド本部にいます。そして、ギルドメンバーに知らせていいですか?」
「それは私ではなんとも言えません」
「そうですか……」
「ただ、『バグがおきたため調べたい』くらいなら問題ないかと思われます。戻ってきた時には、私も上長に判断を仰ぎ、教えても大丈夫か答えられるはずです」
「分かりました。ありがとうございます」
ジャッジに非はなくとも、誰かギルドメンバーが何かしたとも考えられるのだろう。だからこそ、そういう回答になるのだ。
社員に見送られ、ジャッジはログアウトした。
ジャッジがログアウトしたあと、室内全てを社員はくまなく調べていく。
私情を挟んではいけない。ジャッジとカナリアの「おつき合い」は、「初心者の町」ではNPCも社員も温かく見守っていたのだ。喧嘩をしたとか、そういうことは報告されていない。それに、二人が所属するギルド「カエルム」の評判はかなりいい。現在舞踏会クエストのために、全ての名指し依頼を断っていることに不満は出ているが、「いいもの作って優勝したい!」と声高らかにギルマスが宣言した。
そして、それと同時に「深窓の宴」との軋轢も取りざたされた。それだけで、他のPCたちは納得したのだ。「深窓の宴」のクエストを受けないために、全てを拒否したのだと。
「『深窓の宴』が絡んでる? まさかなぁ」
社員は誰にも聞かれないように呟いた。
ジャッジは、そうなる前に少しだけ繋ぎたいと思った。
「……カナリア?」
耳も完全に垂れ、うつむいたカナリアが拠点の居間にぽつんと立っていた。
「ジャッジさん、お帰りなさい」
「ただいま」
どうした? と聞くかわりに、カナリアを抱きしめ額と額をあわせる。キスのかわりだ。
「……ジャッジさん」
もうここに来れなくなりました。カナリアはそう寂しげに呟いた。
「電話番号は?」
「無理矢理、変えられて分からなくなりました」
「……そっか。学校の文化祭には行くから。……絶対に見つけるから」
見つけても声をかけないつもりだったが、向こうがそのつもりなら、ジャッジだって我慢する必要はないのだ。
シュウが両親に教えたこと。帰ってきて凄く怒られたこと、そしてVRMMOをすぐに止めるよう言ってきたこと。……おそらくカナリアの人格も努力も全てを否定する言い方でもしたのだろう。
「最後に、皆さんにご挨拶したいなって思ったんですけど……」
「あ~。ディッチさんは明日からの補習授業のために学校行ったらしいし。カナリアも希望してるって聞いたけど」
「はい。家にいなくて済むなら、それでいいかなって」
「いいんじゃないのか? ……仕事暇な時に学校前でカナリアを待ってみるか」
「え!?」
「そうしたら、文化祭まで待たなくても、カナリアを見つけられる」
VRで出来ないなら、現実世界でカナリアを笑顔にしてみせる。
「……嬉しい」
寂しげにカナリアが微笑む。
「両親に言われたんです。私、高校卒業したらすぐに結婚するんだって。私のような不器用な人間を嫁に貰ってくれるんだから、何があっても我侭言ったり、家に帰ってくるなって」
「そりゃおかしいだろ!」
何だその決定事項は。ジャッジの中で怒りだけが膨らんでいく。
色々シュウがカナリアを褒めたらしいが、それすらも「ゲームだから出来たこと。誰にでも出来る」と突き放したという。
発想、というものは誰にでも出来るものではないものなのに。
大半のVRMMOはスキルレベルが上がれば、ある程度誰にでも出来るようになる。だが、「TabTapS!」は発想力がなければスキルレベルが上がっても、何も出来ないゲームなのだ。最たる例がジャッジである。結局、知り合いが作ったものをメンテナンスすることしか出来ない。ディッチの作ったバイクや車だって、職人が違えば作り方も全く違うし、どういうところを走れるかも違う。だからこそ、色んなものに対して「特許」というものが与えられる。
ただ一つジャッジが誇れたのは、メンテナンスが得意だということだった。だからこそ、他人よりも長く使えるのだ。
「お前は俺が知る中でも最高の職人なんだがな」
おそらく、現実世界でもやらせればそれなりに芽は出てくるはずだ。あとは、少しばかりの「運」があれば、絶対にのし上がっていける。それだけの実力を持っている。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
カナリアを抱きかかえてソファに座る。メンバーの誰かが来てから、拠点に移動すればいい。
そう思っていた。
カナリアの身体が歪みだした。
「!?」
「やだっ!!」
強制ログアウトや、レッドカードをくらっての強制退場ではない、その消え方にジャッジは一瞬だけ躊躇った。
「まだっ、戻りたくないっ!!」
「カナリア!!」
思わず手を伸ばし、カナリアをつかむ。しかし、次の瞬間歪んだままカナリアが消えた。
すぐにGMコールをする。
――どうしましたか?――
「プレイヤーが歪んで消えた。バグですか?」
――いえ、そのようなものは報告されていません。どこでその様子を見ましたか?――
「ここで、GMコールを入れる少し前です」
――では社員を派遣し、状況を確認します――
タブレットから聞こえる穏やかな声に、ジャッジはいらついていた。
それから数分後、カウンターで見かける社員が慌ててやってきた。
「遅くなりました。現状確認をさせていただきます」
社員にだけ付与される、高性能のタブレット。それは現実世界で丸一日までならゲーム世界を遡って調べられる。
「確認が取れました。まずはあなたのお名前をお聞かせください」
「ジャッジ」
「では、この歪みに巻き込まれた方のお名前は……」
「カナリア」
社員も分かっていて聞いてくる。全てを上層部に報告義務があるからだ。
「何故、そのようになったかは見当つきますか?」
「全く。警告を受けるようなこともしていないはずです」
「そうですか。また後日お話を聞く場合があります。ログアウト時に個人情報を入れていただきますが、よろしいですか?」
「はい」
すぐにでもログアウトして、ディッチたちに知らせたかった。
「俺も、一度ログアウトして、時間が作れ次第ログインします。その時は、おそらくガレ連邦共和国首都にある、俺たちのギルド本部にいます。そして、ギルドメンバーに知らせていいですか?」
「それは私ではなんとも言えません」
「そうですか……」
「ただ、『バグがおきたため調べたい』くらいなら問題ないかと思われます。戻ってきた時には、私も上長に判断を仰ぎ、教えても大丈夫か答えられるはずです」
「分かりました。ありがとうございます」
ジャッジに非はなくとも、誰かギルドメンバーが何かしたとも考えられるのだろう。だからこそ、そういう回答になるのだ。
社員に見送られ、ジャッジはログアウトした。
ジャッジがログアウトしたあと、室内全てを社員はくまなく調べていく。
私情を挟んではいけない。ジャッジとカナリアの「おつき合い」は、「初心者の町」ではNPCも社員も温かく見守っていたのだ。喧嘩をしたとか、そういうことは報告されていない。それに、二人が所属するギルド「カエルム」の評判はかなりいい。現在舞踏会クエストのために、全ての名指し依頼を断っていることに不満は出ているが、「いいもの作って優勝したい!」と声高らかにギルマスが宣言した。
そして、それと同時に「深窓の宴」との軋轢も取りざたされた。それだけで、他のPCたちは納得したのだ。「深窓の宴」のクエストを受けないために、全てを拒否したのだと。
「『深窓の宴』が絡んでる? まさかなぁ」
社員は誰にも聞かれないように呟いた。
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