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暗転の章
現実世界にて<反撃の狼煙>
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翌日、運び込まれた病院へ向かう。本当に脱水症状であれば、意識が戻っていてもおかしくない。
だが、美玖は相変わらずICUに入ったまま、意識がないらしい。誰に説明しているのか分からないが、良平はその説明に混ぜてもらうことにした。
「あなたは?」
「古瀬 美玖さんの通う高校に勤務しております、溝内です。一年の学年主任をやらせていただいております」
「私は、同じく高校の教頭、富岡です」
「私は、美玖の伯父で磯辺と申します」
美玖の伯父、というところで良平は思わず警戒した。
「美玖の母親が私の妹です」
「あ、そうですか」
明らかにほっとした良平を見た、磯部が苦笑していた。
「美玖から何か聞いてましたか?」
「え? そういうわけでは」
まさかVRMMOのなかで知り合って、少しばかり家庭の事情を知っているとは言いにくい。
「先程、まだ古瀬さんの意識が戻らないと伺いましたが」
「聞いていらっしゃいましたか。その様です。脱水症状は何とか脱したらしいのですがね。医師でも意識が戻らない原因が分からないそうです。MRIを取ったり色々したそうですが、何も出てきません。……本当に具合が悪くて寝込んでいたのかすら、私には分からないのですよ」
磯辺の言葉がやけに重い。
「……こんなことなら、親父が死んだ時に……」
そのあと磯辺が呟いた言葉は聞こえなかった。
「古瀬さんのご両親は?」
「あぁ。どうしても外せない仕事が入っているんだそうです。……昨日母に連絡があったとかで。先程まで母が付き添っていたのですが、休ませています」
「……そうですか」
そんな話をしていたら、警察官がこちらへ来た。
また互いに自己紹介をして、経緯を話していく。
「実は、虐待の疑いがあると行政に通報があったのをご存知ですか?」
その言葉に、磯部が悔しそうな顔をしていた。
「何も、殴るだけが虐待ではありません。ネグレイトと呼ばれるものや、心理的、経済的なものまで多種に及びます。学校側ではSOSサインがなかったのですか?」
「成績は中の中くらいですから、それほど悪いわけではないのに、やたら自己評価が低いと思っていました。また、こちらからの連絡が滞ったりとありました」
「……ふむ。ではそれらを加味して強硬な家庭訪問をされたということですか?」
「はい。実際進路希望調査は塵のような形で昨日受け取りました」
「ご近所に聞いた話ですと、しばらく押し問答をされていたようですが」
「当人に直接プリントを渡すと申し出ましたところ、拒否されました」
「具合が悪ければ当然だと思いませんでしたか?」
「確かに当然かもしれません。ただ、あまりにも毎日暗い表情で、しかも後半の補習は希望者と成績が下に該当する生徒だけのものです。迷うことなく、彼女は希望していた。通常であれば、希望などしません。もしかしたら家にいたくないのかと思った次第です」
警察官と良平のやり取りが続く。
まさかVRMMOのことをここで話すわけにはいかない。
「では、御身内の方にお伺いします。虐待の可能性はありましたか?」
「……私たちは妹夫婦と疎遠なのですよ。ただ、私の両親が孫である美玖を気にして居住を近所に構えました。……本当は反対だったのですが」
「何故?」
「両親が苦労するからです。有体に言えば、妹夫婦は己たちのためならどんな嘘でも平気でつきます。その嘘に姪は翻弄され続けたのかもしれません」
「それもある種の虐待、と取ってよろしいですか?」
「……構いません」
磯部が悔しそうに言う。
「御三方にはもう少し待っていただけないでしょうか。ご両親に間もなく来ていただくよう、連絡をしました。勿論今聞いた話は知らなかったことにします」
それからかなり時間が経過してから、美玖の両親が来た。慌てた風なのは、警察官が待っていたからなのか、そう見せたのかすら分からない。……本当に嘘が上手な夫婦だと思ってしまう。その中で美玖はどうやってあそこまで真っ直ぐに育ったのだろうかと、良平は不思議に思う。
一問一答といった形で、聴取が進んでいく。あくまで両親は朝、具合が悪いと言っていたというのを、通すつもりらしい。
「では、最後に。彼女がVRMMORPGを春からやられていたのはご存知ですか?」
