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暗転の章
状況確認、または反撃の準備
しおりを挟むログインした時にいたのはディスカスだけだった。
「おい! レットから聞いたぞ! カナリアが消えたってのはどういうことだ!?」
「俺も分からない」
「ジャッジ、どうして俺に直接連絡寄越さない!?」
「俺はお前のだけ連絡先知らない」
「あ……」
どうやらディスカス、そのことをすっかり忘れていたようだ。
「全員が揃ってから話す。もしかしたら、途中でGMから連絡が来るかもしれないが」
「GM絡みって……おい」
そうしているうちに、ユーリ、ママン、カカがログインしてくる。
「カナリアちゃんが消えたって……」
「その件については全員が揃ってから……」
さすがに同じ話を何度もしたくない。そう思っていると女三人がすぐにログアウトして、そのあと戻ってきた。
「夫たちに連絡をしました。現実時間であと一時間ほどで全員ログインするそうです」
なんとも早いことで。女性陣にとって「娘」もしくは「妹」なのだ。かなり心配しているのだろう。
「女性のほうが動き早いのな」
呆れたようにディスカスが言う。その間、不思議なことにセバスチャンは動いていた。
「スカーレットは今日来れないの。さすがに上司権限でどうすることも出来ないしねぇ」
ほのぼのとカカが言う。
――GMよりお知らせいたします――
「今日、現実世界時間で一時間後にはメンバー一人を除いて全員が集まります。その時でよろしいですか?」
――それでよろしければ――
GMの回答が終わる頃、ジャスティスが来た。
そして、一時間後にはスカーレットを除く全員が集まっていた。
その場にいる全員のタブレットが強制的に鞄から出てくる。そして、そこに映ったのは、ガレ連邦共和国首都ギルドでカウンター業務に携わる一人だった。
――おそろいのようですね。まずは他のプレイヤーに聞かれないために特殊結界を張らせていただきます。今後、この一件についてお話しする場合は、この部屋のみとさせていただきます。結界の用意などはそこにいる主不在のAIへ権限が委ねられています――
その言葉にセバスチャンが深々とお辞儀をした。そして、全員にお茶と茶菓子を用意していく。
――まずは、そちらにいるジャッジ様よりお話がありました映像と会話記録ですが、今のことろ公開することはございません。ご了承願います。ただ、プレイヤーが消えた現象につきましては、強制ログアウトや、ペナルティのための退会ではありません。そして、他のプレイヤーからの嫌がらせ等でもございません――
「つまり、運営側では何も分からないということでしょうか?」
ディッチが訊ねていた。
――左様でございます。そして、この部屋で会話した内容は時と場合によっては弊社への提出をお願いします――
「こちらでは疚しいことがありません。全て提出させていただきます」
――ご協力ありがとうございます。弊社といたしましても、素早い解決をすべく動いております。なお、ジャッジ様より消えたプレイヤーと現実でやり取りがある方がいらっしゃると伺いました――
「まずは俺です。あとスカーレットというプレイヤーが一度顔を合わせています」
――左様ですか。では、もし彼女にお会いしたらお伝え願いたいことがございます。弊社にて強制退会等をしたわけではございませんので、いつでもお戻りくださいと――
「分かりました」
既にディッチとGMとのやり取りとなっている。
「状況によっては、会話内容、映像は見せていただけますか?」
――上層部が必要と判断した場合にのみ、開示されます――
「そうですか。ありがとうございます。これより俺たちの話し合いに入ります」
これ以上GMと会話が無駄だと感じたのだろう。ディッチがこちらを向いた。
「話の内容から察するに、カナリア君は不可抗力、しかも運営会社も関知していない状況で消えたわけだ」
「えぇ。二度とゲームに繋げられないかもしれないと言っていた。全員にお礼を言いたいと言ってたところで、急に歪んで消えた」
「歪んで?」
ジャスティスが驚いたように言う。
「歪んでいた。あんな消え方俺は今まで見たことがない。それに『まだ戻りたくない』みたいなことも言っていた」
それだけでベテラン勢はおかしいと分かってしまう。強制ログアウトや強制退場の場合、唐突に消えるのだ。言葉を残すなんて出来ない。
「消え方自体おかしいな。……どうせならその状況を見てみたかったんだが」
「ディス。一応すぐにGMコールをして証拠を残した」
「ん。だとジャッジが無体をしいて消えたわけじゃないんだな」
「……誰かしら言うと思ったよ」
ジャスティスの言葉に、ジャッジは思わずため息交じりで返した。
イエローカードをくらいたくないから、キスすら我慢している男に言う台詞ではないと思うが。
「明日から幸いにも補習が始まる。カナリア君が来ているなら、この件をそのまま話そう。もし来ていない場合は、学年主任権限で自宅訪問をする」
「ディッチさん!?」
「あそこの親、かなりやばい。教頭も要注意と言っているくらいだぞ。……それから、ジャッジ。学校にいる時にああいうメールを寄越すな」
「教頭?」
「お前らだって知ってるだろう? お前らが入学時から三年間学年主任だった方」
その言葉にジャッジとジャスティスが固まった。
「まさか、富岡学年……」
「ジャス、今は教頭だ。ありがたく思え」
「あらあら、あの富岡先生とまた一緒なのね」
ママンがほのぼのと言い出す。
「えぇ。お陰様でいまだにからかわれています」
「ほほほ。わたくしたちも大変お世話になりましたわね。パパン」
「そうだね。ママン」
「お二人とも!! 頼みます!! ほのぼの展開は後にしてください!!」
ディッチが二人を止めたおかげで、それは止まった。
「富岡教頭が参戦の可能性……」
「ちょっと待ってください! この状況でギルドメンバー増やすわけにいかないでしょう!?」
「うん。明日の状況次第だと思う。学校に来ていない場合は教頭と二人で乗り込む」
職権乱用以外なにものでもないが、誰一人止めなかった。
それよりも、救えるものを救えないのが辛いのだ。
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