ある種の爆弾が、投下された。
「いえ、全く」
そう答えたのは美玖の父親だった。
「ご存じなかったと? ログインはほとんどがあの部屋からのようでしたよ。ですが現場検証をした際に、ヘッドギアと呼ばれる装置がなかったので不思議に思ったのですよ。
最悪、家の中全てを調べざるを得ませんね」
「ちょっ! 私たちはしていたのを知らないのに、どうしてそうなるのですか!?」
「知っていました」
遮るように言ったのは磯辺だった。
「私は娘から聞きました。春に母が保護者欄にサインをして一つ買ったと。ヘッドギアに関しても、母が少しばかりお金を援助して購入したと聞きました」
「娘さんは、どなたから?」
「母からだそうです。私たちも親子揃ってVRMMOをやっています。母が毎日ログインするのを確認して、体調を聞いています。その時に娘のりりかと甥の一弥に母が教えたそうです。娘と甥は一緒にゲームが出来ることを望んでいましたが、なにぶんやっているのが、World On Lineと呼ばれるもので。姪は学友たちと会うのが嫌なことと、月額料金がかからないものを選んだということでした」
「では、ご両親に内緒だったということですか?」
「はい。いつかはばれるだろうけど、それまで楽しみたいと言っていたそうです」
「だと尚更おかしいですね。ヘッドギアが出てこないというのが。そして最終ログインが前日の夕方です」
状況を調べていけば、カナリア=美玖という図式は出てくるはずだ。昨日の今日でここまで調べられたのは、ひとえに晴香が下準備を整えていたからだろう。
「コ……コインロッカーに預けていたとかは……」
美玖の母親が震えた声で言う。
「コインロッカーですか。駅まで行かないとないですね。さすがに毎日持ち歩くのは難しいのではないですか? 先程、美玖さんのお祖母さんの許可を取りまして、お祖母さんのご自宅を家宅捜査させていただきました。……美玖さんが使ったヘッドギアは見つかりませんでした。その代わり、購入した時の領収書と品質保証書は見せていただきましたが」
先に反論を潰した形だ。
「というわけで、ご自宅も家宅捜索させていただきます。今すぐご一緒しましょうか」
そう言って令状を見せてきた。
「あ、皆様はお帰りいただいて結構です。後ほどお聞きすることがあるかもしれませんので、連絡先などを教えてください」
その言葉で良平たちは解放された。
だが、美玖は相変わらずICUに入ったまま、意識がないらしい。誰に説明しているのか分からないが、良平はその説明に混ぜてもらうことにした。
「あなたは?」
「古瀬 美玖さんの通う高校に勤務しております、溝内です。一年の学年主任をやらせていただいております」
「私は、同じく高校の教頭、富岡です」
「私は、美玖の伯父で磯辺と申します」
美玖の伯父、というところで良平は思わず警戒した。
「美玖の母親が私の妹です」
「あ、そうですか」
明らかにほっとした良平を見た、磯部が苦笑していた。
「美玖から何か聞いてましたか?」
「え? そういうわけでは」
まさかVRMMOのなかで知り合って、少しばかり家庭の事情を知っているとは言いにくい。
「先程、まだ古瀬さんの意識が戻らないと伺いましたが」
「聞いていらっしゃいましたか。その様です。脱水症状は何とか脱したらしいのですがね。医師でも意識が戻らない原因が分からないそうです。MRIを取ったり色々したそうですが、何も出てきません。……本当に具合が悪くて寝込んでいたのかすら、私には分からないのですよ」
磯辺の言葉がやけに重い。
「……こんなことなら、親父が死んだ時に……」
そのあと磯辺が呟いた言葉は聞こえなかった。
「古瀬さんのご両親は?」
「あぁ。どうしても外せない仕事が入っているんだそうです。……昨日母に連絡があったとかで。先程まで母が付き添っていたのですが、休ませています」
「……そうですか」
そんな話をしていたら、警察官がこちらへ来た。
また互いに自己紹介をして、経緯を話していく。
「実は、虐待の疑いがあると行政に通報があったのをご存知ですか?」
その言葉に、磯部が悔しそうな顔をしていた。
「何も、殴るだけが虐待ではありません。ネグレイトと呼ばれるものや、心理的、経済的なものまで多種に及びます。学校側ではSOSサインがなかったのですか?」
「成績は中の中くらいですから、それほど悪いわけではないのに、やたら自己評価が低いと思っていました。また、こちらからの連絡が滞ったりとありました」
「……ふむ。ではそれらを加味して強硬な家庭訪問をされたということですか?」
「はい。実際進路希望調査は塵のような形で昨日受け取りました」
「ご近所に聞いた話ですと、しばらく押し問答をされていたようですが」
「当人に直接プリントを渡すと申し出ましたところ、拒否されました」
「具合が悪ければ当然だと思いませんでしたか?」
「確かに当然かもしれません。ただ、あまりにも毎日暗い表情で、しかも後半の補習は希望者と成績が下に該当する生徒だけのものです。迷うことなく、彼女は希望していた。通常であれば、希望などしません。もしかしたら家にいたくないのかと思った次第です」
警察官と良平のやり取りが続く。
まさかVRMMOのことをここで話すわけにはいかない。
「では、御身内の方にお伺いします。虐待の可能性はありましたか?」
「……私たちは妹夫婦と疎遠なのですよ。ただ、私の両親が孫である美玖を気にして居住を近所に構えました。……本当は反対だったのですが」
「何故?」
「両親が苦労するからです。有体に言えば、妹夫婦は己たちのためならどんな嘘でも平気でつきます。その嘘に姪は翻弄され続けたのかもしれません」
「それもある種の虐待、と取ってよろしいですか?」
「……構いません」
磯部が悔しそうに言う。
「御三方にはもう少し待っていただけないでしょうか。ご両親に間もなく来ていただくよう、連絡をしました。勿論今聞いた話は知らなかったことにします」
それからかなり時間が経過してから、美玖の両親が来た。慌てた風なのは、警察官が待っていたからなのか、そう見せたのかすら分からない。……本当に嘘が上手な夫婦だと思ってしまう。その中で美玖はどうやってあそこまで真っ直ぐに育ったのだろうかと、良平は不思議に思う。
一問一答といった形で、聴取が進んでいく。あくまで両親は朝、具合が悪いと言っていたというのを、通すつもりらしい。
「では、最後に。彼女がVRMMORPGを春からやられていたのはご存知ですか?」
ある種の爆弾が、投下された。
「いえ、全く」
そう答えたのは美玖の父親だった。
「ご存じなかったと? ログインはほとんどがあの部屋からのようでしたよ。ですが現場検証をした際に、ヘッドギアと呼ばれる装置がなかったので不思議に思ったのですよ。
最悪、家の中全てを調べざるを得ませんね」
「ちょっ! 私たちはしていたのを知らないのに、どうしてそうなるのですか!?」
「知っていました」
遮るように言ったのは磯辺だった。
「私は娘から聞きました。春に母が保護者欄にサインをして一つ買ったと。ヘッドギアに関しても、母が少しばかりお金を援助して購入したと聞きました」
「娘さんは、どなたから?」
「母からだそうです。私たちも親子揃ってVRMMOをやっています。母が毎日ログインするのを確認して、体調を聞いています。その時に娘のりりかと甥の一弥に母が教えたそうです。娘と甥は一緒にゲームが出来ることを望んでいましたが、なにぶんやっているのが、World On Lineと呼ばれるもので。姪は学友たちと会うのが嫌なことと、月額料金がかからないものを選んだということでした」
「では、ご両親に内緒だったということですか?」
「はい。いつかはばれるだろうけど、それまで楽しみたいと言っていたそうです」
「だと尚更おかしいですね。ヘッドギアが出てこないというのが。そして最終ログインが前日の夕方です」
状況を調べていけば、カナリア=美玖という図式は出てくるはずだ。昨日の今日でここまで調べられたのは、ひとえに晴香が下準備を整えていたからだろう。
「コ……コインロッカーに預けていたとかは……」
美玖の母親が震えた声で言う。
「コインロッカーですか。駅まで行かないとないですね。さすがに毎日持ち歩くのは難しいのではないですか? 先程、美玖さんのお祖母さんの許可を取りまして、お祖母さんのご自宅を家宅捜査させていただきました。……美玖さんが使ったヘッドギアは見つかりませんでした。その代わり、購入した時の領収書と品質保証書は見せていただきましたが」
先に反論を潰した形だ。
「というわけで、ご自宅も家宅捜索させていただきます。今すぐご一緒しましょうか」
そう言って令状を見せてきた。
「あ、皆様はお帰りいただいて結構です。後ほどお聞きすることがあるかもしれませんので、連絡先などを教えてください」
その言葉で良平たちは解放された。
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